第4話 ネカマ
今日の学校は散々だった。眠すぎて授業が頭に入らず、何度も居眠りしてしまった。帰宅部なのですぐに帰ることができたが、帰りの電車でも、自分の降りる駅を寝過ごしてしまうところであった。
それに今日、ゲーム友達に、
「いつバット・コミュニティ買える?」
と聞いたところ、
「どこも売ってないんだよ。転売されてるやつは5倍以上の値段するから買えない。」
と言っていた。なのでしばらくゲームはchaosさんとやることになりそうだ。
家に帰ったら、とりあえず寝た。起きるとすでに夜7時であった。目覚めてすぐ、一人で夕食を食た。僕の父は海外に出張していて、最近顔を見ていない。母は今週いっぱい夜勤で、朝に帰宅し夕方に出勤している。兄弟もいないので、夜は一人であった。適当に夕食を食べ終えると、さっそくゲームをすることにした。勉強?テスト前しかしたことないね。
バット・コミュニティを起動し、目の前に仮想世界が広がる。が、その瞬間。
バババババン!
ドカーン!
すごい音があたりに響いていた。確かこの前、山奥でログアウトしたはずだが...
マップを確認すると、10人を超えるプレイヤーが乱闘している。小さい組織同士の争いだろうか。
「誰やお前」
VCプレイヤーに話しかけられていた。声のほうを向くと、俺を見つめる男がいた。金髪の男アバターだ。その男はアサルトライフルを持っていた。
慌ててチャットで返す。
≪前回ここでログアウトした者です。敵じゃないです。≫
敵意がないことを伝えなくては。
≪すぐここから退くので見逃してください≫
するとその男は、
「持ってる全部金渡したらいいよ」
と言ってきた。俺の額に銃口が向けられる。俺は咄嗟に全身を丸めて頭を腕で隠した。すると、
「...お前って女?」
とその金髪男が言った。
なんだ突然?ああ、そうか。このアバターは身長150センチほどの女の子だった。頭を隠すこの格好をしたせいで、中身も女の子なんじゃね?と勘違いさせてしまったようだ。俺は考える。もしここで≪男です。≫って言ったらどうなるか。殺されそうだ。こんなゲームをやってるくらいなんだから、こいつも女に飢えているのだろう。女っていったら見逃してくれるんじゃね?と考えた俺は、さっそく行動に出た。
≪それ関係あります?≫
女です!っていきなり言ったら疑われそうなので、ちょっと濁す。
「いや、さすがの俺も女の子相手には手を出したくないなーなんて...」
最初と比べて勢いがかなり落ちた。こいつDTだなきっと(ブーメラン)。
≪今まで殺した相手の中にも女の子がいたかもしれませんよ。そんなことより、初対面の人に金出せってどうなんですかね。いくらゲームの中でもモラルを持ってください。≫
「ご、ごめんなさい。」
素直だな。
≪私には敵意はないので。もういいですか?≫
さらっと一人称を『私』にする。
「す、すみません。気を付けて。あ、あと、良かったらフレンドになってくれませんか?」
普通の女ならば一蹴りするところだが。まあ、フレンドになるくらいはいいか。
≪いいですよ。今の戦いが終わったら送ってください。≫
「あざっす!」
「ちょっとリーダーずるい!」
「ちょっとやばい!やられるから!そんなこと言ってないで助けて!」
楽しそうだな。
俺は山から下りて、適当に街中まで歩くことにした。
______
俺は今、スマホとにらめっこしている。いや、本当ににらめっこしているわけではない。ショップで、どんな武器を買おうか迷っていた。
散々悩んだ結果、『M4』というアサルトライフルを購入した。これはアメリカの銃で、反動もそこまでなく、比較的に軽いそうだ。値段は650マネーだ。手持ちはあと200マネー。とりあえず自宅が欲しい。アパートは月1000マネーを払えば利用できる。アパートはプライベート空間であり、他のプレイヤーは招待されない限り入れない。そこにアイテムやお金をおいておけるので、かなり便利なものだ。とりあえず、80マネーのナイフを置かった。120マネーしか手持ちがなくなってしまったので、適当にクエストを受けることにした。chaosさんはオフラインである。一人でクエストやるのはきついので、初日に行き損ねたバッド・コミュニティ・ビルに行くことにした。
