第6話 彼の異能は
「二人ともお帰りなさい」
ヒロは二人を事務所の玄関で出迎える。あの後水野は秋に置いていかれながらも何とか木から降り、花を飛ばしていた秋のところに行って事務所に戻るのか聞くと、
「依頼が終わったら好きにしていいと前もって言われてる。ホテルならとってあるから好きにしろ」
と、言われた。
「秋はあの後どうしたの?何処かに行ったのかい?」
「中華街に行ってきました。これお土産です」
秋は紅棉のエッグタルトをヒロに差し出す。
「水野くんは殺さないことを選んだんだね」
ヒロは秋から貰ったお土産を物色しながら話す。
「はい、すみません。依頼を放棄した形になってしまって」
水野はヒロに向かって頭を下げた。
「頭を上げなよ、君に決めていいと言ったのは私だ。依頼主には復讐するまでもなく死んでいたと伝えて置いたから」
「はい」
「因みに帰ってきて早々で申し訳ないんだけど、今日も依頼があるからさ現場に行くよ」
「俺たち三人でですか?」
秋がヒロに聞く。秋的にはヒロと二人きりが良いんだがそうはいかないことはわかっているのだろう。
「そう、三人で出発だ。土産は事務所の冷蔵庫に入れておこう。後でみんなで食べよう」
ヒロは冷蔵庫に置いてから二人の背中を押して事務所を出る。
「詳細は歩きながらね、場所は近くだからすぐ着くよ」
秋と水野は道案内のため先導するヒロの後追いながら説明を聞く。
「依頼はこうだ」
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秋と水野がまだ横浜にいる頃。中年の男が事務所にきていた。
「本日は御足労いただきありがとうごさいます。さて、早速ですが今回の要件を伺いましょうか」
ヒロは依頼人をソファーに誘導し座らせて話を聞く。
「はい、私は伊藤と申します。本日は宜しくお願いします。実はですね最近弊社が持つ物件で相次いで死者が出ておりまして・・」
「ほう」ヒロは短く相槌を打つ。
「状況から見て完全に自殺だと警察も判断するのですが、それにしては不自然なくらい人が死んで行くんです・・。今回で六件目になります」
男は気が少し滅入っているようであった。それも仕方がない普通人の死というものはそう簡単に立て続けに会うものではない。
「はじめはモデルハウスとして建てられました。事の発端は三人の若い家族からでした。狭い土地をであれど不便さを感じさせないよう三階建てにした家で始めは何の問題もなく暮らしていたようです。しかし・・・」
「しかし、奥さんの方が段々精神を病んできてしまったようでして、当初は子育て疲れだろうという話になっていたみたいですが、それにしては要領の得ない感じだったようです」
ヒロはすかさず質問する。
「要領の得ないとは?」
「奥さんが無意識に言ってる言葉があるらしいんです」
「その言葉とは?」
「痛い、寒い、寂しい、などらしいです」
「なるほど、育児とはかけ離れたセリフですね。・・・話を続けてください」
男は頷いて話を続ける。
「奥さんがおかしくなってから半年ぐらいで奥さんは自殺しました。旦那さんは自分だけでは税金を納められないと言って家を売り払いました。二件目は事故物件ということもあって安くなったところをカップルが買いました。そのカップルは彼女さんの方がおかしくなっていき、彼氏を殺してから自身も自殺しました。三件目は中学生のお子さんがおかしくなり一家心中。四件目は事故物件にすみたいという変わり種の独身男性。五件目、六件目も似たような感じです。」
ヒロと男の質疑応答が続く。
「おかしくなってから死亡するまでの期間は全員同じですか?」
「いえ、段々短くなってきてます」
「六件目の時はどれくらいですか?」
「二週間ぐらいになります」
「その方が住んでから死亡までの期間は?」
「三週間です」
しばらくの沈黙が続いた。
ヒロが口を開く。
「はい、状況はわかりました。それでどの様にして欲しいのですか?」
「この不可解な事件を解決して欲しいのです。何故か人が死ぬこの現象を」
男はヒロに懇願する様に言う。
ヒロは男の目を真っ直ぐに見て捉える。
「わかりました。この依頼受けましょう」
「本当ですか!?」
「ただし、やり方に口出しはしないでくださいね」
ヒロは男に向かってニヤリと笑う。
「早速明日から取り掛かりたいと思います。場所と家の間取りと被害者の情報をわかる範囲で大丈夫ですので教えてください」
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「みたいな感じでね」
「そうなんですね」
水野と秋は黙ってヒロの話を聞いていたが水野は心の中で
「(何、その家呪われてません???)」とずっと思っていた。
「ついた」
例の家に着いたらしい。ヒロは足を止めて家を見上げる。
「なかなか良い家じゃないか、外見は。まずは下調べから始めようか」
ヒロは家の中に足を踏み入れる。
「内装も特に変わったところはないですね」
秋は先に行くヒロの隣か少し前を歩こうとするがなかなか出来そうにない。秋の気持ちとしては守らせてほしいから自分より後ろにいてほしいところなのだが、ヒロはその気がないようだ。
「ふむ、じゃあ、明日からここに皆で住もうか」
「は?」
水野は驚きを隠せなかった。いや、声に出すことはなかったが水野だけでなく秋も驚いていた。
「何を考えていやがるんですか!!殺す気ですか!?」
水野は思わずヒロの肩を掴み前後に揺らす。
「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫だったらこの家で死人は出ていません!!」
「正論だなー、でも大丈夫だ」
ヒロは水野の手をそっと肩から離す。ヒロの目はこの先を既に見通しているようであった。水野はその目をみて言葉が喉に痞える。
「さあ、社員旅行ならぬ社員お泊まり会だ。各自一度戻って準備してこよう。集合場所はここ、時間は2時間後だ」
Dawn front −ドーンフラァントゥ− 雪片ユウ @yukihirayuu
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