第25話
「検査につぐ検査で気が変になりそうだっ」
むしゃくしゃして怒鳴り、リュシオンはイライラと歩き回った。
場所は聖宮の廊下。
侍医が検査の結果を調べるため、席を外した隙を狙って部屋を飛び出してきた無謀なリュシオンである。
たしかに体調は最悪なのだが、それを調べるための検査で、リュシオンの忍耐は限界になっていた。
なにが悲しくて1日中寝台に縛られて、検査ばかり受けなくてはいけないのか?
考えれば考えるほど腹が立つ。
最近は平熱があがってきて、平熱なんだか微熱なんだか謎である。
だから、すこし体温があがると侍医が高熱だと騒ぎだす。
逆に言うならすこしあがっただけで、高熱だと判断される平熱が、ずっと続いていることになる。
本人には自覚はあっても、それを素直に認める気はなかった。
認めればこの状態を(半監禁状態なのだ)受け入れなくてはならないから。
ただ高熱に近い体温が続いていることは事実で、本人も体調に異常を感じていた。
熱のせいなのか、身体がずっとダルくて、意識がはっきりしない。
ずっと頭に霧がかかっているような、不透明な感じが付きまとう。
いい加減、自分の身体だけでももて余しているのに、休む間もなく検査、検査。
リュシオンが短気を起こすのも当然の成り行きかもしれない。
「それにしても聖宮の構造は、すこし統一しすぎていないか? ほとんど慣れていない者を迷わせるためのような内部構造だ」
呟いた後で気がついた。
たぶんそうなのだ。
聖宮は元々、皇族の専用居住区である。
現在では神帝と世継ぎの君が居を構える特別な。
万が一に備えてこういう造りになっているのだ、きっと。
侵入者対策といったところだろう。
これだけ広大で入り込んだ内部が、似通った構造だとよく知らない者は絶対に迷う。
「なるほど……」
考えてあるな。
呟きながら歩いていて、ふと気づいた。
背後を振り向くと見慣れた聖宮の廊下。
前をみれば感じが違う廊下が続いている。
傍らに立つ近衛をみてしばし悩んだ。
もしかすると聖宮と王宮の境界線まできてしまったのだろうか。
聖宮の内部は不自由しないていどに憶えたが、王宮へと続く道はまだ知らなかった。
ディアスが教えてくれないのだ。
たぶんリュシオンを聖宮から出したくないのだろう。
そのくらいの意図は悟れるのだが、従う意志はなかった。
何気ない素振りで歩き出すリュシオンを、警備の近衛がじっとみている。
しかしあまりに堂々と聖宮から出てきたため、そのまま見送ってしまった。
「人通りが多い。やっぱり王宮だな。女性の姿も見掛けるし」
聖宮は以前のように完全な女人禁制ではないのだが、現在のリュシオンは侍女たちが集う場にはいないので違和感があった。
忙しそうに立ち働く人々。
侍女が廊下を楚々と歩く。
立ち居振舞いをみれば、貴族の令嬢か民からあがった侍女か、その区分はつく。
令嬢の行儀見習いの一環として、侍女として王宮に勤めるという条項があるらしいが、どうやら本当のようだ。
姿を変えていてもリュシオンは目立つのか、通りすがりの異性がみな彼を盗み見る。
「ラス?」
ためらいがちな声を背中で聞いて、驚いてリュシオンが立ち止まる。
振り返る緑の瞳に懐かしい少女の姿が映った。
「ラスティア孃?」
「ああ。本当にラスなのね。やっと逢えたわ」
涙ぐむ少女にリュシオンは困ったような笑みを浮かべ近づいた。
「心配していたわ。その後身体の調子はどうなのですか? すこしはなにか思い出せましたか?」
緊張しているのだろうか。
彼女の言葉遣いに以前はなかった堅苦しさを感じる。
違和感を感じつつもリュシオンは緩くかぶりを振った。
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