第18話 初めまして
月曜日。週の始まり。学生や社会人はこの日を最も嫌う。
ここ
だが、1年2組の生徒たちは、いつになくそわそわした様子である。
教室の隅の席に座る眼鏡をかけた大柄な男子生徒。男の名前は
彼は生粋のオタクである。ゲームが好きで、特にギャルゲーや音ゲーなどをこよなく愛していた。
「アイカちゃんの攻略には30時間以上かかったのですよ。いや、最近のゲームは完成度が高いですな。」
「そうなんだなあ。僕もやってみようかなあ。」
彼はオタク友達の
「ところで力君、今日来る転校生はどうやら女子らしいんだ。」
晴翔が長い前髪から目をのぞかせて言うと、力は眼鏡をクイと持ち上げてつばを飲み込む。
「ほほう。」
「もうじき来るんじゃないかな。見てよ、陽キャたちもそわそわしてるよ。」
「ほ、本当ですな...どんな方が来るのでしょうか...」
「かわいかったらいいね。」
二人がこそこそと話をしていると、彼らが言う陽キャたちの話し声が二人のもとにも聞こえてきた。
「おおおおい嘘だろ~!!
「もうおせーよ!じゃあそういうことで、
「そうだよwwwジャン負けしたんだから観念して行けよwww」
「ウケるwww」
楽しそうに話す男女数人グループ。どうやらじゃんけんで負けた隆輝という男子が転校生に一番初めに話しかけに行くようだ。
「...オタクに理解がある女子とか来てくれないかな。」
「笑止。わたくしもさすがに身の程をわきまえていますよ。」
力も晴翔もクラスの女子とも話したことは片手で数えるほどである。転校生がどんな人物かは楽しみにしているが、正直女子ともなれば関わることなんてないと内心思っている。
「アキT来たぞ!」
その生徒の声でみんな一斉に自分の席に着いた。それからすぐに、教師が教室に入ってくる。騒がしかった教室がスッと静かになった。
ちなみにアキTというのは、教師の名前の「アキト」とTeacherの頭文字のTからついたあだ名である。
「みんなもう知ってるかな?このクラスに転校生がやってくることになりました。」
おー、と皆から期待の声。
「じゃあ、入っていいよ。」
タン、タン、タン
足音が静寂に包まれていた教室の中で鳴り響いた。
教室内の生徒は教室に入ってきた彼女から目を離さない。いや、離せない。
「ど、どうも。えっと、くr...
思わず息をのむほど可憐な少女は、落ち着かない様子できょろきょろと教室の中を見ていた。
一瞬彼女はびくっとしたようにも見えたが、そのあとは落ち着いて先生の話を聞いていた。
「東雲の席は、えーっと...あの後ろの席かな。視力とか大丈夫かな?見える?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
彼女は自分の席に着いた。その後も、しばらく教室は静寂に包まれていた。
______
一時限目 現代文
いや、やべえ。めちゃめちゃ緊張したぜ。俺の前のクラスは4組だったから、2組の人はタツ以外ほとんど知らない人ばかりである。まあ、それはそれでボロが出ることはないし、かえって良かったのかも?ちなみにサイモンは1組である。
自己紹介の時はタツを探してきょろきょろしていたが、一番前にいたのでびくっとしてしまった。恥ずかしい。それに黒木って言いかけたし。
「東雲さん?あなたの番ですよ?」
「はいっ!え?」
おっと、音読中であったか。どこから読むんだ?全く聞いてなかった。
俺がしばらくおどおどしていると、
トン、トン
右から音がした。
「...」
俺の右隣の太った眼鏡の男子が、教科書を指でコツコツしていた。
「...!それの近くの白い灯りが...」
サンキュー眼鏡!!
______
一時限目終了後の休み時間
「よう、どこの高校からきたん?俺は隆輝っていうんだ。よろしく。」
「あ、うん。よろしく...」
陽キャ男子に話しかけられた。俺は中身陰キャだから優しくしておくれぇ...