初日にPKしてきたあいつらはいない。さすがに報復が怖くて続けられなかったのであろう。中に入ると、結構立派な装備を着た人や、まだ初心者、という感じの人たちが大勢いた。部屋の奥の掲示板を見る。「一緒に組んでくれる人募集!」「組織『ブラックエンジェル』を一緒につぶしてくれる人募集」「一緒にクエストしましょう女限定」など、いろんなことが書いてあった。やっぱり女に飢えてるのか...。ちなみに、ブラックエンジェルとは、昨日このビルの前でPKしていた組織だそうだ。もう特定されたらしい。
お。女の子アバターが固まっているグループがあった。ちょっと行ってみよう。
「昨日のクエスト、やばかった!マジで金じゃぶじゃぶやぞ!」
「マジかよwそれ今日もやろうぜ!」
声が男だった。うん。まあ、うん。人のこと言えないが、だいぶ違和感だ。
「ねえそこのお姉さん!」
やばい話しかけられた。逃げよう。
結局、俺は隅っこのほうで募集の掲示板とにらめっこしていた。やっぱり、アバター男にすればよかった。
「あれ。Kurosukeさんじゃん」
顔を上げると、先ほど山奥で乱闘していた金髪男がいた。
「フレンド承認してくださいよ。」
フレンドリクエスト欄に、『HAGANE』という名前があった。この金髪の名前はHAGANEというらしい。
≪ごめんなさい。気づきませんでした。今承認しました。≫
チャットで返すと、
「あの、今からクエスト行くんですけど、良かったら一緒に来ます?」
と提案してきた。マジか。ちょっときもいやつだがこのまま一人で行くよりましだ。
≪ちょうど一緒に行く人探していたんですよね!よろしくお願いします≫
「ほんとですか!良かった。俺の他にもあと4人いますので、そいつらのところにまず行きましょう。」
早速外に出ると、男たちが待っていた。どうやら全員VC勢のようだ。
「リーダーが女連れてきた!」
「おもろw」
「山にいた人じゃん。」
「よろしくおねがいしまーす」
男たちがそれぞれ反応してきた。
≪よろしくお願いします。≫
「今からやるのはあるNPCの救出ってクエストなんですけど、武器は持ってますか?」
≪アサルトライフルは持ってます。≫
「なら大丈夫ですね。じゃあ、行きますか。」
早速男たちの車に乗り、クエストの場所まで向かうことになった。
______
HAGANEさんたちの組織名は『アカグロ』という。メンバーは、金髪リーダーの『HAGANE』さん、背が高い『Itach』さん、女アバターで中身男の『Aki』さん、身長低い男アバターの『SWZ』さん、ひげおじさんアバターの『Abuzoru』さん。みんな結構強いっぽい。だが、俺もなかなかこのゲームうまいのではないだろうか。
「Kurosukeさんうっま」
≪ども。≫
戦闘中なので短く返す。現在絶賛クエスト中である。
「おい!あのバカNPCどっか行ったぞ!あれが死んだら失敗になっちまう。」
「マジでじっとしとけよボケ!」
みんな口悪い。まあ、このゲーム民度低いし今更か。
何とかクエストを終え、報酬をもらった。このクエストで、俺は8000マネーも手に入れた。
「お疲れっす。」
「おつー」
「護衛系より、バリバリの戦闘系のがいいわ。」
「それな。」
≪お疲れ様です。≫
しばらくクエストの感想を語り合っていると、突然『HAGANE』さんが俺に言った。
「あのー、Kurosukeさん。俺らの組織入りませんか?」
「それな!マジでクロスケさん強かった。」
≪あー。考えておきます。≫
友達と組織を作るつもりだったが、この組織に友達も入れてやれば人数も増えていいかも、なんて思った。
そんなことを考えていたら、chaosさんがオンラインになった。
≪皆さん、ちょっと自分のフレンドをここに呼んでいいですか?≫
「いいっすよ。」
HAGANEさんが言うと、俺はchaosさんをここに呼ぶべくメールをした。
