第16話 狙撃
今日は日曜日だ。起きたら午前11時を回っている。
明日はいよいよ学校。入学して三か月で作った高校の友達との関係もまた初めからやり直し。まあ、サイモンとタツがいるから大丈夫だ。ちなみに、その二人とは中学校から一緒である。
俺は、『祐樹の義理の妹』という設定で入学するらしい。名前が一緒だし、少々おかしい気もするが。
お昼までアカグロのみんなはいないし、それまでWeRobeでも見るか。
お、あの例のハマグチが新しい動画を投稿している。タイトルは...
『【バットコミュニティ】新しいPK術!煽り度100パーセント!』
ほう、見るか。どうやら編集した動画らしい。いつもやっている配信のアーカイブではないようだ。
動画を再生する。
「はーいどうもハマグチと申します~」
やる気のなさそうな緩い挨拶をする若い男。一人称カメラなので、どうやらバットコミュニティの中らしい。視界録画というやつだ。
「今回はね、このゲームならではのね、悪質な嫌がらせをね、しようかなと、えー思います。」
話し終えると、いきなりバックパックの中からホーミングランチャー(通称ホミラン)を取り出し、通りがかった人めがけて放つ。
バコーン
ホミランを撃たれた人は吹っ飛び、そのままHPが0になった。
「えー今のは関係ないです、じゃあ、今から紹介しますねー」
通りがかった人を何事もなかったかのようにキルし、そのまま車に乗り込んだ。
カットが入り、場面が山の中の様子に切り替わる。
「今回はね、この、えー緑の布。これを使います。そこらの店行けばね、布地だけ買うことができるんでね。安いしね、買ってください」
もっとはきはきと話せないのだろうかと思っていると、ハマグチはどうやらその布を被ったようだ。
「あそこにボケーっとしてる人がいたんでね、犠牲になってもらいましょう。あーあと、マップからは消えておいてください。マップに映らないようにする方法は、まあ普通に調べれば出てくると思うんでね。これやらないと、フツーに気づかれるんで」
マップから消えることなんてできたのか。知らなかった。
ハマグチは、バックの中から今度はグレネードランチャー(通称グレポン)を取り出した。
「この比較的発射音が小さいね、グレポンを使います。そしたら、明後日の方向にね、ちょいと」
ボーっとしているプレイヤーと全く違う方向にグレポンを放つ。
ドン!と爆発音がする。すると、ボーっとしていたプレイヤーがびくっとして、あたりを警戒し始めた。
「びっくりして俺がさっき撃った方向を警戒してるでしょ。そしたらね、まあたいていの人はマップと音がした方向を交互に見るわけですね」
ハマグチは、布をかぶったままゆっくりとそのプレイヤーの背後から近づく。
「シーッ」
視聴者に配慮して、わざわざ口元に人差し指を当てるしぐさをする。
そして、次の瞬間。あたりを警戒しているプレイヤーのバッグをハマグチは奪い、逃走した。
「あ、おい待てや!」
「じゃぁなあぁぁぁあああ!」
ハマグチは奪ったバッグを持ち、全速力で逃走する。
「ステータスポイント持っている方がいたら、足速くしてくださいね。瞬発力に振るのはやめましょう、役立たないです。間違って振っちゃってももう一回振り直しができるのでね。アバターがもともと足速い人は必要ないかもね」
走りながら律義に解説する。そして、追いかけてくるプレイヤーが見えなくなった。
「このバッグ取られると、リスポーンするまで戻ってこないんですよね。それをね、えー昨日、視聴者さんから教えてもらいました。」
はえーなるほど。
「そしたらね、このバッグの中身をね、おらあああああ」
バッグの中身を道のど真ん中に捨て始めた。
「ちゃんと中身を処理してね、このバッグを返しに行きましょう。」
えぇ...
「まだ死んでないですね、俺を探すのをあきらめていないようです。」
先ほどのプレイヤーが辺りをまだ探している。
「返すよん~中身は盗んでないからね~」
そういって、ポイとバッグを捨てる。
「あ!おい待て!おい!」
男を無視してハマグチは再び逃走する。
「はい、そしたらね、多分あの人今バッグの中確認しているんでね、もう一回見に行きましょうか。」
えぇ...