「祐樹ちゃんかわいいね!美人って言われない?」
続いてはギャルたちの集団だ。高身長のきらきらした女子たちに俺の席は囲まれていた。
「ん、ど、どうだろう...?」
俺があたふたしていると、そのギャル集団をかき分けるようにして一人の女子がやってきた。お、この人は俺も知っている。
「祐樹ちゃんよろしく。私、
この女子の名前は佐々木夢叶さん。みんなの人気者だ。責任感が強くて面白い。男子にからかわれてもやり返すくらい気が強い...というか元気。そして美人さんである。身長は160㎝程とやや高く、長い茶髪をおろしていた。
「よ、よろしく。」
淡白な返事をすると、続けて夢叶さんは話しかけてくる。
「ちょっと立ってみて!」
立った。
「ちっちゃい!かわいい!」
えぇ...
夢叶さんとは別の女子が俺の頭に手を置く。
「髪の毛サラサラだね!シャンプーなに使ってるの!?」
しゃ、しゃんぷー?
「あ、あの、親が買ってきてるやつ使ってるからわかんないというか...」
Oh!もう俺はだめだ!助けてくれタツー!こら、親指を立ててにこやかな笑顔をするな!
キーンコーンカーンコーン
た、助かった...
______
二時限目 数学
一週間休んだだけでこれだ。もうやだ。あとでタツに教えてもらおう。二次関数?何を言ってるんだ。
「わからない人は成績上位者や先生に聞いてくださいねー。」
あー頭痛い。
早く終わらないかなー。
______
二時間目終了後の休み時間
「祐樹ちゃん、次体育だから着替えるんだよ!更衣室はあっち!」
夢叶さんが教えてくれた。
キマシタワー!
まあ俺は陰の者なので、お約束のキャッキャウフフはできないだろうが。
「東雲さん?」
「あ、ごめん」
男子更衣室の前で90度カーブをして女子更衣室に入る。危ない、間違えるところであった。
更衣室に入ると、すでに俺たち2組の女子が着替えていた。
...あれ?みんなちょこちょこ話しているだけで想像していたイチャイチャは行われていない。まあ、大体想像はついていたがな!実際はこんなもんよ!
俺は隅っこでささっと着替えて体育館に向かった。
______
三時限目 体育
「今日も前回に引き続きバレーをしますよ。」
体育は、1組女子との合同バレーであった。男子は隣でバスケである。
俺は運動がとても苦手である。いうまでもなくダメダメであった。
「ゼェーハァ...」
「だ、大丈夫?」
夢叶さんに心配された。俺は男の頃より体力が落ちていた。
一方夢叶さん、動ける。というか、クラスの中で一番上手だった。
「祐樹ちゃん運動苦手なんだね」
「う、うん...」
まあ普段から外でないし。ゲームばかりしているし。あと、跳ねると胸が痛いんだ。
この後、俺は気を使われてずっと見学していた。
...動かないと太りそうだしもうちょっと運動しよ...。
______
四時限目 英語
「リスニングノート出してー」
ない、ない、ない!忘れた。
「大丈夫ですか?」
俺があたふたしていると、隣の例の眼鏡が話しかけてきた。
「いや、その...教材忘れちゃって...」
「貸しますよ。どうぞ」
「え、机くっつけて見せてもらえばそれで...」
俺がそう言うと、
「いやいや。恐れ多くてそんなことできませんよ。わたくしは隣の友人と一緒に見ますのでどうぞ、お使いください。」
と言ってノートを押し付けるようにずいっと出した。
「お、おう。」
なんか断っちゃいけない気がしたのでお言葉に甘えて借りることにした。
______
昼休み 昼食
「おい、屋上。」
「遅い!」
タツが俺を屋上に誘った。屋上に行くと、結構たくさんの人たちが弁当を食べている。
奥のほうに行くと、サイモンが待っていた。
「おせーよお前ら。」
「いや、思ったより祐樹が人気者でなー」
「ちっげえよバカ!四時限目の英語が長引いただけだっつーの!」
いつものやり取りで安心した。だが、
「なあ祐樹。女子の友達作らないとまずいぞ。こんなとこで俺らと飯食ってて大丈夫なんか?」
とサイモンが言った。
「え、やっぱまずいの?」
「女子は男子のように緩くないぞ。仲良しグループなんて大抵決まっているからな。女子でボッチは男のそれよりはるかにつらい。」
「そ、そんな?」
不安になってきた。
「ほら、そうと決まれば早くいってこい。放課後は一緒に帰ってやるから。」
俺は来たばかりにもかかわらず、そそくさ屋上を後にした。
...
