第14話 待望の出会い
「お母さん...」
「どうしたの?」
俺は母と面と向かって話していた。
もちろん、サイモンとタツに女体化した事実を話した件について、である。
「剛と達樹に...このこと話したんだ」
母は黙り込み、しばらくすると俺が言ったことを理解したようにうなずいた。
「それで?」
「あっその...二人は信用できるし...」
怒っているのか、はたまた呆れているのか。表情だけではわからない。
「どうして話したの?」
母は俺にそう聞き返した。
「だっだから!信用できるから...」
「...ごめんね」
母はいきなり俺に謝った。俺はなぜ謝られたのかわからなかった。
「え?」
「そうだよね。仲がいい友達とまた最初からやり直すなんてつらいよ。ごめん。わかってあげたつもりだったんだけど、まだ理解が足りてなかったみたいね。」
母は俺の頭をポンポンと叩いて、俺に微笑んだ。
「許してくれるの?」
「信用できるんでしょ?祐樹自身でそう判断したのなら構わないよ。それに最初から怒ってなんかいないよ。」
母の言葉に俺はひどく安堵した。
「でも」
俺が安心したそばから、母は言葉を続けた。
「つらいだろうけど、学校では今まで通りに接しちゃだめよ。それは剛君と達樹君にも徹底させてね。それと、このことは信用できる人だけ。あんまり多くの人に言っちゃダメ。わかった?」
それだけでも十分だ。俺は大きくうなずいた。
すると母は、何か思い出したかのように手のひらにこぶしを打ち付けた。
「そういえば、学校の準備しなくちゃね。女の子用の制服とか、サイズが合うジャージも買わないと...」
うちはあまりお金があるとは言えない。それなのに、俺のせいでまたお金がかかってしまうとなると、申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
「ごめん」
「いいのいいの。祐樹を生んだのは私なんだから。」
中学の半ばから今まで結構反抗的になってしまうことが多々あったが、今日から優しく接しよう。
「明日買いに行こう。サイズとか図るから、祐樹も来てね。」
あっ。
「あ、あのさ、明日なんだけど...」
chaosさんとのオフ会。これも言わないと。
______
【chaos】
≪待ち合わせ場所に着きました。ブラウスに白スカートの身長小さめの女です。すぐわかるように右手上げておきます≫
俺は少しドキドキしながら待ち合わせ場所に向かっていた。今日の格好は、いつものパーカにジーンズである。袖が少し長めで、捲らないと萌え袖みたいにあざとくなってしまう。
chaosさんからメールが届いたことから、すでに彼女は右手を挙げて待機してるのだと思われる。いや、右手上げるって...別に上げなくてもなんとなくでわかるのでは?
でも、ブラウスだのなんだのさっぱりなので正直助かる。いやでも...人もたくさんいるのにずっと右手上げて待機してるとか...chaosさん、結構な変わり者なのでは?常識知らずというかなんというか...
電車から降りて、待ち合わせの場所に小走りで向かう。俺の外見のせいか、通行人から視線を感じるなあ。
待ち合わせ場所についた。いた。すぐに分かった。すごく恥ずかしそうに右手を挙げている女の子。黒髪を肩まで伸ばしたショートカットの子だ。なんというか、想像していたよりはるかに顔が整った女の子である。胸は控えめだが、それもまた愛らしい印象を与えさせられる。
俺は彼女を見た瞬間、あることに気づいた。美少女と二人っきりで待ち合わせて、お話しするって...デートといっても過言ではないのでは!?あの美少女とデートできるのか!人生初デートが美少女!最高だ!
俺はずんずんと彼女のもとに進む。
「...」
「...あっあの...」
間近で見るとより一層とかわいいな。彼女は今椅子に座っているので、彼女の前に立つ俺を彼女は見上げている形だ。上目遣い。破壊力やばいなあ。おっと。そうだそうだ、見とれている場合ではない。
「ごめんね。手ずっと上げてるから、すぐわかったよ。カオスさん。」
「あ、く、クロスケさん。あ、初めまして...」
おどおどした様子で彼女は立ち上がった。...あれ?
俺、カオスさんより背低かった。
ちょっと恥ずかしいじゃないか。今まで完全にかわいいものを上から見る形であった俺が、見下されている側になってしまうとは。少しだけ目線が上のchaosさんを俺が見上げる形になる。
「ど、どうも。クロスケです。あ、あの、ここでは祐樹って呼んでください...」
「ユウキちゃんですね。私は
俺がキョドってどうすんだ!身長負けたからって気にするな俺!