「なんも中身ねえじゃねえかよおい!!」
どうやら先ほどのプレイヤーはバッグの中身を確認して、中身が空なことに憤慨している様子。すると、ハマグチはあからさまに姿を現し、またまた逃走した。
「おいてめえ!なんも中身ねえじゃねえかよ!返せ!」
「返すから落ち着いてよん、ほらここにあるでしょ」
先ほどこのプレイヤーの荷物を捨てた場所に到着した。
「ここに捨てといたよん。」
「!?なんで?まあいいわ、まじもうやめろよ」
男はばらまかれた荷物のもとに近寄り、お金やら銃弾やらを拾い始める。だが次の瞬間。
ドカーン!
「おつぅぅぅぅうぅううぅぅぅ!」
ホミランで荷物もろとも男を吹っ飛ばした。
「はい、まあこんなことができます。荷物をね、奪って逃走することでね、相手はリスポーンするまでインベントリ機能が使えなくなるわけです。ログアウトしても戻ってきません。」
地味に使えない!なんだよ、期待して損した!普通にキルして荷物奪えばいいじゃんか!まあでも、マップに映らないようにすることが可能ということは知れたから、良しとするか。
______
朝食兼昼食を食べ終えてから、バット・コミュニティにログインする。まだ誰もいないようだ。そうだなあ。暇だしドライブにでも行こうかな。街には時々ステータスポイントのような強力な隠しアイテムがあるので、それもついでに探すとしよう。
俺は久々に自腹で買ったバイクに乗った。ヘルメットは別につけなくてもゲームなので問題ないが、安全を配慮して一応つけることにする。
風が気持ちいい。今日は休日なのでプレイヤーも多く、街は活気であふれていた。街中でPKする人ももはや珍しくない。この前までは、警察を恐れて街中でPKする人は少数だった。だが、警察に対して反撃さえしなければ、そこまで強くないということが分かった。なので、警察を無視してPVPをする人も結構いるのだ。流れ弾に当たらないようにだけ注意しよう。
しばらくドライブしていると、そういえば、スナイプの練習もできるのではないか、と思った。お蔵入りしていたM24も警察さえ撃たなければ街中でも使えるのではないか?俺は早速、拠点に帰宅するべくUターンした。
______
俺は今、ビルの上にいる。もちろん、この狙撃銃で街中のプレイヤーをキルするためだ。
遠距離攻撃において最も大切なのは、いかに敵に気づかれないようにするかである。初撃はミスさえしなければ成功する。だが問題なのは二発目。
一番問題なのは、マップに自分が表示されてしまうということ。だが、これは先ほどのハマグチの動画のおかげで、マップに映らなくなる方法というものを知った。
それをするには、ある特別なクエストを受ける必要がある。そのクエストはソロ限定クエストだったので、サクっと終わらせることができた。そのクエストをクリアすると無限に呼び出せるスマホに『権限』という項目が出てくる。そこから、一回1000マネーで5分間マップから自分のネームタグを消すことができるのだ。一度使うと、死んでも5分経つまでマップから消える。5分経つと、10分のクールタイムを挟み再び使用できるようになる。少々値段は高いが、使えるのと使えないのでは大きく違うだろう。
俺は早速下にいる男の集団に標準を合わせる。スコープもかなり高価であった。これなら、最大で2キロメートル先の敵も狙撃できるであろう。まあ、M24はそこまで有効射程距離は長くないけど...とりあえず撃ってみよう。
カシュッ
サプレッサーで抑えられた発砲音が鳴る。
ヘッドショットだ。一瞬にして集団のうちの一人のHPが0になった。
慌てた様子で男たちはあたりを見回し分散した。
続いて二弾目。また頭に命中した。あれ?やっぱ俺スナイプうまいかも。楽しくなってきた。
マップから消えていられる時間はあと4分半。ぎりぎりまでやってやろう。
カシュッ
カシュッ
カシュッ
もうすでに10発以上撃っているが、一発も外していない。すでに5キル以上はしている。悪くても足や腕に命中しており、数人が行動不能になっていた。まだまだ!
カシュッ
カシュッ
カシュッ
...