「あいつ大丈夫かな?」
「平気だろ。見た目だけはかわいいんだし。それに」
___あいつは俺たちが思っているよりずっと強いよ。
______
「あ!祐樹ちゃん!どこ行ってたの!?」
俺が教室に戻ると、夢叶さんと別の2人の女子が話しかけてきた。一人は背が大きい。身長160cmくらいだろうか。もう一人は背が低めである。といっても、俺よりは大きい。
「あ、夢叶さん...」
「さん付けしなくていいよ!気軽に夢叶って呼んで!」
「じゃ、じゃあ...夢叶...?」
「かわいい!」
にこやかに俺の肩をたたく夢叶。痛いです。
「私は
背が小さめの肩まで髪を伸ばしたショートの子が名乗った。
「ウチは『結ぶ』に『良い』って書いて
背が高いポニーテールの子も丁寧に名乗った。ここは一応俺も名乗ったほうがいいかな?
「えと、東雲祐樹です。」
「知ってるよ?」
「うう」
日稀に突っ込まれてしまった。
そうですよね!最初に自己紹介しましたよね!
「一緒にご飯食べよ!」
夢叶に俺は手を引かれ、一緒にご飯を食べることになった。
______
「おr...私は人付き合いがそんなに得意じゃないほうなので緊張したというか...」
「最初はみんなそんなもんだよ!」
「そうそう。日稀なんて最初のほうはずっと隅っこで本読んでいたもんね~」
「ちょ、ちょっと...まあ否定できない...けど...」
ほう。そうなのか。
見た感じこの三人はバラバラなタイプである。
夢叶は元気で明るい。
日稀は内気で静か。
結良も元気だが夢叶とは違うタイプである。なんというか、夢叶より知性があるというか...
「結良は頭いいの?」
「お、お目が高い。結良はテスト順位一桁だよ!」
「うん。結良は天才。」
「え!?」
どうやら当たったようだ。あとで勉強教えてもらお。
「私たちの話ばっかじゃなくて、祐樹ちゃんの話も聞きたいな」
「ちゃ、ちゃん付けはちょっと...同じく呼び捨てで...」
「ふむ。りょ!」
といっても、何を話せばいいんだ?俺がしばらく黙っていると、
「どうしてそんなに胸がでかいんだ。」
と日稀が言った。
「アハハ!ウケる!日稀直球すぎ!」
「ハハハ!でも気になるな!日稀は背も胸も小さいから教えてあげてよ!」
夢叶と結良は大うけである。一方背も胸も小さいと言われた日稀は俯いてプルプルしていた。
「気づいたらこうなってた。」
俺は答えた。間違いではない。
「ぶははははは!!気づいたら胸が育たなくなっていた日稀さん、参考になりましたかね?」
「お、お腹痛い!ていうか育たなくなった、じゃなくてもともと育たない、でしょ!」
「ンンンンンッッ!!」
日稀がキレた。夢叶の長い髪と結良のポニーテールを鷲づかみ、ぐっと引っ張った。
「プッ」
俺も思わず吹き出すと、こちらにもヘイトが向いてしまったようだ。俺のもとにずんずん忍び寄ると...
