第20話 おっぱいは戦闘で邪魔やねん

 俺たちは今、タツこと『ICE』のクソでか基地内の訓練場にいる。

 地下なのに青い空が見え、太陽が燦々と照り付けている。どうなってんだこれ。


「ようこそ俺の訓練場へ!」

「金かけてんなー」

「俺にも金よこせ」

 

 俺はともかく、サイモンこと『sakura』は先程始めたばかりで金欠なので分けてもらいたいのだろう。

 とりあえず、俺たちは一回戦ってみることにした。


「制限時間20分で武器はARアサルトライフルな」

「おお緊張して来た!!」


『sakura』はテンション爆上がりである。


 【3、2、1、スタート!】


 アナウンスがカウントダウンを言い終えると、俺の視界は森の奥深くへと切り替わった。

 どうやら訓練場内にランダムテレポートしたようだ。

 早速走り回るのもアレなので、背を低くしてなるべく見つからないように進む。このマップはそこまで広くないので、接敵しようと思えばすぐできるだろう。


 しばらく歩いていると...


 ババババババババン!


 銃声である。

 もう戦闘しているらしい。


「ふははははは!甘い甘い!今日食べた百合の卵焼きくらい甘い!」


『ICEは』初心者である『sakura』を容赦なく射殺した。ひどい!だが奴は調子に乗って警戒を怠っている!


「後ろだ!バァカ!」

「のわっ!」


 へへ!ざまあねえな!蜂の巣にしてやったぜ!ワンキル!


「何してるんだいお嬢さああああああ、あ、ああああああああ!」

「なあサクラ、俺を奇襲したつもりか?甘い!今日タツから分けてもらった百合ちゃんの卵焼きより甘い!」

 

 何で卵焼きの話が出てくるか意味がわからないけど、うっざいなこの煽り!

 俺は俺に奇襲して来た『sakura』の弾丸を限界まで上がった俊敏力で走って避けた。偏差撃ちが甘いぞ!

 そしてそのまま、『sakura』の方へ適当に弾を撃つ。しっかり狙わなくていい。とりあえず弾を避けて一旦隠れる。


「くそ、隠れたか。」


『sakura』もどうやら隠れたらしい。このままでは膠着してしまい、『ICE』が来たらさらに面倒になってしまう。凸ろう!

 俺は木の影から飛び出して、姿勢を低くし走る。限界まで上げた俊敏力で地を蹴り銃を構える。


 「うお!?」


『sakura』は驚いて俺に発砲する。だがしかし、俺は素早く近くの木に隠れることに成功...しなかった!


「あ」

 

 この女アバター、俺のリアルほどではないが乳が結構ある。身長そんなデカくないのに!

 そして、その男にはない膨らみの横に弾丸が直撃した。

 大きく減る俺のHP。くそ!こうなったら...


「おいおい、どうしちゃったんだい?被弾してしまったのかい?」


 くっそ腹たつ...やっぱ女アバターにしなきゃよかった!

 今のところ、女アバターにしてよかったことなんて...

 あ、chaosちゃんこと、ミクちゃんと仲良くなれたのはよかったことか。他は知らん。

 段々と俺に近づく『sakura』。そして...


「もらったああああああ...あ?」

「上だぞばああああか!」


 被弾した俺はHPの回復を後回しに、木の上に登っていた。そして、『sakura』を上から強襲したのである。だが、俺のHPも結構減っていたので...


 ババババババババン!!

 パスッ!


「くそっ...」

「相打ちかよ...」


 俺の撃った弾丸は『sakura』の額を貫いたが、倒れ側にヤツが放った弾丸が俺の首に命中する。

 そしてHPがなくなって二人揃ってリスポーンした。


「あと16分!おっしゃ、ここからここから!」


 ガサガサ...


 お、また接敵!


