第3話 素手クエスト

初期リスポーン地点では、たくさんの人が罵声をあげていた。

「クソゲーが!ふざけんな!」

「俺なんもないんだが。所持金ゼロなんだが。ゴミすぎ。」

「意味わかんない!はあ!?」

どうやらキルされた人たちが大半のようだ。やり返そうと外に飛び出す人、萎えてログアウトする人、そしてVCで不満を爆発させる人など、反応は様々だ。

うーむ。これからどうしようか。これからゲームを買うつもりの友達と一緒に適当にクエストして、武器だけ買ってもらうか。

今は無限に出せるスマホと、容量無限のバッグしかない。ピストルすら奪われてしまった。

ステータス振りの機能がこのゲームにはあるが、この女性アバターは当たり判定が小さい分、筋力がない。初期の『筋力1』では、まともにダメージを与えられないだろう。ステータスをあげるためのステータスポイントはレアアイテムなので、ステータスを上げることもできない。どうすればいいか。男アバターにすればよかったかもしれない。アバターを変えるには特殊なレアアイテムが必要らしい。詰んだかもしれない。そんなことを考えていたら、先ほどの『chaos』さんがいた。

≪chaosさん、さっきぶりです≫

俺はメールでそう呟くと、すぐ返信が来た。

≪あ!どうも。やばいです。拳銃も金も全部持っていかれました。どうすればいですかね笑≫

笑ってる場合じゃないわ。どうしよう。

≪んー、自分はこれからゲーム買う友達と一緒にクエストして、武器買ってもらおうかな、なんて考えてます。でも、いつ友達がゲーム買えるかわかんないしな、と...≫

≪はは、僕は一緒にゲームする友達いないんでやばいですw≫

お、おう。そういえば、『chaos』さんのアバターはいかにも筋力強そうである。

≪chaosさん、そのアバターの筋力ってどれくらいですか?≫

聞いてみた。

≪5ですね。初期で一番強いらしいです。≫

初期装備プレイヤーなら何回か殴れば普通に倒せそうだけどな。

≪初期装備相手なら何回か殴れば倒せそうですよ。自分のこのアバターは攻撃力低くて...≫

≪確かに、初期装備相手なら倒せます。でも、僕はあいつらみたいにはなりたくないので、素手でクエスト行きます。≫

正義感が強い人らしい。しかし、簡単なクエストでも、さすがに素手は無理ではないだろうか。...よくよく考えたら、素手でクエスト意外と面白そうかもしれない。これも何かの縁だ。ハードモードだが、ちょっと素手でクエストやってやりますか。

≪自分もクエスト手伝います!フレンドになりましょう!≫

そう俺が言うと、

≪マジですか!ありがとうございます!≫

といい、フレンドに追加してくれた。

≪クエスト選びましょうか≫

≪ですね≫

スマホでクエスト受注画面を開く。んー、難しそうなものばかりだ。

銀行強盗、マフィアボスの暗殺、悪の秘密結社のデータを盗む、麻薬取引の警護など...。無理だ。初期装備すらない俺たちにはとても無理だ。

≪お、『コンビニ強盗』!これならいけそうじゃないですか?≫

『chaos』さんが言ったクエストは、夜中の2時から受注可能なクエスト。確かに簡単そうだ。

≪警察はどうやって巻きますか?≫

≪NPCの車を奪いましょう。適当に路駐に駐車してあるやつを。それで街の外まで逃げましょう。≫

いきなりハードモードだ。だがこれしかない。

≪いいですね!ワクワクしてきました!じゃあ、夜中2時に北店のコンビニ前に集合で!≫

≪了解です!≫

この町の北にあるコンビニを襲うことにした俺たちは、夜中に会う約束をしてログアウトした。

...明日学校だけど、まあ、うん。明日は行かないとやばいが、まあ、仕方ない。頑張ってクエスト終わらせて、早く寝るとしよう。

______

日本時間夜中2時、俺はchaosさんと待ち合わせの場所であった。

≪外国サーバーならこんなに待たなくてもクエストできたかも笑≫

≪いや、日本に住んでいる人は日本サーバーと世界サーバーにしか入れませんよ。世界サーバーはプレイヤーランク10になってからしか入れませんし。≫

そう。このゲームは各国のサーバー、そして全世界共通の世界サーバーがある。俺もよくわかっていないが、日本人はアドレス的なあれで他の外国サーバーには入れないそうだ。それは他国も同様である。だが、世界共通サーバーは全世界の人たちが集う。そして、世界サーバーでのみ自分で基地を作ることができる。世界サーバーは国のサーバーよりマップが広く、自由度が高い。世界サーバーの時刻は本初子午線、つまりロンドン時間らしい。なので、世界サーバに入れたとしても日本の夕方6時ではコンビニ強盗のクエストは受けられなかった。

≪正直、自分眠いのでさっさと終わらせましょう≫

≪ですね≫

俺たちは早速コンビニに近づいた。だが、ここであることに気づいた。

≪...車ないですね。≫

≪...ですね。≫

車がなかった。走っている車はある。だが、道路に飛び出して車を止める、なんて真似はいくら仮想世界でも怖い。

≪...まあ、僕たち一回死んでますから。逃げるときは走ってる車を奪って逃げましょう。≫

≪ですね...≫

緊張してきた。これ、現実との区別がつかなくなったりしたらどうするんだろうか。発売中止になったりしないだろうか。

≪行きますよ。≫

≪了解。≫

俺たちはコンビニの店内に入った。店員はTHE・NPCって感じの動きだ。まあ、これなら現実との区別がつかなくなるということはないのか...?

