【冒険&ファンタジー】ダンジョン調査
「……これが、冒険者ギルドの言っていた古代遺跡か」
タラルが巨大な門を見上げて言った。
「そのようですね」
助手のライネルが頷く。
その隣にいた見習いのマチルダが呑気に歓声を上げた。
「わー、すごく大きい。私、遺跡型のダンジョンって初めて見ました」
まだ名前すら付けられていないその遺跡は、タラルたちの住む街から遥かに東、馬車でも十五日ほど掛かる場所にあった。
小高い丘の影に隠れるように存在していたためつい最近まで誰にも発見されていなかったのだ。
だが、新しい遺跡が発見されたのはいいものの少々困った事態が起きていた。
新しいダンジョンが発見された場合、そのエリアを管轄する冒険者ギルドが危険性を確認するきまりになっている。
そのためギルドは冒険者に依頼を出してこの遺跡の調査を行おうとした。
ところが、調査に向かった冒険者は誰一人戻ってこなかったのだ。
その話は瞬く間に冒険者の間に広まった。
ただでさえ新規ダンジョンの調査は報酬が低い。その上リスクも高いとなれば依頼を受けようとする者は誰一人いなくなった。
困り果てたギルドは半ば引退状態だった初老の大ベテラン冒険者であるタラルに声を掛けた
そんな訳で、タラルと助手のライネン、見習いのマチルダはこうして件の遺跡の前に立っていたのだった。
「大体こういう遺跡の場合は……ああ、この岩かな」
ライネルは入口の周囲を見回し、岩に擬態したスイッチに手を掛けた。
巨大な扉が音もなくスライドし、その口を開けた。
それを見て、タラルとライネルは何故か渋面をした。
「先生。これはひょっとして……」
「どうやらそのようだ」
二人の変化に気付かないマチルダは嬉しそうに手を叩いた。
「すごいすごい、動いた! それじゃ先生、これから中に入るんですよね?」
目をきらきらに輝かせ、物凄くわくわくした様子である。
しかしタラルは首を振った。
「いや、調査はこれで十分だ。扉を戻してさっさとここから離れよう」
「へ?」
「そうですね」
「え? ええっ? 何故ですか? 中を調べなくていいんですか?
マチルダが困惑していると、タラルが苦笑しながら言った。
「これは遺跡じゃない。現役の施設だよ」
「施設? 誰かが使ってるってことですか? モンスターとかじゃなく?」
マチルダが首を傾げる。
するとライネルが呆れたように言った。
「今の扉の動き見なかったのか? 遺跡の仕掛けだったらこんなスムーズに動くはずないんだよ。なにしろ長年放置されてきたから遺跡って呼ばれてるんだ。扉の仕掛けなんて途中で引っかかったり異音を立てたり、そもそも仕掛けが壊れてて全く動かないなんてことも珍しくない。これだけ見事な動きをするってことは確かな技術を持った誰かが定期的にメンテナンスをしてるってことなんだ」
「へえー、そういうものなんですか」
タラルがスイッチに手を触れた。
扉が先程と真逆の動作をし、ぴたりと隙間もなく閉じた。
「そんなところへ無断で乗り込んでいったらどんな目に遭わされても文句は言えないさ。ギルドにはこの事実を伝えて冒険者たちにここへ近寄らないよう周知してもらおう。誰も帰っていないことを考えると、どうやらここの連中は我々とあまり友好的ではなさそうだからね」
「ふーん、ちょっと残念ですね」
三人はそんな会話を交わしながらその場を後にした。
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