第21話 ば れ た

「...どちら様?」


 何と言ったらいいか。これ以上俺の正体をバラスのもなあ...


「こいつは俺たちのゲーム友達だ。な!」


 おお、気が利くじゃないか『ICE』。


「...初めまして。これの妹です。『42510ヨンマンニセンゴヒャクジュウ』です。」


 なんか新鮮だなあ。俺も自己紹介するか。


「ああ、俺はクロスケって言います。よろしくね。」


 実名を名乗らなくて済むのはうれしい。今日は一緒じゃない、『男』のはずのゲーム友達と同じ名前の女が現れたら変だもんな。

 というか、百合ちゃんの名前...なんかの暗号?


「ああ、こいつの名前覚えにくいから42でいいよ」


 とタツ。


「で、どうする?これから俺らクエストするんだけどさ、よかったら42も来るか?」


 とサイモンが42を誘った。


「...うん。行く。」


 コクリ、とうなずき、42は鞄から刃渡り20センチくらいの大型ナイフを2本取り出す。刀身は漆黒で、まるで吸い込まれそうな魅力がある。


「...え?銃は?」


 俺は思わず問う。


「...ああ。クエストだとSRスナイパーライフルは使いにくいから。これでいい。」

「...まじか。」

「えぐいな...」


 俺と『sakura』が思わずつぶやいた。こういうところが規格外なのだこの子は。

 一度は言ってみたいね。銃?必要ないね。的な。

 というかメインウェポン、スナイパーなんだな。俺と一緒だ。


「じゃあ行くか。」

「「「おー」」」

_____

 俺たちは、世界サーバーではなく日本サーバーでクエストを受けることにした。chaosちゃんが来るまで待っているっていう約束もあるが、何よりここでクエストをすると確実に邪魔されるからだ。

 初心者の『sakura』でも確実にクリアするには国内サーバーだろう。

 というわけで、俺は一度クエストを行う前に『アカグロ』の拠点へ帰還した。


「ただいま...と」

「おーお帰り、早かったな。」


 そこには『Aki』しかいなかった。


「あれ、みんなは?」

「んークエスト行ったぞ。」

「アキさんは行かないの?」

「あー...ちょっと仕事があって。」

「え?ここゲーム内で仕事?」

「あー...まあ、な。リアルだと腰痛くなっちゃうし。」


 便利な時代になったものだ。


「そんな忙しいんですか?」

「ああ。全く最近おかしなことが起きてな。詳しくは言えないが。」

「ほうほう。」

「その対応で忙しくて忙しくて。はー...同名のやつが...そんなことありえるんかねー。」

「え?」

「あーいや、こっちの話。すまん。」


 社会人って大変なんだな。ずっと学生やっていたい。


「ああ、そういえば。武器取りに来ただけなんだ。急がないと。」


 俺がリビングのソファから立ち上がり、廊下に出て二階に上がろうとしたその時。


 ___コツ、コツ、コツ


 足音が聞こえた。ここにいるのは俺と『Aki』さんだけのはずだ。


「ふーん。あなたこの前『HAMAGUCHI』の動画に出てたし、何か怪しいと思ったら。」


 俺の前に立つのは百合ちゃんこと『42』。な、なんでここに!?招待した人しか入れないはずでは...

 そ、それに。あ、怪しい?俺が!?


