第37話
姫様と姫様の旦那様との間に3人目の
命が授かった。
首も腰も座られた、小さな小さな
姫様たちの子宝。
その大切な子宝の表情も
増えて来た頃のお話。
「わぁ、可愛い。」
「ほんにのぉ。産んですぐはしわくちゃで
妾の子ながら、身体の色に驚いたわ。」
「……。」
産む時、りんはお湯を沸かしたり
産着を準備したり、他の侍女たちと
ワクワクしていた。
だが、赤ちゃんを実際に産む瞬間や
産湯に浸かるところなどは見ていなかった。
「赤子という事で、赤らんでるんでしょうか?」
「ん~、なんじゃろうか?しわくちゃなのに
ふやけたアケビの様な色じゃ。それに
頭の骨が5つか6つ?いやそれ以上か?
この子は、上の子と違って、髪の毛が
薄いからよぉみえたわ。」
姫様によると産んだ直後は、赤子の
頭は頭の骨がズレるかのように
くっきりわかるほどだったらしいが
時間とともに、ふくらみ丸みを帯びた
頭かたちになったそうだ。
「ほんに、不思議よのぉ。今では
ぷくぷくでまるまるとしているわ。」
「子宝とは、神秘的でございますねぇ。」
姫様とりんはそんな話をしながら
りんの手作りの甘味を食べていた。
周りの護衛や小助も部屋の外で待機していた。
「あァァァ~!俺も可愛い子宝が欲しい。
誰か俺とヤらせてくれないかなぁ。」
「おまえは、子宝がほしいのか?
それともヤる相手がほしいのか?」
「もち(ろん)両方。」
「バカ、お前とヤる相手は商売女しか
いねーよ。」
「ひでぇ。自分で言うのも何だけどよ
俺、そこそこ女に声かけられるんだぜ。」
「あーハイハイ。んで、今日は
何人に振られたんだ?」
「うわぁ。ひどい、ひどすぎる。
俺、そこそこ悪くないはずなのに
なぜか、思ってたのとちがう、とか
やっぱりごめんなさい。って
言われるんだ。」
「……。」
「なあ、なんで"やっぱり"なんだ?
どういう、"やっぱり"で"ごめん"なんだ?」
姫様とりんは聞くつもりはなかった。
だが思いのほか、外からの声は大きく
ほぼ丸聞こえだった。
人知れずニヤリと笑った姫様。
「おりん、この後ヒマか?」
「とくに、急ぎの用事はございません。」
姫様は子に自らの乳をあげた後
乳母に我が子を預けた。
本来なら子を産んだ身分ある姫君には
必ず乳母が数人いるのだが、姫様は
りんのおかげなのか、乳の出もよく
乳をやらない時には、胸が張り
痛くなるほどだったので、
仕方なく回数は減らしたものの
(子を増やす為、断乳し、次の
子作りに専念する為。)
夜以外は、よく子に乳を吸わせていた
姫様だった。
**
「このご時世に、(子どもの)お披露目やら
なんやら、煩わしいが、どうせ皆
集まるなら、年頃のモノも集めようでないか。」
色々なしがらみの行事に、嫌気が
指していた姫様。
「年頃の男女のまどろっこしい
やりとりは、面倒じゃ。それに
身分あるものが親の言いなりで
婚姻するのはある意味…悲恋が多い。
だから、この絵巻物のような
恋物語ばかり作られるんじゃ。
そう、思わなんだか、おりん?」
「えっええ、あっはい、そうですねぇ。」
「なんじゃ?おりん、例えばじゃ、うーむ
小助がもしやの話じゃぞ?…どこぞの血筋で、
どこぞの名ある姫君を無理矢理
貰わなければいけない…とか、
本人の意思は関係なく
決められるのは嫌じゃ、とは思わんか?」
姫様の言葉に、モヤモヤしたあと
言い難い感情がりんの中で膨れ上がった。
「嫌!で、ございますぅ……。」
「そ、そうじゃろ。だから、何ものにも
縛られず自分の意思で決め、自由に
恋を楽しむ、そうゆう集まりの場を
設けてたら良いと思わないか?」
「はい!!良いと思います!」
りんは、姫様にのせられるがまま
日時やその他細々したのを決めていったのだった。
「部屋で座ってご飯を食べる、お披露目とは
この子が妾たちの子じゃぁ!とか、
功績の者に褒美を渡すんじゃが、
長く座るのは嫌じゃ。長々とお経のような
祝いの言葉も面倒じゃ。おりん、
そちならな何か、いい案はないかのぉ?」
「お披露目があまりどういう感じかは
わかりませんが、くつろぎながら
食べたり話したりでしたら、お茶屋の
様な椅子などを、この広い庭にだして、
ちょっとした食事とか出したら
どうでしょうか?あとは、一通りの
人数分の料理をだし、護衛さんが
苦手な物を省けるようにするとか……。」
「どういう事だ?」
「例えば汁物でしたら、具材ごとに
盛り付けた器を、数種類準備して
自分で好きな物を椀に入れるんです。
あとは、味噌汁の汁をそこにかけて、
自分で具材を選ぶ味噌汁にするとか
そんな感じです。」
「おもしろそうじゃな。それなら……。」
「はい。」
姫様とりん、そして侍女たちは
ニヤリとした。
お披露目開始の少し前。
「う~緊張する。」
「直吉(なおきち・護衛の名前)さんは、
確か来年で元服なのですよね?
