第8話 これから

今は、アカグロの拠点にどんな家を買おうか決めている最中だ。


「やっぱりこの高級感ある別荘感があるところが...」


「馬鹿野郎!モダンなこっちの家がいいだろ!」


SWZさんとAkiさんがまた揉めていた。


「お前らは仲良くゲームできないのかよ...」


そんな二人を見てHAGANEさんが呆れている。すると、HAGANEさんは何かに気づいたように、


「あ、もうこんな時間だ。みんな昼飯とか大丈夫?」


といった。もうすでに午後3時を回っていた。


≪あ、自分落ちるわ。適当に買ってあとで場所だけ教えてくれ。≫


≪あ、僕も落ちます。また来ます。≫


俺とchaosさんはいったんやめることにした。


「やっぱこのお城風な奴を...」


「それはいかがわしいホテルみたいになるだろうが!」


AbuzoruさんとItachさんも言い合いを始めた。ああ、こんな風にずっと遊びたいなあ。


______


俺はゲーム機を頭から取り外した。


昼ご飯何か食べよう。リビングに行くと、起きたばかりであろう母がいた。


「ゲームしてたの?お昼ごはん食べた?」


「いや、食ってない。」


「じゃあ、今から適当に作るから待ってて。」


そう言って、お母さんはキッチンに行って何かを作ってくれていた。


待っている間、俺は気になってなんとなく朝見た『ハマグチ』という人を調べてみた。


何だこれ。


俺が見たのは、


『【Gバー】日本語が通じないガキを成敗』


『【Gバー】ババアの取り巻きをまとめてボコす』


といった、物騒な名前の動画だ。こんなのがあそこに来ちゃったのか...


動画に出てくるのは、どこかがおかしい人たち。一方的に人の話を聞かないで話しまくる人や、囲いをたくさん作っている女性プレイヤーなど、癖が強い。


しばらくすると、お母さんができたてのチャーハンを持ってきてくれた。


「ありがとう。」


おいしい。


「それより、体は大丈夫?なんかおかしいところない?」


「それを言うなら、体中全部おかしいよ。」


「...それもそうね。じゃあ、それ食べ終わったら病院行きましょうか。」


俺は、ついに病院に行くことになった。


______


俺が来たのは大きな病院である。


「...」


「...」


「...確認のため、もう一度聞かせてもらってもいいですか?」


「息子が女になってましたので、原因を調べてほしいんです。」


「...」


わかるけど。お医者さん、そんな顔しないでくれ。


「...まあ、聞きたいことはまだたくさんあるんですが、検査しますよ。」


この人は母の知り合いらしいので検査してくれたが、普通の医者だったらいたずらはやめろ、と追い出すところだろう。


精密な検査をしてもらい、結果が出たので再び先ほどの医者のもとへ行った。


「えー結論から言いますと、全く異常はありません。健康なです。」


「...」


どうやら体の中まで完全に女になっていたらしい。


「DNAなどは一致していますね...。美代みよさんが冷やかしに来るような人ではないのは知っていますがもう一度聞きます。この方は本当に息子さんなのですか?」


「...親の勘。...というのは少し違うわね。実は私のお父さんがね、昔変なことを言ってて。」


「変なこと?」


「お酒の席だったんだけど、私のお父さんは、『俺の親父は女だったから俺にはおふくろが二人いた』って。」


初耳だ。まさかの遺伝か?


「...なるほど。」


「それに、泣き方も笑い方も、裕樹と同じだったから。」


「...まあ、詳しい結果は後程渡します。それと...」


医者は俺たちのもとに寄ってこう言った。


「あまりこのことを外部に漏らしてはいけません。性別が変わるなんて症例は初めてです。外部にこのことがばれたら、おそらく今までの暮らしはできないでしょう。」


それを聞いて、俺は少し怖くなった。


「ですが安心してください。同じ症状の方が出たらおそらく無理ですが、私はこのことは外部に漏らさないと誓いましょう。月に一回検査をしますので、ここにいらしてくださいね。」


そう言って医者は俺たちを見送った。いい人でよかった。


______


家に帰ってからしばらくすると、お母さんが俺に聞いた。


「祐樹。学校、どうする?」


どうするのが正解なのだろう。


「...転校する?」


「嫌だ。」


今の学校を転校したくなかった。中学の時から同じヤツや、ゲーム仲間だっている。でも、そいつらとはもう今までのように遊ぶことはできない。


「...じゃあ、新しく”女の子”の祐樹として、学校に行きましょうか。つらいと思うけど、友達にこのことを言っちゃだめだからね。」


そうするしかないのだろう。


「...うん。」


お母さんは、おそらく学校に連絡しに、自室に向かった。


もうすでに外は暗くなっている。今はなんだか、ゲームをする気になれなかった。


女として、これからやっていけるだろうか。何もしないと、そんな不安が押し寄せてくる。俺はそんな不安をごまかそうと、先ほどの『ハマグチ』の動画を見ることにした。


すると、ピロン、とスマホに一件のメッセージが届く。




【サイモン】


おい!聞いてくれよ!ゲーム機見つけて、それが最後の一台だったんだよ!中学生が買いたそうに見てたけど、容赦なく横から取って買ってやったわwww明日やろうな、ゲームでの名前だけ教えてくれよ」




「......」

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