「あ、私は15です。」
chaosさん改めミクちゃんがそう言った。年下である。身長...
「おr...私は16です。...身長負けた」
一人称気を付けないと。まあでももうゲーム内で「俺」って言っているのがっつり聞かれちゃったし、今更かな?
「年上だったんですね...ああ、納得です。」
どこを見て納得してんだおい。
「びっくりしましたよ!まさかクロスケさんがこんなかわいい先輩だったなんて...」
言ってくれるじゃあないか!
「おrじゃなくて私もびっくりしたよ。カオスさんあんなゲームの中ではムッキムキのオジサンなのにこんな美少女だなんて」
一人称をまた間違えて最初のほうが早口になってしまった。だめだこりゃ。
「そ、それはあんまり触れないで...ください」
恥ずかしそうに俯くミクちゃん。
「立ち話もなんだしさ。おいしいものでも食べようよ。」
俺がそう提案すると、彼女はぱあっと瞳を輝かせて、
「はい!」
大きな声で返事をした。
______
「ふーん。じゃあミクちゃんはお金持ちなんだ。」
「お金持ちというか...まあ、親が会社のグループの代表ってだけで...」
俺たちは、こじんまりしたカフェにやってきていた。一回だけ来たことがあるこの店は、人もそこまでいなくて静かだ。そして食い物がうまい。
俺は、ミクちゃんの話を聞いていた。彼女の父は会社の代表とかの大物らしい。つまり、彼女はお嬢様ってわけだ。
「そのせいってわけではないんですが...中学で結構絡まれて...」
お金を持っているから。そして容姿が美しいから。様々な要因で、クラスの女子からはあまり好かれていなかったようだ。男子からのいじりもエスカレートし、ストーカーの被害も受けたそうだ。
「クラスの男子のお兄さんが私を追いかけてきたときはもう...泣きながら走りましたよ。」
「いやはや...」
「ユウキ先輩はどうです?そんな経験ないですか?そんなにかわいいんだし、似たような経験もあるんじゃないですか?」
ないです。前まで俺男です。なんて言えないけどね。
「あはは、そこまでひどくはないけど、まあ、うん...」
無縁すぎてなんていえばいいのかわからない。仲がいい異性なんて百合ちゃんを除きいなかった。男友達らがイケメンだから、女子の注目は俺の周りにばかり集まる。まあ、性格が俺以下のやつも多かったからすぐフラれていたが。
「あるんですか!その、私、それが原因で学校に行きずらくって...なにか、いいアドバイスとかもらえませんか?」
そんな目で見ないでくれ!...うーん、まあいえるとしたら...
「んーとね...俺は仲がいい男友達がいてさ。そいつらが、まあ、助けてくれるというか...」
直接助けてくれたわけではないが、あの二人...サイモンとタツが今の俺を認めてくれたときは、心が救われる思いであった。女でも気にしないと、学校でも話そうと言ってくれた。それだけで、俺はだいぶ楽になった。
「やっぱり、友達かあ...私人付き合いは別に苦手じゃあないんですけどね...」
彼女の常識知らずな面と、家柄、それに容姿。これらのせいで仲がいい友達はできていないそうだ。
「趣味が合う友達を見つけるといいよ。俺だったらゲーム友達だな。ミクちゃんのクラスにもバット・コミュニティをやっている人いるんじゃない?」
「そうですかね。仲良く、なれますかね?」
「なれるよ!...じゃあ、俺がミクちゃんのリア友第一号ね!」
精一杯の笑顔でそう言って見せた。俺かっけえ...
「ユウキ先輩は同じ学校じゃないですよ?」
「...」
泣きそう。
「あっ、違っ!友達です!ユウキ先輩は友達!です!」
「気ぃ遣わなくていいよ...」
「気遣ってなんかいないです!その、私が言いたいのは同じ学校の友達というか...」
アワアワと慌てふためく彼女。すごいかわいい。
「俺も友達は多くないよ。趣味が合う友達を見つけて、仲良くなって、その友達の友達と知り合って一緒に話して。そうやってあっという間に知り合いは増えるものだからねえ。」
「試してみます、参考になりました。同じゲームをやっている人を探して仲良くなります!」
「お、おう」
「あ、すみません。このケーキ追加で」
彼女は元気よく宣言した。そして追加で甘そうなケーキを頼みだした。...昼飯代足りるかなあ。
「ところで」
彼女は俺に再び話しかける。
「先輩、俺っ娘なんですね」
飲んでいた砂糖ミルクマシマシコーヒーを噴き出した。
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