≪chaosさん、組織入れてくれる人いたんで、バッド・コミュニティ・ビルまでこれませんか?≫
俺がメールを送ると、返信が来た。
≪やばいです。昨日ログアウトした場所周辺で戦闘が起こってるらしくて、死にそうです。≫
あ。
______
組織『アカグロ』のみんなで山に向かった。もちろん、chaosさんを助けるためである。
山に向かうと、山の上にヘリが飛んでいた。
「すげえ、もうヘリなんて持ってる奴いるんだな。」
「俺のフレンド戦車持ってるぞ。」
「やっば。」
皆が楽しく会話していると、マップにchaosさんのタグが映った。chaosさんの周りには、ほかのプレイヤーがうじゃうじゃいた。
≪いました。chaosって人です≫
「あーあの人ね。了解。」
『Itach』さんと『Abuzoru』が周りの敵に銃を乱射し、『Aki』さんはロケットランチャーらしきものを撃ち放つ。『SWZ』さんと俺であたりを警戒し、『HAGANE』さんは運転だ。
そして、chaosさんのもとにたどり着いた。
≪この人たちは味方です。乗ってください!≫
≪Kurosukeさん!ありがとうございます!≫
chaosさんが車に乗り、車が発進する。すると、
「あいつらアカグロじゃん!殺せ!」
と、くそでかVCが聞こえてきた。
「やばいヘリ来たw」
「逃げろ!」
俺たちの後ろからヘリが追いかけてくる。ヘリからミサイルが放たれ、俺たちのすぐ後ろに被弾した。
「あぶねえええw」
「Aki、アレ墜落させろ!」
「無理だってw当たらんよw」
めちゃめちゃ楽しい。
その後は、何とか無事ビルに逃げ込むことに成功した。
______
≪chaosです。Kurosukeさんとは初期に、あのブラックエンジェルにキルされて一緒に素手でクエストをした仲です。≫
「へえ、リアルの知り合いじゃないんやね。」
chaosさんが一通り自己紹介を終えた。
「chaosさんって男?」
そんな発言をしたのは見た目女中身男の『Aki』さんだ。
≪リアルのことを聞くのはあまりよくないですよ≫
俺が注意すると、ちょっと申し訳なさそうにHAGANEさんがもじもじした。そういえば初対面でこの人、俺に性別聞いてきたっけ。
≪あー...まあ、はい。男です。≫
chaosさんが言うと、
「まあそりゃそうだわな、そんな筋肉ムキムキのアバター使ってる女子はいないわなw」
と『Abuzoru』さんが笑った。
「じゃあ...これからよろしくお願いします、『Kurosuke』さん、『chaos』さん。」
初対面の時とは全く異なった敬語を話す金髪アバターの『HAGANE』さん。
≪タメ口で、もっと気軽に呼んでください。≫
≪自分も。≫
chaosさんに便乗して俺もそう言うと、
「はい、あ、まあ...なんだ。よろしく。」
とちょっと照れくさそうに『HAGANE』さんが言った。
こうして、俺とchaosさんは組織『アカグロ』に入ったのだった。
______
ゲームからログアウトしゲーム機を頭から取り外す。
「はあ...」
大きなため息が自分の口からこぼれた。
洗面所に向かい、歯を磨く。
「...」
ゲームの時とは似ても似つかない俺の顔が鏡に映った。冴えない、普通の男子高校生って感じの顔。身長も165センチとあまり高くなく、髪型もいまいち。目が悪いので掛けている厚いレンズの眼鏡が、俺の暗さを引き立てている。
「はあ。」
ゲームの時は、すぐに仲間ができたし、あんな楽しいこともできた。
「楽しかったなあ。」
自然とそんな言葉が口からこぼれる。アカグロのみんなが求めているのは俺じゃない。ゲームの中の女の子、『Kurosuke』だ。そんなことが頭の中に浮かんできて、悲しい気持ちになる。
「...明日、金曜か。」
明日学校行けば休みだ。帰ったらまたたくさんゲームしよう。
口を濯いで、さっさとベットの中に入った。
もし俺がゲームの中のKurosukeみたいなかわいい女の子だったらいいのになあ。
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