【コメディ】すれ違い
背後で何か物音がした。
なんだろう、と秀人が振り返ると、
「きゃあ!」
秀人が密かに好意を持っていた博子が立っていて、何故か悲鳴を上げられた。
口元を両手で抑え、顔を真っ赤にして秀人を見ている。
秀人は戸惑った。この時の秀人は別に変なことをしていたわけではない。
ただ、下駄箱で靴を履き替えようとしていたのだ。その際に小石が気になったがなかなか取れず、靴を持ち上げて中を覗き込んでいただけなのである。
しかし――と、秀人は気づいた。
今の状態、傍目には靴の匂いを嗅いでいるように見えたのかもしれない。
「ち、違うんだ、これは」
秀人は釈明しようとしたが、それより先に博子は口元を抑えたまま走り去ってしまった。
きっと変態だと思われた。
絶対嫌われた……。
秀人はその場にしゃがみ込み頭を抱えた。
博子は相変わらず口元を隠したまま、泣きそうな顔で走っていた。
なんで、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
花粉症なんて大嫌いだ!
博子は秀人が下駄箱で何をしていたのかなど見ていなかった。
こっそり想いを寄せていた秀人が一人でいるのを見掛けたから、ただ声を掛けようとしただけだったのだ。
ところがその直前に花粉症のせいで博子はくしゃみをした。
その弾みで漫画か何かのように数センチも鼻水が垂れてしまった。そして鼻をかむ暇もなく秀人に振り返られてしまったのだ。
絶対見られた。
結果、博子は悲鳴を上げ、口元を抑えてその場から駆け出した。
きっと汚いって思われた。
絶対嫌われた……。
博子はひたすら走った。校内を走り回った。
このほんの些細なすれ違いが校内の勢力をを二分する騒動となり、ソーシャルメディアを通じて世界中に伝染し、人類存亡をかけた大惨事に繋がることになるとはこの時は誰一人として知る由もなかったのであった。
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