「ゆ、百合ちゃん。怪しいって、なにが」

「あれ?私の名前を知っているのはお兄おにいから聞いたの?」


あーまずった。


「...ああ、そうだけど」

「ずいぶん、お兄と仲いいんだね。」


 しばらくの沈黙。すると、


「お兄に彼女なんかできるわけないと思って、あなたのことつけてみた。案の定、ほかのグループの一員。お兄につけ入って、物資を横領していた。」

「ち、違うよ!」


 カツカツと真っ黒いナイフを上下に動かす『42』。

 まずい誤解をされた。どうしたものか。


「も、もともとサイモンとタツと一緒にゲームする予定だった。でもサイモンが来るまでレベリングしようと思って...で、でもこのゲームソロプレイ厳しいから...ここに入れてもらってただけなんだって!」

「ふーんそれで?」

「...!え、えと、だから!あいつらとは...」

「リアルの友達なんだね。」

「え」


 あ、サイモン、タツとリアルのあだ名を出してしまった。やらかした。


「なんだ。最初から言ってくれればいいのに。『ユウキおにーちゃん・・・・・・・・・』。」


 はあ。でもやっとわかってくれたみたい...

 ...ん?


「ゆ、祐樹お兄ちゃん?」

「うん。そうでしょ?」


 ...ばれたー

_____

 どうやら百合ちゃんに隠し事は不可能なようだ。女体化のことは話していないが、俺が祐樹だということは話した。


「でも声も女の子だね。どうやったの?」

「ぼ、ボイチェンソフトで特殊な奴があってさ...はは、ネカマ楽しいかなーなんて...」

「?このゲーム、ボイチェン使えないはずだけど?」

「と、特別なやつ!」


 たすけてー。ヘルプ!ワイどないすればええねん。


「さっきから騒がしいな。どーした...誰?」


 先ほどから騒がしい俺たちの様子を『Aki』さんが見に来た。あーもうめちゃくちゃだよ。


「あ、えと、これは俺の友達で...」

「どうも、私はクロスケお兄ちゃn...」

「あああああああああああああああああああああ」


このアマァ!わざとやってんな!


「ど、どうした!?」

「は、はは。いや、ちょっと思い出したことがあっt...」

「あ、もう時間。忙しいので失礼します。」


 後で覚えとけよこのクソガキ...!

_____

 俺は自室から武器を取り、『42』とともに集合場所に向かう。


「...あの人もネカマ仲間なんじゃないの?」

「ちっげーよ!」


 あー...寄りにもよって残っていたのが『Aki』さんだったからな...

 あの人、見た目は茶髪ポニテの美少女だけど、声男のままでVCしてるから...

 俺のバイクの後ろに乗る『42』はしばらく黙った後、俺に話しかける。


「...ねえ、次はいつうちに来るの?」

「...タツから聞いてないか?」


 今の俺の体はこんななので、男としての祐樹は父と一緒に海外に引っ越したということにしてある。その設定は当然タツとサイモンに言ったはず。


「知ってるよ。」

「...え?」

「海外に行ったことは知ってる。」


 一瞬びっくりしてしまった。

 この子は頭が良すぎるので、一言一言が本当のこと知っているのではないのか?と思ってしまう。


「...『またね』、とか、お別れの言葉くらい、言ってほしかった。」

「...ごめん。」


 空気が重い中、集合場所に到着した。


「おーお前ら遅かったな。」


 のうのうと言いやがって『ICE』この野郎。


「おいお前!ちょっとこっち来い!」


 俺は「?」みたいになってる『sakura』を背に、『ICE』の首根っこをつかんでずんずんと少し先に進む。

 

「おいてめぇ!百合ちゃんと微妙な空気になったじゃねえか!なんで俺についてきてんだよ!止めろよ!」

「あ、あ、すまん。」


 俺は『ICE』の首に腕を回し、腕で首を絞める形で言った。


「百合ちゃんにバレるのも時間の問題だって!お前どうにかしろ!」

「ちょ、んな無茶苦茶な!」


 しばらくあーだこーだ言った後俺は『ICE』を開放した。全く。


「な、クロスケさんや。」


 『sakura』と『42』のもとへ向かおうとした俺を『ICE』が呼び止める。


「まだなんかあんのか?」

「そのアバターいいな!めっちゃ感触が柔らかかったぞ!」


 殺す。

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元ネカマ現在美少女プレイヤーの日常 赤ブドウ @Sekibudou02

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