犬日和

紗織《さおり》

犬日和

桜が満開に咲く頃。

穏やかになった朝の気温が、もう少し一緒に布団に寝ていようと私を誘う。


少し前までしっかりと布団に入っていないと、寒くて目が覚めそうになっていたのに、随分と寝やすい気候になったなぁと思う今日この頃。



そして、私の枕元には、いつも一緒に寝ている愛犬のマロン。

彼は、私が起きた事に気が付くと、

(おはよう!)

と顔をペロペロと舐めて挨拶をしてくる。


「おはよう、マロン。今日も元気だね。」

私が挨拶をしながら、頭の上を軽く撫でてあげると、マロンはそのまま仰向けにゴロンとなって、

(もっと! それからお腹も撫でてよ!)

とおねだりをしてきた。


「あらあら、今日も甘えん坊さんが、朝から全開ですね。」

私は、この寝起きのマロンとの挨拶が、朝のルーティーンとなっている。


マロンが嬉しそうに、自分を信頼して体を預けてくれているのは、本当に可愛らしい。

そして私自身の気分も、彼と同じように、自然に明るくなってくるのだ。



**************************************


そういえば、あれはどの位前の事だったろう…?

前日の夜、不機嫌なまま布団に入った私が、その気分のまま翌朝を迎えた時の事だ。



いつものように朝の挨拶をして甘えて来たマロンに対して、

「朝からうるさいわね!少し離れてくれない。」

私はぞんざいな扱いをして、彼を横に手で押しやったのだった。



「くぅ~ん。」

マロンはとても寂しそうに、今までほとんど聞いたことが無かった声で小さく一声鳴くと、先に寝室からスッと出て行ってしまった。




完璧な八つ当たりだった。。。




その後に布団に残された私は、自分がしてしまったことの罪悪感から、

自分でも驚く程、気持ちが沈んでしまった。


そして私は、慌てて布団から起きると、先程マロンが向かった居間の方へと追いかけて行った。


「おはよう、マロン。さっきは本当にごめんね。」

窓際からベランダの外をジッと眺めていたマロンに謝りながら、私は彼に近寄って行った。


するとマロンは、すぐに尻尾をフリフリと振って、こちらを振り向いてくれた。


(・・・良かった。怒っていなかったんだ。)

心の中でホッとしながら、マロンの懐の大きさに心から感謝をしていた。


「ワンッ!」

私の顔を見ながら、彼は笑顔で一鳴きして、きちんと朝の挨拶をしてくれた。


その後は、おもむろにトイレの前までゆっくりと歩いて行った。

そしてマロンは、私の顔を見ながら朝のトイレをしていた。



実は、我が家のマロンの掟には『トイレを上手にしたら、ご褒美が貰える』というものがある。



マロンは、トイレを見事に成功させると、嬉しそうに私の元に駆け寄ってきた。


「すごいね!上手に出来たね。」

トイレのご褒美を欲しがる彼に、私はいつもより多めに、ご褒美のお菓子をあげた。



当たり前のように過ごしていた朝のひとときが、実はとても大切な時間だった事

を、心から実感した出来事であった。

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犬日和 紗織《さおり》 @SaoriH

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