第40話


花ざかりとはではすぎな

君をのみ 待つに心をつくづくしかな


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


姫様の喪があけた年。

姫様の旦那様は 病気に

悩まされることも少なくなり、

92歳まで藩主を続けた。

そして93歳まで生きられたそうだ。

その影に、りんが食事改善したことも

大きいかもしれない。


何事も 移ればかわる 世の中を

夢なりけりと 思いざりけり


***


「小助、りんお前たちは、本当に行くのか?」

「はい。」

「このままここに居ていいんだぞ?

なんなら小助は私の護衛として

りんは、私の侍女と……。」

「お断りします。」

小助はこの城の主人(あるじ)の

言葉をさえぎった。

しかもなぜか目つきは鋭かった。

「ありがたいお話ありがとうございます。

私どもは、どこぞの者とはわからぬ

身分で、どこぞの馬の骨ともわからぬ

卑しい者です。」

姫様の旦那様は、小助に何か

言いたげな表情を浮かべていた。

「私どもは姫様のご好意でありがたい

仕事場に恵まれました。感謝します。

姫様の旦那様であるこのお城の

主人(あるじ)の……。」

一度言葉を切った小助は、ゆっくりと

息を吸い込みはきだした。

「あるじさまの弟君のお言葉をも

考慮した結果、私たちは……

自由気ままに歌舞伎ものにでも

なりながら旅をしようと思います。」

「……歌舞伎。」

「はい、かなり昔でうろ覚えですが、

歌舞伎者は色々な役柄を自由に

演じる事が出来るとお聞きしたので、

私とりんの2人で今度こそは

自由に…気ままに生きようと思います。」

ナニモノにも縛られない自由。

明日をもわからぬ身だけど、

何のしがらみ、ただの小助と

ただのりんになる。

六紋銭の家紋の○番目の子、小助。

四つ割り菱の家紋の、まり姫だった

そのお子、りん。

誰にも利用されないように……。


     ***


「小助兄さ……小助。」

「何だ?りん。」

「色々…あり過ぎたね。」

「…そうだな。」

「これからどこに行こうか?」

「りん?姫様の文にあった女性に

逢いに行くか?」

りんは静かに首を振った。

「……。」

「記憶が無いってどんな感じなんだろうね。

………辛い事が色々あり過ぎて、

その心が悲鳴あげたから

記憶するのをやめたのかも…ね。」

「……そうか、でも、本当にいいのか?」

「もしあって何か思い出したら、辛い

記憶なら悲しいから……。お互い

このまま変わらないままの方が、

いい気がするわ……。」

「……そっか。」

小助はりんの今にも泣き出しそうな

顔にそっと口付けた。

「……んっ、こ、小助!」

「隙あり。さあどこ行こうかなぁ。」

「もぉー。」

顔を赤くしながら膨れるりんと、

愛しい者を愛でる優しい目の小助。

「これから寒くなるし、南の方へでも

行ってみるか?」

「うー、南もいいけどお魚が美味しい

海にも行きたいなぁ。」

「海かあ。たしかにいいかもな。」

「……。」

「…りん、これからはずっと一緒だ。

2人で、いつでもどこへでも好きな時に

行けるよ。俺たちは自由だから。

寒くなる前に南のほうに行ったり、

暑くなる前に北のほうへ行ったり

2人であちこち寄り道しながら行こう。

2人で初めてのこと、たくさんみつけよう。

りん、幸せにするよ。」

「……うん、私も小助を幸せにするよ。」

2人は微笑みあい、手を繋いで

旅に出たのだった。


      おしまい

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とある姫様の侍女と相談相手の持ちモノ さつき @sathuki3104329429

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