「こんな邪魔なものいらない!!いらないもん!!身長は勝ってるもん!!」
胸をがっしりつかんできた。
「ちょ、やめッッ」
「ぶははははは!」
「ちょ、日稀落ち着いて!」
結良に取り押さえられた日稀はまだじたばた暴れていた。相変わらずずっと笑っている夢叶は笑い終えると、
「さっきのめっちゃエロかった!」
と一言。
「う、うるせ。」
初日でこれである。なんていうか...心配しすぎだったな。
2組に来れてよかったと心からそう思った。
______
特に問題なく午後の授業が終わり放下。
「祐樹はどこに住んでるの?」
日稀に声をかけられた。
「ここら辺。」
スマホで地図を見せる。
「意外と遠い...」
「お、なに、もう仲直りしたの?」
夢叶である。
「最初から喧嘩してないし。」
「別に胸はいらないし。」
「リズムいいね」
そんなあほらしいことを言っていると、委員の仕事を終えた結良もやって来た。
「そういえば祐樹ってどこら辺に住んでるの?」
「ここら辺だよ。」
日稀に見せたように地図を二人にも見せる。
「あーそこらへんか。ウチの家と反対方向だ。」
「私とは近いね!」
どうやら夢叶の家と近いらしい。
「今週末みんなで集まらない?歓迎会やろーよ!」
歓迎会...
「どこでやるの?」
「んー。私んち?」
女子の家...それも人気者の美少女、夢叶の家で遊ぶのかあ。ハードル高いなあ...
「主役なんだから祐樹は来てよね。」
「あ、うん。はい。行かせてもらいます...」
頑張ろう。俺も今は女子だし、何らおかしいところなんてない。
それにしても、女子って何して遊ぶんだ?ゲーム機とか一応持っていくべきなのか?
______
帰り道。俺はサイモンとタツと二人で帰っていた。
「どうよ、女子とは仲良くやれてる?」
「ん、順調。」
俺とサイモンが話していると、タツが
「しかし、仲いい友達が委員長のグループとはねえ。うらやましいったらありゃしない。」
と俺に言った。委員長とは結良のことだ。
「うらやましいって、なんで?」
「そりゃ、みんなかわいいじゃん。学年で一二を争うレベルの美少女集団によくもまあ...」
「へー。祐樹、夢叶ちゃんたちと仲いいのか。その二人と一緒にいるあの背が低めのショートの子もかわいいよな。」
そんな人気だったんだな、あいつら。俺は夢叶を除き始めてそんなこと聞いたぞ。
「俺、今までそんなの知らなかったぞ。」
「まあお前、前まで陰キャだったしな。」
「だな。」
ひどい。
「誰かひとり紹介してくれたりとか...」
「えー」
いつものように三人で、バカな話をして、俺たちは帰り道を歩いた。
この関係が、ずっと続いたらいいな。
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ここで少し人物紹介
茶髪の長い髪をおろしている。元気で明るいみんなの人気者。顔立ちも整っていて、スタイルもいい。身長は160cmほど。好奇心旺盛でぐいぐい来る。一人称は『私』。
少し内気な身長低めの美人。黒髪を肩まで伸ばしたショートカット。前髪は水平に切りそろえてある。身長は153cmほど。素直で思ったことがすぐに口に出る。だが意外としっかりしている。意外と腹黒い。一人称は『私』。
黒い髪を後ろで縛ったポニーテールが特徴的な美人。身長は162cmほど。元気だがしっかり者で、学級委員を担っている。だが意外と天然。実は隠れオタクだったり...。一人称は『ウチ』。
誇り高きオタク。ぽっちゃり体系の眼鏡。美少女が大好きだが、とても紳士的。身長は172cmほど。一人称は『わたくし』。
力の友達。前髪が長く、力と対照的に細い。身長も163cmほどと控えめ。「主人公みたいな名前」と、自分の名前に誇りを持っている。一人称は『僕』。
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