日記帳を拾った

リュウ

第1話 日記帳を拾った

 僕は、着信音で目が覚めた。

 シャワーを浴びて、そのまま寝てしまったらしい。

 スマホに手を伸ばした。

「おい、ヨシオ、テレビつけろや!」

 でかい声に思わずスマホを遠ざける。

 テーブルの下に転がっていたリモコンを拾って、テレビをつけた。

「ミキ、ミキが遣られた」

 一遍で目が覚めた。テレビを見つめる。

 女子学生、刺される!の見出しだ。

<今日午後3時頃、何者かに複数個所刺され死亡しました。

 犯人は、まだ、見つからず逃走中です。

 ここの付近の方、外出を控えてください>

 レポーターが悲痛な表情で伝えていた。

 

「まじかよ。ミキが……」

 思わず声が出てしまう。

 ミキは、僕の彼女だった。

 二人とも今年同じ大学に入学したばかりだった。

 入学説明会の時に声を掛けたのが始まりだった。

 可愛かったので、直ぐに声をかけた。

 二人とも、地方から出でたので、一緒に学校や周りの街を散策した。

 誰よりも長く過ごしていた。

 明日が三月末なので、出会ってから丁度一年になる。

 僕のミキが死んだだと、誰が誰がやったんだ。

 僕は、部屋から飛び出していた。

 何処に行くかはわからなかったが、じっとして居られなかった。

 近くの公園に向かって、ブランコに腰を掛けると、片っ端から友だちに電話した。

 何件か電話しているうちに、タカハシの名前が挙がった。

 ミキに交際を申し込んで、断られたことがある。

 思い出した。

 ミキがしつこく付きまとわれて困ったと相談を受けて、僕が辞めるように話したヤツだ。

 ひょろっと背が高く、いつも大き目のメタルバンドのTシャツにジーパン。

 やけに長いバンドがだらしなく垂れ下がっていたヤツだ。

 確か、ゲーセンに通ってたはず。

 僕は、ゲーセンに向かった。

 自動ドアを過ぎると、暗めの店内には電子音で一杯だった。

 僕は、ヤツを探した。

 丁度、対戦ゲームの席から立ちあがったところだった。

 僕はヤツの方に向かった。

 五メートル前で、ヤツは僕に気づいた。

 僕に気づいて真顔になると逃げた。

「やろー、待てよ!」

 僕は叫んだ。ヤツは、少しだけ振り返る。

 エレベーター前に着くとボタンを連打している。

 ドアが開く、ヤツが乗り込む。

 僕がドアの前に来た時は、ドアが閉まっていた。

 エレベーターの回数表示は上へと向かっている。

 僕は、階段で追いかけることにした。

 各階で降りていないことを確認しながら、上へと追いかけた。

 屋上で止まっていた。

 屋上で回りを見渡す。

 ヤツが居た。

 デカい紙袋を持っている。

 僕が近づくと紙袋を振り回した。

「こっちにくるな!何の用だ!」

「お前、ミキを殺しただろ!」

 一瞬、ヤツの顔がこわばる。

「やってない、やってないよ」

 半分、泣いている。

 僕は、かまわず近づいた。そして、胸倉を掴もうとした時、ヤツは勝手に落ちていった。

 この五階の屋上から。

 下を覗くとヤツが倒れている。動かない。死んだか?

 僕は、そこから逃げ出していた。

 ここに居ては、ヤバイと分かっていたから。

 僕は、何もしていない。

 けれど、目撃者がいない。僕の無実を証言してくれる人がいない。

 疑われてもしかたない状況だ。

 足で何か蹴とばした。A5判程の本のようだった。

 拾ってみた。厚手の表紙の本だ、パラッとめくってみた。

 それは日記帳だった。

 今は、ここから離れたほうがいいと体が勝手に動く。

 走って走っていつの間にか家に辿りついていた。

 冷蔵庫から缶コーラを取り出し一機に飲んだ。

 汗が滝の様に流れる。

 床に腰を下ろし、日記帳をめくった。



 4月1日

 入学式で、カワイイ娘を見つけた。

 付き合いたい。ぜっていものにしたい。



 ヤツも入学式の時から、ミキを狙っていたのか。

 あとはずーっとミキのことが詳しく書かれている。

 まるで、付き合っているかのように。

 映画や美術館、水族館に行ったことが書かれていた。

 ミキがヤツとデートしていたのか?

 いや、そんなはずがない。

 僕と過ごしていたはずだ。

 空想?

 そう、これはヤツの空想に違いない。

 そうだ、直近はどうなってる?

 3月末のページを見つけ、めくった。



 3月28日

 最近、ミキの様子が変だ。

 他に付き合っているのかもしれない。

 ラインの返事もない。

 探したが見つからない。



 3月29日

 ミキを発見。

 ゲーセンに居た。

 男たちと楽しそうに話している。

 近づいたら、急いで逃げて行った。

 ラインが入った。

”もう、私に近づかないで”だって、ふざけるなよ!



 ライン?

 ラインする程の仲だったのか?

 僕は、ミキから訊いていない。

 ミキが、浮気していたのか?

 


 3月30日

 ミキのヤツ。

 ふざけやがって、他の男と付き合っている情報を入手。

 バカにしやがって!

殺してやる。

 殺してやる、俺を裏切ったらどうなるか、思い知らせてやる!

 殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる……。



 僕は、日記帳を閉じた。

 イカレテいる。狂っている。

 ミキが、他の男と付き合っているだって。

 それは、僕だ。

 でも、最近知ったって書いてある。

 ヤツがミキに交際を申し込んで、僕に断られたのは去年だから、最近じゃない。

 僕じゃないのか?

 ミキが、最近付き合っていたヤツって、誰だ?。



 日記帳を閉じたとき、何かザラっと手に触った。

 見てみると、乾いた血だ。それも、多量だ。

 僕は手のひらを見た。

 手が血だらけだ。

 びっくりして日記帳を落とした。

 日記帳の表紙が開いていた。

 何か文字が見える。

 目を凝らした。


 そこには、"ヨシオ”と書かれていた。

 足の力が抜けてその場に座り込んだ。


<着替えて、手を洗おう>

 僕はやっとの思いで立ち上がり、洗面所に向かった。

 そこには、血だらけのナイフとタオルでいっぱいだった。

 僕は、蛇口を開け、血だらけの手を洗っていた。

 洗面所の明かりが、血だらけの手を照らしていた。


 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえる。 

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日記帳を拾った リュウ @ryu_labo

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