第5話 女になった日

朝目が覚めると、自身の二の腕に変な感触があった。

横を向いて寝ていたのだが、何かが自分の腕に乗っかるような感覚。

俺は体を起こした。

「...」

いつもと違う。何かが。

俺はいつものように眼鏡をかけようとベットのそばに置いている眼鏡に手を伸ばした。しかし、そこで気が付いた。

目が、よく見える。

いつもは眼鏡をかけないとぼやけてほぼ見えないのに、部屋がはっきりと、裸眼の状態で見える。

「...あれ?...っ!」

自分の口から出た声が、別人のような高い声であった。

ここで、自分の体をなんとなく見た。自分の胸でおなかが見えなかった。...は?胸??

そこから俺は軽いパニックになってしまった。

「は?は?はあ?」

急いで洗面台に向かう。洗面台の鏡をまじまじと見つめる。

鑑に映っていたのは、見たことがないくらい整った顔をした少女であった。

黒いきれいな長い髪が伸び、大きな目に長いまつ毛。可愛らしい鼻に艶めかしい唇。身長は150センチくらいで、凹凸が激しく女性らしい体つきをしている。

両掌を鏡にくっつけ、顔が鏡に付くくらい近づけた。俺が口を開けると、鏡の少女も口を開ける。片目をつぶれば少女も目をつぶり、手を上げれば少女も手を上げる。

「...」

これ、俺だ。

ここで、いつも朝は元気な俺の俺がおとなしいことに気づいた。もう、ここまでくれば分かる。

「...ない。」

一度も使ったことのない自身の息子は、いなくなっていた。

______

夢かと思い、何度も何度もほっぺた引っ張ったが、痛すぎたのでやめた。

どうしようどうしよう!

お母さんはもう夜勤から帰って、部屋で寝ているだろう。どうすればいいだろうか。母に「女になってた」なんて言って信じてくれるだろうか。この姿で学校になんていけない。

「ど、どうしよう」

しばらく部屋をぐるぐる回っていた。母に伝えるのが正解なのだろうが、信じてくれなかったらどうしよう、という不安が無限に沸いてくる。言わないと。言わないといけないのに...

親に言うのはひとまず置いておいて、何故女になったのか考えてみた。

「...昨日はなんもしてないよなあ」

昨日は普通にゲームが終わったら寝たはずだ。こんなことになる原因なんて...

ここで、俺はネットで調べてみることにした。

『女体化』

『性別変わる 病気』

『朝起きたら女になった』

『女体化 朝起きたら』

『フルダイブゲーム 影響』

『フルダイブゲーム 病気』

『フルダイブゲーム 女体化』

『バットコミュニティ 女体化』

全くの無駄であった。女になるなんて、それこそ漫画やアニメの話だ。できる限り調べたが、手術で性転換、とか、創作物ばかりしか出てこなかった。

「どうしよう...」

どんどん不安になってきた。このまま戻れないのか。

そうだ。こうなることを望んだのは自分だ。俺は昨日の寝る前のことを思い出した。

『自分がかわいい女の子だったらなあ』

そう。そうだ。自分が望んだことだ。なら、今の状況を楽しんでしまおう。

まず俺に合うサイズの服がない。とりあえず、服だけでも買ってこないと。

母が起きても大丈夫なように、家に置き手紙を残すことにした。

『お母さん。大事な話があります。それについて、今日は学校を休んでちょっと出かけます。夕方までには帰るので、待っていてください』

だぼだぼだが、古いパーカーとジーンズをはいて家から出た。目指すは数駅先のデパートだ。大丈夫。今まで俺はTSものの作品をたくさん見てきた。それを実戦すればいいだけだ。

結構厚手のパーカーだが、俺の今の体はだいぶエロいので、胸元を腕で隠すようにして駅まで向かった。とりあえず、下着だけでも買わなければ...

通勤ラッシュから少しずれた時間を狙って電車に乗る。それからすぐにデパートに着いた。

初めて行く女性の下着が売っている店。勇気を振り絞って店内に入った。

______

デパートでは、下着、パーカー、ズボンを買った。下着はこの体に合うサイズがあまり置いてなかったのですぐに決まった。そして服については、女の子らしい服がいまいちわからなかったので、とりあえずパーカーだ。下着の付け方なんかは、男子高校生のたしなみで勉強済みだ。

洋服を買い終わった後も、適当にデパートで時間をつぶしていた。理由は単純。家に帰るのが怖い。

昼は、フードコートで適当にハンバーガーを食べた。デパートの中では、視線をすごく感じたのでどっと疲れてしまった。美人もつらいんだな...

体が慣れていないというのも問題だ。肩は凝るし、足は痛いし、すぐ疲れるし。

フードコードを出たら、適当に本屋で漫画を見たりして時間をつぶすことにした。

そしてあっという間に夕方。そろそろ帰らないと。

電車の中では、変な汗がどっと出てきた。心臓が鳴る音が聞こえる。

緊張しながら道を歩いていたら、すぐに自宅についてしまった。

見慣れた家の扉を開けるのがこんなに怖いのは、人生で初めてだ。

「行か、ない、と」

勇気を出して、扉を開ける。リビングからテレビの音が聞こえた。俺は靴を脱いで、リビングに向かった。

「...えっと...」

「...あ...あの...」

すでに夜勤に行く準備をし終えた母と目が合った。母は俺をじっと見つめる。言わないと。朝起きてたらこんな姿になっていたということを。

「...」

「貴女は...」

自然と、涙が溢れた。どう説明すればいいのか、わからない。

「お、かあ...」

「...?」

涙のせいで前が見えない。母の顔から顔をそらし、必死に涙を拭った。

「...祐樹?」

母が、俺の名前を呼んだ。わかって、くれた。

「うん....うん!俺だよ!朝起きたら、こんなんに...女になっててそれでッ!」

母は俺を抱きしめた。わかってくれた。その安堵が心の中を埋め尽くした。

「もう。何かあったら早く言ってくれればいいのに...。」

俺は心がすっと軽くなるのを感じた。

______

俺は一通り説明した。

「明日、病院に行きましょうか。知り合いの医者に電話してみるよ。」

「うん。」

「...お母さん、今日仕事休んだほうがいい?」

「いや、大丈夫。一人で大丈夫だよ。」

「...貴女ほんとに祐樹?もっとあの子はひねくれてと思うけど...」

「ちょっと!」

母は冗談交じりでそんなことを言った。

「大丈夫。わかってるよ。祐樹は本当は泣き虫だもんね。」

「もううるさい!」

母は夕食を作って夜勤に行った。俺が自分で大丈夫と言ったとはいえ、息子がこんな状況なのによく仕事に行けるな、なんて思ったが、一人になる時間を作ってあげようという母なりの気遣いなのかもしれない。

母が仕事に行った後は、しばらく自分の体を触っていた。まあ。うん。好奇心です。

その後は夕食を適当に食べた。そしてしばらく食休みをした後。

「風呂入るか...」

大丈夫。デパートに着いてからトイレだって一人でできたじゃないか。

服を脱いで、体を洗う。自分で言うのもあれだが、この体はいろいろすごいので、洗いにくかった。

...自分一人しかいないのに、なんかちょっと恥ずかしかった。

風呂から出た後は、いつものようにゲームをする。

いやまてよ?

「俺もうネカマじゃないじゃん。」

本当に女になったので、あっちでVCつけても大丈夫ってことだ。今日はVCをつけて遊ぶか。

俺は、さっそくゲームを起動した。

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