9話「入浴の順番」

「ゲームする!」

「あいあい、好きなのでいいよ」


 晩御飯を食べ終えて片付けを終えると、早速ゲーム機を引っ張り出して、電源を付ける。

 様々なソフトを買っているが、勝手満足する事が多い上に、基本的にソロプレイぐらいしか、することがなかった。

 なので、芽衣と一緒にゲームをやれることは、とても新鮮で楽しい。


「ここであのアイテムを引いたら、私の勝利は確実よ……来い!」

「そんな簡単に引かれてたまるかって、嘘だろ……!?」

「はい、私の勝ちー」

「最近のゲームって、サイコロとかルーレットって、目押し出来たっけ……?」


 お互いにイーブンで対戦できるゲームとなると、やはり運の良さがモノを言うようなものばかりになってくる。

 芽衣の運の良さは相当なもので、ことごとく大事な場面で欲しいアイテムなどが手に入ったりして、全く勝てなかった。

 普段なら発狂しているレベルなのだが、勝つ度に芽衣が楽しそうにはしゃぐので、負けてもいいかと思ってしまう。

 今では、オンラインが当たり前なりつつある中で、こうして同じ空間にいて、はしゃぐのも悪くない。


「何かゲーム色々持ってる割に、弱くなーい?」

「あれだけ運の良さが発動すると、何も出来ないって……」

「泣き言を言うとは情けないっ!」


 その後も、芽衣から一方的にボコボコにされてしまった。


「ふぅー、遊んだ遊んだ!」

「結局、今日俺って何回勝てた……?」

「間違いなく、片手で数えるくらいしか勝ってないねー」

「運だけでそんなに差がつくなんておかしい……。また違う日なら、運も変わるかもしれん」

「お、再戦希望か? いつでも受けるぞ」

「テスト終わるまでは、合間合間にしか出来ないけど、終わったら毎日相手してやるよ」

「そうなると、毎日負けて落ち込む拓篤が、見る事が出来るってことだな? 楽しみにしてるぞ?」


 そんなことを話していると、すでに時計は22時を指している。


「そろそろ風呂の準備でもするかな。今からお湯を入れるから、芽衣が先に入ってくれ」

「え、そんな悪いよ。拓篤の後に入るから、気にしないで」

「いくら知ってる相手である俺とはいえ、全く知らない部屋に来て、疲れてるだろ。ゆっくりと浸かって疲れとったほうがいいぞ」


 ここまで、昔のような自然なやり取りが出来ているようには感じる。

 しかし、これが逆の立場だったら、当然だが俺は落ち着いてはいられないと思う。

 ところどころで「ここは私が!」と、何か申し訳無さを感じているような言葉が出ているしな。


「本当にいいの? 今日ずっと気を遣ってもらってるような気がするけど……」

「そう感じる時点で、気を張ってる証拠だって。明日もまだ休みだけど、それからはまた普通に仕事行かないと行けないんだろ? 疲れしっかり取らないと、一週間大変だぞ」


 最悪、大学みたいにしんどかったら講義1つぐらい休んでも……みたいに仕事はならないはず。

 それに、周りの人との年差とかもあるって話をしていたので、仕事場でも緊張感はあまり抜けていない可能性も高いだろうしな。

 仕事中に、体調不良で倒れたとか大事になると、より状況がややこしくなりそうな気もする。


「ありがと。じゃあ、お言葉に甘える」

「おう」


 芽衣が頷いたのを見て、俺は浴槽にお湯を溜める準備を始める。

 15分ほどで、ある程度お湯は浴槽に溜まる。


「ほい、風呂の準備出来たぞ。ごゆっくりどうぞ」

「どーも。覗いちゃだめだよ?」

「そんなことをする根性がないから、安心してご入浴くださいまし」

「だよねー」


 芽衣にちょっと笑いながらそう言われた。

 残念ながら、そんなことが出来るほど、やんちゃな性格に生まれてこなかった。

 と、自分で言うくらいわかっているので、特に女子にはヘタレと烙印を押されたくない。

 なので、先程の「だよねー」は、ちょっといただけないのだが。


「うっわ、あっつい! いっつもこんな温度のお風呂入ってるの!?」

「すまん。お湯と水の出る量、蛇口で調整して入れるタイプだから、ちょっとお湯が多かったかもしれない。熱かったら、水足してくれ」

「あーい!」


 浴室の反響した声が、こちらにまで響いてきた。

 どうやら、お湯と水の比率がうまくいかなかったようだ。

 定期的にこういうことが、起きたりする。


 俺もテレビをつけて、適当な番組を流し見しながら、スマホをいじって時間を潰した。

 しばらくすると、タオルを首にかけた部屋着姿の芽衣が戻ってきた。


「いやぁ、いい風呂でしたわ。長風呂でごめんね」

「別に構わんよ。それに、言うて40分くらいだろ?」

「お湯、冷めないうちに入ってきたら?」

「そうしようかな。風呂と歯磨きさえしておけば、いつ寝落ちしても大丈夫だし」


 あれだけ昼寝をしたのに、また眠気を感じつつある。

 あくびをしながら、クローゼットから着替えを取り出して浴室へと向かう。

 服を脱いで、近くにある洗濯機に直接放り投げてから、浴室入る。


「!」


 浴室に入った途端、いつもとは違う匂いに包まれた。

 その理由は、おそらくシャワーの近くに置かれた芽衣が所持しているシャンプーかボディーソープだろう。


「なんか……。不思議な感じがするな」


 普段から使っている自分の浴室なのに、ホテルの浴室を使っているかのようないつもと違う感覚がしている。

 この匂いで、色々と良くない事を考えてしまいそうになるが、自らを律しながら体を湯船に沈めた。

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