どんな方と一緒になりたいんですか?」
りんと小助は主催者の、お見合いの
お手伝い要員として聞いた。
「あぁ。もうすぐ大人だけど、俺と
い、一緒になってくれるなら、俺を
好きになってくれる相手なら誰でもいいすっ!」
「……直吉。」
小助はため息をついた。
「……直吉さん、誰でもいいとか言っちゃぁ
ダメです……気持ちはわからなくは
ありませんが……ダメです。」
「……だ、ダメなのか、俺はダメなやつなのか。」
りんと姫様の護衛の直吉の考えが
少しズレているのだが、姫様や
聞き耳を立てている周りのものは
訂正せず、見守っていた。
「直吉さんは、14歳で長男でしたよね?」
「んっ、そうです。」
「後継で家持ち、姫様の護衛。収入もあり
好条件な殿方。女性の親たちからも
そう見られてる可能性はあります。
お相手の持参金とかは、直吉さんは
どれくらいを望みますか?」
「……なっ。」
「なっ?」
「……何もいりません。なんなら
そのまま、ハダカで来て欲しいすっ、
すぐに、だ、抱きやすいし……。」
「……なっ、なに言ってるんですか!!
バカ直吉さんのバカ!」
「えっ?なんで?」
小助は片手で、顔を覆いながら
こめかみを抑えていた。
姫様は苦笑い、他のものたちは
微妙な笑みを浮かべていた。
直吉さんは元服を控えた長男。
家督を受け継ぐ長男で結婚適齢期。
健康的でたくましく、この時代では高収入。
黙っていればカッコいい殿方。
口下手で、焦るとなぜか無駄に
饒舌(じょうぜつ)になる直吉だった。
女性は子どもを産んで血を残すための
道具、子を産む為の存在となっていて
立場が非常に弱かった。
婚姻前は親の庇護下(ひごか)での言いなり、
婚姻後は夫の庇護下で……。
身分が釣り合わない時などには、
(姫様は違った事情だったが)
養子縁組したり、持参金を積んで
自分の家柄より上に嫁がせようとする
親が多いのだった。
「直吉さんは、今まで女性との
出会いとかどうなされてたんですか?」
「やめろ!りん、そいつに聞くな!」
小助は慌てて、さえぎろうとした。
「えっ?」
「よくぞ聞いて下さいました!!
りんちゃん可愛いねぇ。
男心わかってるぅ!!俺もねー
いつもおかしいって思うくらい、
数人のかわい子ちゃんが声かけて
くれるんだけど、そのお誘いを受けなきゃって
俺の中の男がすたるって思って、
複数から声かけられたら、すかさず
みんなまとめて一緒に甘味でも
食べよう!ってなかんじ。
帰りも気にしないでいいし、
特にこだわらなくていいから、
なんなら俺の家に部屋あるし
そのまま来たら良いさって、
感じの事言うたら……。
なぜか、皆怒ったり、最低!とか
言うんだ……。りんちゃん、
なんでだと思う?俺が悪いのか?
声かけてきたのは向こうなんだよ?
それに答えただけだし、
夜のことも気にせず俺ん家で
一緒に寝たらいいのに……。
なんで、ダメなんだ?」
バキッ!
「りんに、近づくな!このゴミ野郎!」
「えっ?な、なんで、小助さんが?
いくらりんちゃんが可愛いからって、
りんちゃんがこの俺を
好きになってくれれば……。」
ボキッ!
「……ヒィッ!」
小助はなぜか、持っていた竹ぼうきを
ボキリと折ってしまった。
「たとえこの世が終わろうとも
りんはお前を好きにはならん!!
だから、お前の相手探しとやらを
この俺が、手助けしてやる!!
