第22話
気が付くとボンヤリしている。
あの熱烈なキスの後でオーギュストから正式に告白された。
女神の呪いを解決したら俺が男を選んでも女を選んでも、正式に付き合ってほしいって。
それも結婚を前提に。
俺は俺が男を選んだらオーギュストの家系が途絶えるから無理だって即答したけど、オーギュストは例え家を潰しても、結婚したいのは俺だけだって反論してきた。
正直に言うなら、ちょっと対処に困ってる。
だって今の俺が抵抗なく受け入れている男はオーギュストだけだし、オーギュスト自身、俺の性別には頓着してない。
寧ろ子供なんて別にいらないから、俺には幼い頃から付き合ってきた男のままでいてほしいって思っているみたいだった。
言っていることだけを見れば全部兄貴も言っていたことだ。
男の俺も女の俺も誰にも渡さないって、あのとき兄貴は確かにそう言ってた。
なのにどうしてオーギュストの言葉には腹が立たないのに、兄貴に言われると怒りと恐怖、そして絶望感に襲われるんだろう?
オーギュストの求婚には誠意を感じるのに、なんで兄貴からは支配欲しか感じないんだ?
言っている内容に差はないのに。
「ちょっと待てよ?」
そこまで考えたとき、寝台に横たわっていた俺は、ガバリッと上半身を起こした。
「ほんとに同じ内容だったか? 思い出すんだ!! あのとき兄貴はなんて言った? ノエルの俺を見て」
オーギュストは性別なんてどうでもいい。
男の俺も女の俺もどちらも俺だから、俺がどちらを選んでも構わないし、それを強制で決めさせたりしない。
そう言っていた。
そう。
あいつは「シリル・ノワール」を好きになったから、男でも女でも、それが間違いなく俺なら、どうでもよかったんだ。
性別を選ぶのはあくまでも俺の自由意思だと。
だけど兄貴は……違う。
兄貴はあのとき、無理矢理俺を抱いて強引に女に変えようとしていた。
そこには俺の気持ちも存在しない強制的な関係しかなく、どちらの性別を選ぶかという自由意思すら認めてなかった。
「そうだ。だから、俺は兄貴が怖かったんだ。兄貴はただ俺を自由に扱って、都合よく所有したがってたから」
そこにあるのはただの支配欲。
愛情ですらない。
兄貴はただ俺を自分の所有物にしたかっただけだ。
俺にとってそれは強姦や陵辱以外のなんでもない。
そうやって結婚させられたら、それは幸せな結婚生活じゃなく無理矢理牢獄に投監されるのも同じなんだ。
だから、俺は兄貴が怖かった。
自覚してなかったけど俺は兄貴が、俺を欲しがっている真の理由を理解していたから、兄貴を恐れてたんだ。
我ながら鈍感すぎて笑える。
「鈍すぎるって。俺。ポジティブに考えていたら、いつだって道は開けてなんとかなってきたから、今度もそうやって悪い方向へは考えないようにしてたけど。でも、それって結局現実から目を背けてるだけじゃないか」
オーギュストに求婚されても、単純に考えられなかったのは、オーギュストでは兄貴には勝てないからだ。
俺への気持ちがあいつの立場を危うくしそうで、だから、とっさに返した拒絶はあいつを兄貴と対立させたくなかったからだ。
勿論ランドルフという英雄から、直接兄貴との結婚だけは禁止されてるから、父さんが兄貴の気持ちを肯定することはもうない。
だけど……。
「そうなったら俺に対しては狂気染みた執着を向けてる兄貴はどう出る?」
これまではなるべく見ないようにしていた未来の可能性。
兄貴が激情に支配されて俺を監禁する未来が見える。
オーギュストに対しては怒りと嫉妬で敵対する姿も。
「アハハ。救いのなさに泣けてくる。俺は女神サリアだけじゃなく……兄貴も敵に回して自由を勝ち取らないと未来はないのかよ? コンチクショー!!」
思わず拳で強く寝台を叩いたけど痛みは感じなくて泣きたくなってきた。
兄貴と女神サリア。
ふたりと正面から戦い勝利しないと俺には未来はない、か。
呪われた王子様は溺愛してくる変態王太子から逃れたい〜変態兄貴だけじゃなく女神とも敵対する? 男女で呪われたまま? 顔は女顔でも俺は男!! 呪いになんて負けてたまるかーっ!!〜 奏 @22152224
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