第12話 どうしようもない気持ち

今日は木曜日。俺が学校に行く日も迫ってきている。そんな中、俺はいつものようにバット・コミュニティをプレイしていた。


「カオスさん、今日も来ていないな。」


「だな...」


Pisokaと口論した日から、全く連絡が取れていない。


「そろそろ新メンバーも欲しいよな。」


「さすがに今の6人だとな。カオスさんもいないし...」


ItachさんとHAGANEさんはあまり大きくない声で言った。


≪今日はPKしたい≫


俺は飼い猫の『ぽんず』をなでながら言った。


「ほお。クロスケさんがPKとは珍しい。」


俺は昨日、俺が他ゲームで最も得意だった武器である『スナイパーライフル』を購入した。


購入したのは『M24』という対人スナイパーライフル。それに加え、サプレッサーという発砲音を消すアタッチメントも購入した。対物ライフルはこのアバターだと重すぎて持ち運べないので対人ライフルにしたが、それでも結構重い。へカートとかマクミランが使いたかった...


これをさっそく試したいので、俺はPKがしたいのだった。


「クロスケさん狙撃得意なんだね。アサルトライフルでの中距離戦闘もあんなに強かったのに。」


≪いやー、ぶっちゃけフルダイブだから強いかわからないよ?≫


PCゲーでの狙撃は得意だったが、このフルダイブ環境でも狙撃できるかは謎だ。だが、なんか行ける気がする。


「ステータスポイントを俊敏性に振って狙撃手ってどうなのよ?」


うっ。Abuzoruさんに痛いとこ突かれた。


≪ロマンだよ。最速のスナイパーってなんかかっこいいでしょう≫


「聞いた感じだけならな」


SWZさんにも突っ込まれた。


「というかよくそんな銃買う金あったな。」


≪ソロでお金稼ぎやってましたから≫


俺は裏で結構一人でできそうなクエストなどをやっていた。あと、秘密だがPKなんかも結構やっている。このゲームの醍醐味は対人戦だ。この組織も元はPVPするための組織だったらしいし。いずれきたるイベントに向けて練習しないとな。


「じゃあ今日は適当に裏山で戦ってるやつらに乱入しますか。」


この町、ファーストシティの裏山は人気のPVPスポットで、言ってみれば誰からしらが戦っていることが多い。なので、横から乱入しようという作戦である。だが正直言って山は狙撃に向いていない。もっとこう、都市部での戦いとかがいいな...


「ぶっちゃけスナイパーライフルは世界サーバーでしか使えなくない?」


「それな。各国サーバーだと都市部で暴れたら警察が来るしな。本格的な対人戦ができる世界サーバー以外にあまり使いどころなくないか?」


AkiさんとSWZさんが言った。い、痛いところを突かないでくれよ...


≪ロマンだからいいの!≫


「まあ、ほどほどにな」


結局買ったばかりのM24を置き、いつものM4を持って山に出かけた。


______


「また関係ないやつら来たんだけど!!」


「くんなよおおおおおおおお」


楽しそうに叫ぶ見知らぬプレイヤーたちをノリノリでキルしていく。今日も大量だ。いい練習にもなったしな。


今は帰りの車の中だ。特に誰かがキルされることなく、みんなそろっての帰宅であった。


さて、俺たちはもうプレイヤーランクがとっくに10を越えているので、世界サーバーに行ける。だが...


「カオスさん、まだランク9だからな」


「そうだな」


皆、chaosさんの帰りを待っていた。


≪chaosさん、みんな待ってますからね。落ち着いたらいつでも戻ってきてください。≫


今日もメッセージを送った。既読がつかないメッセージたち。だが今日はいつもと違った。


しばらくすると...


≪ちょっとみんな!chaosさんがオンラインになった!≫


「マジか!」


「やっと来たか!」


chaosさんがオンライン表示になった。みんなとてもうれしそうだ。


すると、chaosさんからメッセージが届く。


≪心配かけてごめんなさい。≫


「早く拠点に帰ろうぜ!おっしゃー!今日こそ世界サーバーいくぞ!」


HAGANEさんは嬉しそうに車を運転しだした。


拠点に着くと、リビングにchaosさんの姿が。


「カオスさんお久しぶり!」


「お帰りっす」


「心配させんなよー」


「おかえり~」


≪お久しぶりです≫


みんなそれぞれchaosさんに声をかけた。すると、chaosさんはチャットにて話し始めた。


≪すみません、急に何日も来なくなってしまって...≫


「そんなこと気にすんな。それより、ささっとランク上げて今日こそみんなで世界サーバー行かないか!?」


HAGANEさんは楽しそうに語りだした。だが、chaosさんは、


≪ごめんなさい≫


そう謝った。


「もう大丈夫だって。みんな気にしてないからさ。」


Akiさんがみんなに代表しそう伝える。だが、chaosさんの様子がおかしい。


≪実は、僕は学生で、不登校なんです。ですが、この前口論した人にいろいろ言われて変わらないと、と思いまして。≫


「...どういうことだ?」


みんなよくわかっていない様子である。俺も例外ではなく、chaosさんが何が言いたいのかさっぱりわからなかった。


≪学校に行くことにしたんです。それで、いろいろあって。しばらくゲームできなかったんです。≫


なるほどな。今まで休んでいた分の授業とかを受けたのかな。


「ああ、そういうことか。もう大丈夫だ、そのことはみんな気にしていないから。」


HAGANEさんが再びそう言うと、重々しくchaosさんが再び口を開いた。


≪...ごめんなさい。本当に勝手だとは思いますが、僕はこのゲームをやめようと思います≫


「「「「「え?」」」」」


皆の口から驚きの声が出た。俺も例外ではなく、驚きで固まっていた。


「ど、どうしたんだよ。何もやめることはねえだろ...」


Abuzoruさんがそう言ったが、それ以降は皆何も言わなかった。それはそうだ。ゲームをやるのもやめるのも個人の自由。俺たちがとやかくいう筋合いはない。でも...寂しかった。


しばらくの沈黙。すると、沈黙を破りchaosさんがチャットで再び話し始める。


≪自分の部屋に、売れそうなものあるかどうか探してきます≫


...なんでだよ。


マイクがついていないのに、俺はそう呟いていた。


皆chaosさんが上がっていった階段を見つめたまま無言だ。...こんなの。


「ちょ、クロスケさん!」


俺はchaosさんを追いかける。そして、chaosさんの部屋の扉を開いた。


見つめあう俺とchaosさん。


「...ごめんなさい」


chaosさんがそう呟いた。


筋肉がたくましい男アバターから出た声は、可愛らしい女の子の声であった。

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