§11【痛い魔女】

「今日は前回より奥地へ行ってみるか」


 俺は睡眠をせず、あるクエストを受けるために森林地帯の奥地へと進む。


 現在、森林地帯の真ん中に俺はスタミナ回復のため近くの大きな木に腰をかけて休憩している。


「やっぱりキャラを動かしていない俺にはスタミナ消費があるな」


 俺は頭の鎧を外し、地面へ置くと鎧を通して俺の体へと振動が伝わる。


「地震か? いや違うな……ゲーム世界に地震なんか魔法とかでしか起きないしな……ってことは……遠くで土属性の魔法を使っているプレイヤーがいるってことだな」


 俺は外した鎧を付け直し、振動が起きた所へ向かうことにした。


 歩き続けてから1時間が経過した頃、俺の数百倍は強い魔力の風が吹き荒れる。


 鎧の隙間から棘に刺される痛みが走る。


「この感じからすると高ランクプレイヤーか、強いNPCだな。でもNPCって勝手に暴走とかしないよな?」

「早く魔法を撃て! 魔法使い!」

「あ、は、は、い! 《土湖グランドレイク》!」


 俺の目線の先からとても張った声、怒鳴り声が鳴り響く。

 声の響き具合的に数キロ離れていると予測できる。


 俺は気になり、慎重に声の主へと近付いていくと、再び強い魔力の風が吹き荒れる。


「鎧関係なく貫通してくる。こんなんじゃ、近付くことも出来ない」

「きゃー!」


 途端に俺の元へ小さな女の子が飛んでくる。

 黒い魔女帽子に黒いローブ、そしておしりの辺りまで伸びている長い黒髪、俺と似ている瞳色の透き通る薄い碧眼の少女だ。


「いてて……あっ! あっ、あっあっ……だ、だ、誰、ですか……!?」

「落ち着け、俺はクエストを受けてここに来た者だ」

「ク、ク、クエストを、受けにきたひと?」

「そうだ。ところでお前はどうして飛んできたんだ?」

「そ、それは……1人で演劇してました……」


 俺はまさかの1人演劇に驚き、目を丸くする。

 見た目は完全に清楚系だが、痛い系の少女だとは思えなかった。


「なあ、名前は?」

「あ、あ、アート、リナ……です……」

「アートリナか。1人でこんな奥地まで来たのか?」

「来たと言いますか……来なかったかと言いますか……元々いたと言いますか……いなかったりと言いますか……」

「選択肢が多いな……」


 俺と顔を合わせないように帽子の唾で顔を隠し、下を向き、両手でもじもじとしている。


「あっ! そうでした!」


 アートリナはいきなり勢いよく立ち上がり、俺の顎と衝突する。


 俺はあまりの強さに危険な森林の奥地で気絶した。


 そのままアートリナはホウキを抱えて走り去っていった。


 時が過ぎ、俺はようやく目を覚ますと辺りは完全に暗くなっており、梟の声が聞こえていた。


「アートリナ、鎧を貫通してあの威力かよ……いてて……鈍痛が響くな……」


 俺はゆっくりと立ち上がり、フラフラとした脚で森林の出口まで脚を運ぶ。


◇◆◇


 時は少し遡り、俺のいた地点から更に森林の奥地でアートリナが歩いている。


「わ、私……名前も知らない人を気絶させちゃいました……どうしましょう……」

「アートリナ、こっちだ。今から近日中に始まるイベント放送が始まるから、一緒に見るぞ」

「あ、あ、はい!」


 森林の奥地にツリーハウスのような物が建てられている。

 その扉が開かれ、中から角を生やしたオーガが顔を出し、アートリナを呼ぶと可愛らしい足取りで中へ入っていく。



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