おっと、気が付けばもうあと数秒でマップに表示されてしまう。ここはおとなしくビルから降りるとしよう。
とりあえず片っ端からプレイヤーらしき人を撃ちまくって、30人以上はキルできただろう。まさか、こんなにキルできるとは思っていなかった。思ったより気づかれなくてびっくりだ。まあ1キロ以上離れているし当然か。
...もうちょっとだけ。練習もかねてだ。アカグロのみんなはぼちぼちオンラインになり始めたが、もうちょっとだけ。よし、クールタイムが終わったらもう一回やろう。
______
男たちは、隠しアイテムについて情報を共有していた。
「やっぱステータスポイントはないわ。でも、見ろよこれ。」
一人の男が自慢げに取り出したのは、水色のビー玉のようなもの。
「なんだそれ?」
別の男が問う。
「これはな、シールドだ。急所に弾が当たった場合、一回だけダメージを無効にするんだ。」
「す、すげえな。どこにあったんだ?」
すると、そのアイテムを持った男は自慢げに話し始める。
「適当にクエストしてたらよ、クエストの過程で侵入するビルに置いてあった観葉植物の鉢の中にあったんだぜ。わかるわけねえよな!まあ俺はなんか光ってる、と思って見つけたんだがよ!」
大笑いする男。その話を聞いて、何人かのプレイヤーが集まってくる。
「あの、それってシールドですか?」
「ああそうだぜ。ほしいのか?」
「!?売ってくださるんですか?100000マネーで売ってくださいませんか?」
「んーどうしようかな?まあ考えてやらんことも...」
プスッ
その瞬間、シールドを買う、と交渉してきた男が突然倒れた。
「な!」
「お、おい!どうしたんだ...」
プスッ
「な、なんだ!?」
男はシールドを左手に握りしめ、ビルの陰に隠れる。どこからか狙撃されている!?
集まっていた何人かの人は攻撃されているということに気づき、とっさに物陰に隠れようとする。だが、逃げ遅れた人は...
プスッ
プスッ
プスッ
どんどん頭や足を撃ち抜かれ、倒れていった。
「攻撃されているぞ!」
「狙撃だ!どこからか狙われている!おそらくサイレンサーをつけている!銃声が聞こえない!」
逃げようか迷う男。だが、道端にはたくさんの死体。
「おい、あんた」
「な、何ですか?」
男は近くにいた小柄の少年を道に向かって突き飛ばした。
「な、なにすr...」
プスッ
突き飛ばした少年が道に飛び出た瞬間、少年は頭を撃ち抜かれた。
「ちと厳しいな...」
男は今もなお増え続ける死体を漁りに行くのはやめた。
「逃げることを最優先するか。」
このシールドは、近いうちに開かれるであろうイベントではとても重宝されるだろう。となれば、相当高く売れるはず。なんとしてもこれは持ち帰らなければ、と男は逃げることを決心した。
だが、男がいる地点から中央ビルに逃げ込むには、目の前の道を通過しなければならない。
「数分待てば収まるか?」
男は、数十分ここに隠れてから逃げることにした。
数十分後。
「なあ、これ今何やってるんだ?」
男に話しかけたのは女アバター。だが声が男であった。
「なんだネカマ野郎。声が男声のままだぞ。」
「ネカマじゃねえよ。で、これ何やってんの?」
男はちょうどいいと思った。
「ああ、今からデスマッチをやるんだ。参加してないプレイヤーにはダメージは通らないからよ、ちょいとそこの角を見てきてくれねえか。」
「なんであんたに協力せにゃならんのだ。」
男は少しイライラした。
「めんどくせえな。ほれ、200マネーやるから。」
「しょうがねえなあ。」
そう言ってその女アバターは道路まで出た。そして、道路に出てから数歩歩いて向かい側のビルの角を確認する。そのまま男の元に戻ってくると、
「なんもいなかったぞ。」
と報告した。
どうやらもう大丈夫そうだ、と男は確信した。
「おう、ありがとな。」
男はそのまま道路に出る。
パリィン!
「...は?」
プスッ
男は何が起きたか理解できぬまま、その場に倒れた。
「ん?っておっさん!ダイジョブか!?」
その女アバターはあたりをきょろきょろしている。そしてその女アバターは、バッグからホーミングランチャーを取り出した。
______
いやー、結構キルしたな。二週目は数人しかキルできていないが。そういえば、先ほど一度頭を撃ち抜いたのになぜかダメージを無効化したやつがいた。何か特殊アイテムでも使っているのだろうか。
...それにしても、あんなところでなにしてるんだよAkiさん...
