犬日和
紗織《さおり》
犬日和
桜が満開に咲く頃。
穏やかになった朝の気温が、もう少し一緒に布団に寝ていようと私を誘う。
少し前までしっかりと布団に入っていないと、寒くて目が覚めそうになっていたのに、随分と寝やすい気候になったなぁと思う今日この頃。
そして、私の枕元には、いつも一緒に寝ている愛犬のマロン。
彼は、私が起きた事に気が付くと、
(おはよう!)
と顔をペロペロと舐めて挨拶をしてくる。
「おはよう、マロン。今日も元気だね。」
私が挨拶をしながら、頭の上を軽く撫でてあげると、マロンはそのまま仰向けにゴロンとなって、
(もっと! それからお腹も撫でてよ!)
とおねだりをしてきた。
「あらあら、今日も甘えん坊さんが、朝から全開ですね。」
私は、この寝起きのマロンとの挨拶が、朝のルーティーンとなっている。
マロンが嬉しそうに、自分を信頼して体を預けてくれているのは、本当に可愛らしい。
そして私自身の気分も、彼と同じように、自然に明るくなってくるのだ。
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そういえば、あれはどの位前の事だったろう…?
前日の夜、不機嫌なまま布団に入った私が、その気分のまま翌朝を迎えた時の事だ。
いつものように朝の挨拶をして甘えて来たマロンに対して、
「朝からうるさいわね!少し離れてくれない。」
私はぞんざいな扱いをして、彼を横に手で押しやったのだった。
「くぅ~ん。」
マロンはとても寂しそうに、今までほとんど聞いたことが無かった声で小さく一声鳴くと、先に寝室からスッと出て行ってしまった。
完璧な八つ当たりだった。。。
その後に布団に残された私は、自分がしてしまったことの罪悪感から、
自分でも驚く程、気持ちが沈んでしまった。
そして私は、慌てて布団から起きると、先程マロンが向かった居間の方へと追いかけて行った。
「おはよう、マロン。さっきは本当にごめんね。」
窓際からベランダの外をジッと眺めていたマロンに謝りながら、私は彼に近寄って行った。
するとマロンは、すぐに尻尾をフリフリと振って、こちらを振り向いてくれた。
(・・・良かった。怒っていなかったんだ。)
心の中でホッとしながら、マロンの懐の大きさに心から感謝をしていた。
「ワンッ!」
私の顔を見ながら、彼は笑顔で一鳴きして、きちんと朝の挨拶をしてくれた。
その後は、おもむろにトイレの前までゆっくりと歩いて行った。
そしてマロンは、私の顔を見ながら朝のトイレをしていた。
実は、我が家のマロンの掟には『トイレを上手にしたら、ご褒美が貰える』というものがある。
マロンは、トイレを見事に成功させると、嬉しそうに私の元に駆け寄ってきた。
「すごいね!上手に出来たね。」
トイレのご褒美を欲しがる彼に、私はいつもより多めに、ご褒美のお菓子をあげた。
当たり前のように過ごしていた朝のひとときが、実はとても大切な時間だった事
を、心から実感した出来事であった。
犬日和 紗織《さおり》 @SaoriH
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