第一章 ネカマから美少女へ

第2話 仮想世界

スマホからサクッと初期設定をし、いよいよゲームを起動した。

ゲームを起動すると、

【機器に不具合が生じた場合などは、目を一分間閉じてください。ゲームが強制終了されます】

という注意が出た。なるほど、ネットの掲示板で「ゲーム開いたら目ずっとつぶってみ。すげえぞ!」と言っている人がいた理由はこれか。

バッド・コミュニティを開くと、最初は容姿の設定などが出てきた。

俺はなんとなく性別を女性にして、背丈は設定できる最低身長の150センチにした。

あとからこれは変えられるらしいし、何でもいいだろう。この女アバター結構かわいいな。

次はプレイヤーネーム。短い名前のほうが古参っぽさが出ていいだろう。

『Kuro』にした。

【使用されている名前です。】

ダメだった。

『Black』はどうだ!

【使用されている名前です。】

これもだめだ。

『Kurosuke』はどうだ!

【プレイヤーネームが『Kurosuke』に設定されました。】

決まってしまった。まあいいや。

名前の設定が終わると、チュートリアルが始まった。

目の前に都市が広がる。仮想世界とは思えないほどリアルであった。

この仮想世界では、現実世界と時間がリンクしている。今は夜6時なので、光り輝くビル群がとてもきれいであった。

ちなみに声を出そうと思えば出せるが、見た目が女なので声を出すとすごく違和感がある。なので、マイクは切っている状態である。周りには、俺と同じくチュートリアルをしている人たちが大勢いた。

「やっば!すげえええ!やばすぎる!やばすぎるって!」

「フレンドなろうぜ!なあ、組織組もうぜ!」

「かっけえ!ここでは何してもいいんだな!仮想世界すげえ!」

VCボイスチャットをつけてはしゃぐ人たちだ。...この人たち語彙力がないな。

しばらくすると俺の目の前に説明が表示された。

【バッド・コミュニティへようこそ!まずはこの世界の説明をします。】

お、きたきた。まあ、ここら辺の説明はネットで調べた情報からわかるが、一応きちんと聞くことにした。

【あなたは裏社会の人間として、この世界を楽しみましょう。仲間とともに組織を立ち上げ、時には強盗をしたり、時には敵対勢力のトップの暗殺をしたり、時にはプレイヤー同士で殺しあう。あなたは自由です。】

ちなみに、はじめはほとんどの人がクエストをするが、一部の人はPKを好んで行うらしい。ネットの掲示板では、「海岸と裏路地、それと田舎町に注意」と書かれていた。

プレイヤーが死んだ場合、死体が三十秒残る。その際にお金やアイテムが他のプレイヤーに奪われてしまうようだ。お金は銀行に預けたり、自分の基地、購入した自宅などにおいておける。手持ち金はなるべく少なくするように、と掲示板で書かれていた。

【街で暴れてはいけません。あなたがライバルを殺したいときは、人目の付かない場所で行いましょう。】

この世界では、都市部で暴れるとNPCの警察が出動する。警察はピストルやライフルなどで攻撃してくるらしい。軽度の犯罪では、罰金を払えば見逃してくれるが、街中のNPCの殺害、爆発物の使用、銃の乱射などをすれば攻撃してくる。そして反撃すると、だんだんと数が増えていき、最終的にはNPCの軍が出動してヘリや戦車が現れるらしい。一応それらも破壊可能だが、警察から懸賞金がかけられるとほかのプレイヤーがお金欲しさに狙ってくる。だから、都市部では暴れるな、ということだ。

【プレイヤーは四六時中、人工衛星に監視されています。プレイヤーたちはマップに表示されますが、橋の下、地下、屋内にいるとマップには表示されません。】

いつでも使えるマップ機能。プレイヤー名とその居場所が表示される。トンネルや地下などにいなければどこでも表示されてしまうらしい。また、PKなどをするとそれがマップ上に表示されるとのことだ。

【スマホは最重要アイテムです。ログイン、ログアウト以外の操作をほぼすべてこのスマホで行います。具体的には、クエストの発注や受注、仲間との連絡、買い物などに使用します。何もない空間を人差し指で右にスワイプすると、『メニュー』が表示されます。『メニュー』の『スマホを出現させる』から受け取ることができますので、確認してみてください。】