まあ、今日はこれでやめるか。あと数秒でマップ非表示は終わるしな。
と次の瞬間。
...シュゥゥゥ
ん?何か音がするな。
ドカーン!
ビルのふちにロケットランチャーの弾が飛んできた。そのまま弾は炸裂し、俺は吹っ飛ばされれた。
「な、ばれた?」
先ほど狙撃していた場所に立っていたら、間違いなく今の一撃で死んでいただろう。おそらく攻撃してきたのはAkiさんだ。どうやら、俺だということには気づいていないようである。俺は警戒して弾が飛んできた方向を見てみる。
シュゥゥゥ...
まただ!
ドカーン!
ぎりぎりで回避に成功する。くそう、意外と音が聞こえてから着弾するまでが速い。どこだ、どこにいる?相手に場所がばれているのに、自分は相手の場所がわからない。マップにもAkiさんは映っていない。ここはやはり、逃げたほうがいいか。
「...逃げよう。」
俺は逃げることにした。
______
拠点に戻ると、HAGANEさんとchaosさん以外のメンバーがすでに集まっていた。
「なあ、もしかしてKurosukeさんさっき外にいた?」
「え?」
まさか、俺だってわかってて攻撃してきたわけじゃあないよな...?
「いたけど...」
「やっぱり。交差点付近の人狙撃しまくってたのKurosukeさんでしょ?」
気づいてたのかよ!
「そ、そうだよ。気づいてたのならなんで攻撃するのさ。」
「確信してたわけじゃないし。念のためだよ。」
本当かなあ。だがそれにしてもすごい。どうやって音も聞こえずマップにも映っていない相手の位置を特定できたんだろうか。
「それにしても...もしかして、Kurosukeさんって自衛隊員か何か?」
「ち、違うよ...普通の学生だって。すごいといえばAkiさんもだよ。なんで気づいたの?」
俺が質問すると、Akiさんはすぐに答える。
「そりゃあな。撃たれている人を見れば大体どこらか弾が飛んできているかくらいわかるだろ。」
そ、そうかなあ。
「なんだなんだ、また何かやらかしたの?」
Abuzoruである。もう俺はこの人に『さん』をつけるのをやめた。
「アブゾルうるさい。」
「お、何だよケチだなあ。生理の時期なのか?ピリピリすんなって」
「...ナチュラルに引いた」
SWZさんがドン引きしている。俺も今のはだいぶ引いたぞ。よかったな俺が元男で。
「俺も少し気になることがあるぞ。マップに映らない方法だって?」
Itachさんはどうやら知らない様子。
「知らないの?」
「ああ、知らない。」
「...今日はとりあえずリーダー居ないし個人戦だな。おいイタチ、教えてやるからこっち来い。」
AkiさんがItachさんにクエストの概要について話し始めた。
「ついでに俺も教えて」
「俺も俺も」
どうやら俺とAkiさん以外みんな知らない様子。
「あー、みんな終わるまで俺練習してきていいかな?」
「...また狙撃すんの?」
え、ダメなの?
「まあいいんだけどさ、気をつけろよ。くれぐれもネームタグは見られないように。恨みを買って粘着されるからな。」
「気をつける。」
俺は再び狙撃の特訓をすることにした。
______
ふう、今日はこの辺にしておくか。場所を変えつつ何回か狙撃してみたが、おそらく100人以上はキルしたであろう。何人か同業者(狙撃手)が近くのビルの屋上にちらほら見えたので、そいつらもキルした。
そしてわかったことが一つ。サプレッサーをつけていれば、警察は来ない。いや、街中でやったらまずいだろう。だが、こういったビルの屋上から音を出さずにプレイヤーを狙撃するのはどうやら大丈夫らしい。
また、俺に反撃してきた人物は皆無であった。Akiさんが特別強いわけではないのだろう。おそらく、強い人たちは世界サーバーに行ったのだ。俺が狙撃した人たちはアマチュアだろうな。そんなわけで、ぼちぼち帰ろうと思っていたその時。
「ん?」
視線の先に、何やら少し人だかりができている。スコープで覗いてみると、どこかで見たことがある人物がいた。金髪でピンク色のメッシュがかかっている男。その男の周りには、その男を遠目から眺める人たちが。マップで確認してみる。
【HAMAGUCHI】
どうやら大物だ。
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