「...」


 お、どうやら次は『ICE』のようだ。こいつはゲームめっちゃうまいが、FPSは俺の方がうまかった。でもよくわからん地味なゲームとかもうまかったんだよなこいつ。


「よお!調子どうだい?」

「...」


 てかなんでこいつ黙り込んでんだ...?俺が話しかけてもうんともすんとも言わない。集中してんのか?


「...なあ」

「あ?」

「...これ撃っていいの?」

「え?」

「隠れ切れてませんが」


 ...俺の胸が木陰からはみ出していた。ちくしょうこのアバター嫌いだ!

_____

 この後、俺は何回か二人に接敵したが、俺のプレイスキルを見せつけてやった。

 他ゲーで俺は脅威のキルレート4であり、二人をボッコボコにしてたからな!

 ちなみにキルレートというのは、一回の死亡に対して相手をどれだけ倒せたかの数値だ。

 このゲームではキルレ4どころではないだろう。狙撃で100人以上倒しているわけだからな!


「...はあ」

「ま、まあ次アバター変えられる機会あったら...胸小さくすればいいじゃん」


 なんで初期設定からでかいんじゃ...運営の好みが透けて見える。

 タツみたいな運営がいるんだな...


「おいこらなんか失礼なこと考えなかったか?」

「うっせえ犯罪者!」

「あ、そういえばこの後どうすんの?」


『sakura』が俺と『ICE』に問いかける。


「そうだなあ...俺自慢の高級車に乗ってドライブでも行くか!?」


『ICE』の自慢話を永遠に聞かされそうだ。


「俺クエストに行きてえよ」


 と『sakura』。まあ初期装備のままだしな。


「アイスが金分けてやればいいんじゃない?いっぱい金持ってるだろ」


 と俺が提案する。暫く神妙な顔つきでうーん、と考え事をすると、


「よし、お前にはとっておきの武器をやろう。金も分けてやる。」


 と『ICE』が了承する。そして鞄をあさり、少し俺の持つライフルより小さめの銃を取り出した。


「こいつは『小型電磁加速銃R-4』。通称レールガンだな。」

「うおおお!かっけえ!」


 レールガン!ロマン武器じゃないか!


「銃弾がとんでもなく安い!そして威力もバカみたいに高い。フルオートのように連射ができないのが難点だな。でも、およそ4秒に1発打てる。」


 暫くして『ICE』が説明を終わらせると、『sakura』は嬉しそうに受け取った。

 俺が羨ましそうにその様子を見つめていると、


「...お前にもまた今度なんかやるよ。」


 と言われた。やったぜ。


「じゃあクエスト行くか...ん?」

「アイス?どうした?」


 俺が問いかけると、『ICE』は何かに気づき、このクソでか拠点のマップを眺めている。


「百合がきた。」


 百合ちゃん...彼女はタツの妹であり、天才である。文武両道で知能明晰、容姿端麗というハイパー属性の妹ちゃんである。そしてゲームがバカみたいにうまい。まあ若干人付き合いが苦手だが。

 俺とサイモンは彼女とゲーム友達である。

 何回かゲームを共にやっているが、勝ったことはほんの1、2回しかない。

 マップを見ると、『42510』というネームタグがこちらに近づいて来ている。これが百合ちゃんだろう。

 扉が開く。そして小柄な少女がこちらに歩いて来た。


「...剛、ひさしぶり。」

「おう、百合ちゃんも元気そうで。」

「...元気ではない。寝不足。」


『sakura』と会話する彼女はどこか気だるそうであった。まあいつもとあんまり変わってないけど。

 こっちのアバターは、長い銀髪を伸ばした黄金の瞳が印象的な美少女である。顔はあまり変わっていない。

 そしてとても目立ちそうなオレンジパーカーに長ズボンといった格好をしている。この格好で戦闘するのか?


「...どちら様?」


 俺の方を見て彼女は言った。

 あ、そうか。俺、女になってからまだ会ってなかったわ。どうしよ。

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