俺たちは行動を開始する。chaosさんがレジに入り、店員のNPCの胸ぐらをつかむ。その隙に、俺はレジを漁る。このゲームの通貨単位はマネーという。1マネー=1ドルである。レジには1700マネー。1マネー=100円とすると、17万円相当だろうか。ちなみにピストルは500マネー。アサルトライフルは安いもので1000マネーだ。ナイフなどは100マネーもしないで買えるものもある。

俺はレジの中の金をすべてバッグの中に入れる。バッグの中身が【1700マネー】と表示されたことを確認し、chaosさんに合図をする。そして、chaosさんとともに店を出た。

...目の前には走る車。

chaosさんは、店を飛び出した勢いのまま、道路に飛び出した。

キキーッっとブレーキの音。止まった車のドアを開け、乗っているNPCを無理やり降ろす。

≪ちなみにchaosさん。運転経験は?≫

≪ないです。...Kurosukeさんも?≫

≪ないです。≫

こりゃまずい。ただでさえ道路が右側通行、左ハンドルで運転しにくいのに、無免許二人がぶっつけ本番で運転。しかも途中から警察が追いかけてくるという。やばいかもしれない。

ここで、俺は究極の考えにたどり着いた。

≪プレイヤーがいないところに逃げましょう。警察から逃げれなくてもいいんですよ!プレイヤーから物資を取られなければいいんです。警察に殺されても、ペナルティがあるわけではありませんよ!≫

≪そうか!その手があったか!≫

そう、できるだけプレイヤーがいないところに行けば、プレイヤーに死体を漁られる心配はない。クエストクリアボーナスはもらえないが、全部なくなるよりましだろう。山奥など、町の外へ行けばいい。そこで警察に殺されれば...ん?

≪ここで自殺すればよくないですか?≫

≪そんな度胸ないです≫

即答された。

≪...すみません。自分もないです。≫

拳銃を持っているならともかく、今私たちは何も武器を持っていない。死ぬとするなら車で轢かれるか、chaosさんに殴り殺してもらうかだ。だが、やはりそんなことはできそうにない。

早速俺たちは車に乗る。運転はchaosさんである。

≪安全運転で。≫

≪無茶言わないでくださいよ!≫

急発進した。フラフラである。NPCの車に何度もぶつけている。そのせいで、衝撃がすごいことになっていた。

≪ちょっと!スピード出しすぎです!≫

≪やばい、警察もう来ますって!早く山奥行かないと!≫

運転しながらメールを返信する器用なchaosさんは、何とか車を安定させ、アクセルをさらに深く踏み込む。スピードは時速150キロ以上出ているだろうか。何とか他の車をよけ、町から離れることができた。しかし、ここで思わぬ事態が。

「ひゃっはああああああああ!俺らも暴れるぜええええええええ!!」

「うらああああああああああ!」

「ひゃっはああああああ!!!」

ガラの悪い車に乗ったVCプレイヤーが追いかけてきたのである。

≪やばいやばい!警察よりやばいのが来てます!もっとスピード出して!!!≫

chaosさんは運転中で、メールの返信ができない。かなり焦っている様子が伝わってきた。俺が何とかしなければ。俺はトランクに使えそうなものがないか探す。すると、ゴルフクラブを見つけた。俺はそこからゴルフボールを取り出す。

バババババババババババン!!

銃声が響く。まずい。腕に当たってしまったようだ。HPが少し減った。

俺は慌ててchaosさんの様子を見た。無事のようだ。すると、大きなカーブに差し掛かる。これはチャンスと思い、窓を開けここぞとばかりに俺はゴルフボールを後ろに投げた。後ろのチンピラプレイヤーは、カーブでハンドルを切った瞬間、ゴルフボールがフロントガラスに当たる。

「うおおおおおおおおおおお!」

「兄貴あぶねええええええ」

びっくりした運転手が、変な方向にハンドルを切ったらしく、そのまま道の外に外れた。チンピラたちの車は、木に激突していた。

≪今です!急いで!≫

俺たちはさらにスピードを出し走った。

______

≪警察来ませんね。≫

≪ですね≫

山奥に逃げ込んだ俺たち。どうやら警察も巻いたらしい。すると、スマホに通知が来た。

【クエストクリア!クリアボーナス+500マネー】

俺の銀行口座に、500マネーが追加されたようだ。

そして、プレイヤーランクは2になった。

≪...お疲れ様です。≫

≪疲れた。いやー、もうほんとに疲れました。≫

サクッと報酬を山分けした。一人850マネーとボーナスの500マネー。合わせて1350マネーだ。初期は1000マネーなので、悪くない結果であった。

≪自分はもう寝ます。今日はぐっすり寝れそうですよ。≫

≪ですね。やばい、マジで眠いので寝ます。お休みです。≫

俺はログアウトし、そのまま眠りについた。

泥のように爆睡できた。

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