【ラブコメ&ホラー?】誰と話しているの?

 これは僕が小学校に上がってすぐの頃の話。


 学校が終わった帰り道、探検ごっこのつもりでいつもと違う道を通って帰ろうとしたところ、校舎の裏で女の子が一人立っているのを見かけた。

 名前はまだ覚えていなかったが同じクラスの子だった。

 黒髪の綺麗な、まるでお人形さんみたいな子。

 いつも冷めた顔をしている子で、どうも近寄りがたい感じだったからまだ話をしたことはなかった。


 どうも彼女はこちらには気付いていないらしい。

 壁を向いたまま何かを喋っていた。


 何をしているんだろう。僕は気になってこっそり近付いていった。

 どうやら彼女は誰かと話をしているようだった。

 しかし、相手の声は聞こえない。

 彼女の周りには誰もいなかった。

 僕は心の中で首を傾げたが、ふと気が付いた。

 そういえばここ、この前に友達が話していた場所だ。


 この学校の七不思議の一つ、『首吊り男の松の木』があったと言われている場所。


 こんなところで何をしてるんだ?

 僕は少し怖くなった。

 と――後ずさりをした拍子にうっかり木の枝を踏んで、音を立ててしまった。

 彼女がハッとして振り返る。


「誰?」


 慌てたような怯えたような、そんな顔だった。

 その顔を見て僕はとっさに言った。


「そこにいる人、誰? 友達?」


 僕は自分にも幽霊が見えているかのような振りをした。

 ただその場から逃げ出すよりも味方だと思わせた方が怖い目に遭わなくて済みそうだと思ったのだ。

 それに、彼女がやっていることは怖かったけど、彼女自身のことは怖いとは感じなかった。

 いつもの無表情ではなくちゃんと感情が表れたその顔が何故かとても可愛らしく見えて、友達になりたいなと思ってしまったのだ。

 その時の状況を思い返してみると、そんなことを考えている場合じゃなかっただろうにとは思うのだが。


 しばらく彼女は黙ったままこちらを探るように見つめていた。

 けれど、やがて言った。


「……あなたにも見えるの?」

「うん。時々ここで見かける人だよね。怖いから話しかけたことはなかったけど」


 僕には何も見えてはいなかったけれど見えている振りを続けた。

 すると彼女は目を丸くした。


「本当に見えるのね。驚いたわ」


 それからいくつか言葉を交わしていくうちに僕たちは次第に打ち解けていき、夕方ごろにはすっかり仲良しになっていた。

 明日も遊ぼう、と僕が言うと、彼女は嬉しそうに頷いた。

 ただし、その日の別れ際に彼女はこう言った。


「私がここでこの人と話をしていたことは黙っていて。変な目で見られるのは好きじゃないし、きっとこの人も困ると思うから」

「わかった」


 僕も頷いた。




 そしてそれから十年以上経った現在。

 あの時のことを彼女に話すと、彼女は決まって顔を赤くして「いつまでもそんなこと覚えるんじゃないわよ!」と叩いてくる。


 どうやらあの時、実は彼女にも何も見えていなかったらしい。

 たまたまあそこにいた時にたまたま僕がやって来るのを見かけて咄嗟に幽霊と話をする変な子を演じていたらしいのだ。


 どうしてそんなことをしたかといえば、友達が欲しかったから。

 実は彼女は好きで冷めた態度を取っていたのではなく、友達の作り方がわからなかったらしい。

 それであんな演技をして気を引こうとしたのだそうだ。

 あの日のことは彼女にとっては人生一番の黒歴史になっている。

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