言われた指示通りにすると、スマホが出現した。そこには、設定、クエスト受注、メール機能、ショップなどが表示されていた。

【スマホは他のプレイヤーに取られても、置き忘れても大丈夫。再び『メニュ』→『スマホを出現させる』から受け取れます。スマホは破壊不能オブジェクトです。】

これについて、「服の中にスマホ入れれば最強じゃん」と言っている人が掲示板に見られたが、実際に試した人が、「ちょw銃弾スマホすり抜けたんだがwワイの死体から全部金取られたw誰か助けてくれw」と言っていた。かわいそうに。

【わからないことがあれば、『メニュー』の『ヘルプ』から確認できます。それでは、この世界をお楽しみください。】

意外と早く終わった。

チュートリアルが終わると、小さなリュックサックが背中に現れた。基本的に容量の制限はなく、無限に物が入るらしい。重さもそこまで重くない。そして腰のベルトについているポケットには、拳銃が入っていた。すげえ!これは感動する!

俺は早速、ある場所へ向かうことにした。初心者たちが始めに行く場所である。

大きく『バッド・コミュニティ・ビル』と書かれた看板が付いたビル。ここの中は、PVPが禁止されている。なので、初心者たちがフレンドや仲間を作るのに最適な場所であった。だが、ここであることに気づく。マップに映っている四人のプレイヤーのネームタグ。ビルの入り口前にいるその四人は、何やら自身のバッグの中をいじっていた。

すると、先ほどチュートリアルを一緒にしていたあのVCの男がビルに走っていった。

「おっしゃー!ここから俺の冒険が始まる!」

と一人で叫んでいた。

だが次の瞬間、バン!と銃声が鳴り響いた。

恐る恐る音がした方向を見ると、VCの男が倒れていた。そして、入り口の四人が死体をあさっている。そして、銃を撃った男がビルの中に入っていった。警察は来ない。

おそらく、あいつらは警察が来る前にビルの中に入り、指名手配が解除されたらまた出てくるという手を使いPKしている。発売されたばかりなのに、もうあんなPK術が開発されていた。

ピロンという音。ポケットに入れていたスマホからの音だ。見てみると一軒のメールが届いていた。

確認してみると、どうやら今の様子を見ていたであろうプレイヤーがメールをしてきたようだ。名前は『jack』。曰く、

≪組んであいつら倒しません?あいつらのせいでみんな入れないんですよ。≫

とのことだ。再びメールの通知が届く。

≪僕は今『Pisoka』さんと『chaos』さんと組んでます。あの四人を倒すのだけ協力してもらえませんかね?≫

悪くない。先ほど使っていた相手の武器はピストル。こちらもピストルなので、奇襲を仕掛ければいけそうだ。あいつらを倒したらすぐにビルに入れば問題ないだろう。

≪わかりました。協力します≫

と返信した。マップ上に、『jack』『Pisoka』『chaos』というネームタグが確認できる。俺は一度彼らのもとに向かうことにした。

彼らのアバターは若い男、若い女、筋肉おやじと言ったところだ。俺は警戒を怠らずにリュックサックを右手で持ち、チャックは開けたままにしていた。すると、若い男がVCをつける。

「あー、どうも。俺が『jack』です。この女性が『Pisoka』さんで、この男性が『chaos』さんです。『Kurosuke』さんはVCできますか?」

この姿でVCはさすがに恥ずかしい。メールで

≪ごめんなさい、できないです。≫

と送った。すると、

「近くにいる人にはメールを使わなくても普通の『チャット』で話せますよ。」

と言われた。すると、『Pisoka』さんの前に

≪どうも。ピソカといいます≫

という文字が現れた。なるほど。これは便利だ。

≪カオスです。よろしくお願いします。≫

筋肉おやじの前にも文字が現れた。俺も挨拶を終えると、

「じゃあ、作戦会議をしますか。『Kurosuke』さんも荷物を下ろしてください。」

と『jack』さんが言った。...ん?この流れは...

次の瞬間。いつの間にか俺の後ろに回った『Pisoka』さんが、俺の首を絞めてきた。

このゲームには苦しみや痛みはないが、首を絞められ動けない。パン、と乾いた音。

『chaos』さんが『jack』さんに頭を撃ち抜かれていた。どうやら、『jack』と『Pisoka』はグルらしい。そして、警察を巻ける場所であるこのビルに逃げ込む必要があることから、こいつらはあの入り口の四人ともグルだろう。

「ぶはは!騙されてやんの!雑魚乙ざこおつ!」

俺は一瞬で理解した。このゲーム、民度低い。

『Pisoka』にナイフで刺される。HPがゼロになり、視界が暗転した。死ぬと自分の死体を見下ろす形でリスポーン待ちとなるようだ。ああ、初期の金がすべて取られてしまった。

俺、このゲームやっていけるかなあ。

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