第17話 VS配信者

【HAMAGUCHI】


そいつは、俺がスコープ越しから覗いているとも知らず、のうのうと歩いていた。


「撃つか。」


いつも自分だけが一方的にキルできると思ったら大間違いだ。不意打ちしてぶっ殺してやろう。




カシュッ




______


「...」


金髪にピンクのメッシュが特徴的なその男ハマグチは、動画のネタを考えながら街を歩いていた。


「おーあれハマグチじゃん!」


「ほんとだ、お前話しかけてこいよ」


少し離れた位置からハマグチの視聴者らしき人が話している。そんな人たちを、彼は無視して歩く。


「次も適当なVCプレイヤー狩るか。」




パリィン!




「あ?」




ハマグチは、突如として自分に展開していたシールドが割れたことに気づいた。


彼は、自分に挑んできたプレイヤーを探しながら、配信を開始した。


「どうも、ハマグチです。今動画のネタを考えていたんですけどね」




パリィン!




二枚目のシールドが割れる。




「このように!絶賛攻撃されています!突然ですが!」


彼はニヤッと笑い、


「今日はね、こいつをボコっていきます!」


高らかにそう宣言した。


______


「嘘だろ、二枚目かよ」


すでに二回頭に当てている。が、ハマグチに弾は届かなかった。どうやら、不意打ちを防ぐアイテムか何かを持っているのだろう。




カシュッ




パリィン!




「くそったれ!」


三枚目だ。おそらくもう場所は特定されている。早くビルを降りなければ!




ドカーン!




ロケット弾が飛んできた。い、急がないと...


俺は素早く階段を降りる。ステータスポイントはすべて俊敏性に使い、階段を落ちるように降りる。地上に着いた。俺はすぐさまバイクにまたがり走る。


「発見~!」


大きな男の声が背後から聞こえる。ハマグチだ。彼は俺のバイクの後ろからスポーツカーで追ってきていた。


「ダイジョブですかー?遠距離しかできないんですかー?」


後ろから銃弾が飛んでくる。俺は何とかカーブなどを使いかわす。


「くーるーなー!」


俺は持っていた爆弾をすべて後ろにばらまく。


「やっべ」


後ろで爆発音が響く。倒せただろうか?いや、あのハマグチだ。プレイスキルだけはある彼なら、あれをよけてまだ追ってきているかもしれない。俺は確認せず、そのまま走り去った。


______


...ま、巻けたか?


中央ビルに駆け込んだ俺は、部屋の端のほうに隠れた。


建物の中にいれば、マップには表示されない。見つからないうちに拠点に帰ろう。


「なあなあ、ハマグチが戦ってるやつ、俺らも探さね?」


近くにいる男グループがそんな話をしている。


「ぶはは、見ろよ、ハマグチリスポーンしてすぐにまた殺されてる!」


あれ?リスポーンってことは、先ほどの爆発で倒せたのか?というか、ここゲームで配信見れるのかよ!


まずい。すでに配信を見ている人たちは俺のネームタグも見ただろう。ネームタグは頭の上にも表示される。ここにいるのは危険だ。


俺はすぐさまビルから飛び出し、バイクにまたがって一直線に帰還した。


______


「た、ただいま」


「おうおうどうした」


Abuzoruが玄関に飛び込んできた俺を見て声をかけてくる。


「ハマグチに喧嘩売った」


「はあ!?」


彼の驚いた声につられて、みんなもやってくる。


「Kurosukeさんどうしたん?」


「ハマグチに喧嘩売ったってさ」


「「「「はあ?」」」」


なんかそんな反応されるとすごく申し訳なくなってくる。


「意外と狂犬だよねKurosukeさん...」


「すげえよ。ほんとに、すげえよ。」


AkiさんとHAGANEさんは頭を抱えた。いや、ほんと申し訳ない。


「...どうするの?」


SWZさんは俺に聞いた。


「多分巻いたと思う。あ、もうこんな時間...今日は遅いのでログアウトさせてもらっても...」


さすがに身勝手すぎるかな?


...


「まあ、しょうがないか。いいよログアウトして。俺ちょうど戦いたかったんだよね。」


SWZさんはどうやら許してくれるらしい。


「じゃあ俺もちょいと配信に映ってきますわ。」


「ま、まじかよお前ら...」


Abuzoruも戦う気らしい。Itachさんは乗り気じゃないみたいだけど。


「明日月曜だしな。もう5時過ぎてるし。また明日な。あと、PKする相手は選んでくれよ。」


「す、すみません」


明日はいよいよ学校なので、早めに準備しないといけないから助かった。俺はそそくさログアウトした。ハマグチの配信ちょっと見てみるか。


______


「多分逃げたわ。惜しかったのになー」


ハマグチは悔しそうにしていた。




《草》


《名前は覚えた》


《しっかりしろよー》




配信のコメント欄は笑う声、応援する声などさまざまである。まずいなあ、目つけられたっぽい。しばらくおとなしくしておくか...




さて。明日はいよいよ学校である。どうやら今の苗字『黒木』ではなく、母の家の苗字『東雲しののめ』として学校に行くことになるようだ。自己紹介の際に間違えないようにしないとな。


最大の壁、女の子の日対策もばっちりだ。先日、恥ずかしながら母に教わった。いや本当に恥ずかしい。幸いまだ一度も到来してはいないが、時間の問題だろう。


あと、防犯ブザーを持てと言われたときは何事かと思ったが、結局持たされた。仕方ない、美少女だし。


「ね、眠れん」


緊張で眠れなかった。今までとは違う。性別自体が変わってしまったのもあるが、この前まで共に過ごしてきた友達とも、また一からやり直しなのだ。すべてが初めての環境。緊張しないはずがない。


俺はしばらく眠れず、ベットの上で目を瞑っていた。

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