ありがたく思え!だから俺のりんに
話しかけるな!見るな!視界にはいるな!」
「……。」
ポカンとした直吉と、面白いものを
見るようなまわりの者と、姫様のお顔には
穏やかな笑みが浮かんでいた。
年頃の娘や息子、姫様の旦那様が
懇意にしている大名格を集め
お披露目は通常通り行われた。
「皆のもの、日頃の感謝として
庭に食事を用意した。一風変わった
感じのものだが、好きな物を
とって、好きなだけ食べる、無礼講の
食事の仕方だ。わからない者は、
ここにおる者たちに聞け。」
姫様の旦那様の声と共に、足を崩したり
立ち上がり、庭に降りる者、
お見合いの様なものと何も言わずとも
お目当ての相手に近寄る者、
さまざまだった。
問題の直吉は、常に小助が目を
光らしていた。
りんの兄だと告げると、青ざめながらも
ご機嫌をとろうとする直吉に、
"妹はやらん。"とキッパリ言ったそうだ。
そして、女性に対して無駄に喋るなと
厳命したのだった。
まだ婚姻を結んでいない侍女たちと
護衛たちは、料理の前に並び
料理の食べ方、新しい料理のスタイル
今で言うバイキング形式のやり方を
来賓たちに"教える"という、
スタッフの立場で会話を弾ませていた。
その作戦を立てたりんは、姫様とともに
アレコレ世話を焼きながら、楽しんだ。
結果数組のカップルが出来、数年後には
夫婦になったものまでいた。
「俺は無口な男になる!」
なぜかそう宣言した直吉は
見事、好みのお相手とお付き合いが
長続きし、婚姻した。
後に、その女性は直吉との閨事で
言葉攻めというワザに翻弄(ほんろう)
されるのだった。
***
「今回は楽しいお披露目の席じゃった。
功績としてちょっとした、褒美じゃが
何か、望みはあるか?」
小助とりんは、姫様と姫様の旦那様に
呼ばれていた。
「何もございません。」
「無欲よのぉ、りんは?何かないかぇ?」
「わ、私も特に何も……。」
ちらっと小助をみたが、りんも
特に欲しい物もなく、思いつかなかった。
「では、半分頼みで悪いがこの文を
ここから半日かかる旅籠(はたご)の
女将に渡してくれ。ついでに羽を伸ばして
温泉でも入ってこい。4日休みをやる。
これは路銀だ。余れば好きに使え。」
「「!!」」
2人は礼を言い早速旅の準備をした。
そして何事もなく、旅籠に到着。
この旅籠は、所謂(いわゆる)"草"
(忍者)のような存在のものばかりが
営んでいる旅籠だった。
「あい、承知したとお伝え下さい。」
文を確かめた女将の返事だった。
「お泊まりは、この部屋がオススメです。
部屋の中に温泉がひいてますので、
ごゆるりとお過ごし下さいませ。
お食事は、声かけしていただいた時に
お持ちしますが、どうされますか?」
グゥーぅ。
グゥー。
食事と聞いて、腹の虫が鳴った小助と
りんは、女将さんにクスッと笑われた。
「すぐにご準備しますね。」
「旅籠と聞いていたが、コレは
高級過ぎるだろう。」
「わぉ。広いし、ここは、外を
眺めながらのお風呂?すごい!!」
「お酒をお持ちしましょうか?
お風呂に浮かべて飲む事も
できますよ。」
「お酒?そう言えばあまりというか
飲んだことないわ。」
「そうでございますか?では
口当たりの良いにごり酒や甘酒も
ございますから、お試しになりますか?
お酒の蔵元とこの旅籠は兄弟関係
なんですよ。」
「地酒かあ。では、甘めの物と甘酒、
オススメのものを頼む。」
「わかりました。すぐご用意しますね。」
**
山の幸、海の幸の豪華な食事を
2人で楽しんだ。
少量の酒も入り、部屋風呂が目に入った。
「暑い。脱ぐ。」
「……りん?」
「うー、帯、誰よこんなにかたく
結んじゃって。もぉ~。」
「りん、着物は自分で着たはずだろう?」
「兄さんはかたい。これも、この帯も
かたい。もぉー、ほどいてよ。」
「りん、酔っ払ってるな。」
「酔っ払ってないから、早く、これ
解いてよ。脱げないの。脱ぎたいの。」
「はぁ~。お酒が入ったままだと
お風呂で危ないぞ?」
りんがフラフラで"危ない"という
意味で言った小助だった。
「危ない?小助は、お風呂で、りんと
入るの。抱いてくれてたらりんは、
大丈夫よ!早く、お風呂で抱いてよ。」
この時のりんは、自分はフラフラだから
しっかりしている小助が、湯船の中で
りんを"抱いて"支えてくれたら
良いじゃないの?って、言う感じだった。
「わかった。(かくごしろよ。)」
「うん。」
2人とも、そこそこにお酒が入っていた。
「ご褒美にこんな、立派なとこに
小助兄さん…小助と行けるなんて幸せ。
ある意味、直吉さんのおかげなのかな?」
「他の男の名前なんか聞きたくない。」
「えぇ?」
小助のあまりの気迫にりんはずりずりと
後ろに下がり、壁に背中を預けた。
「お、お酒飲みすぎたのよね?小助兄さん。」
「2人っきりだし、今は兄妹設定の
時じゃない。夫婦だ。元服の時
一つになっただろう?忘れたのか?」
りんは壁ドンされていた。
「忘れてるようなら、また、
やってやるよ。お風呂で抱いて
ほしいんだよな?かわいいりんの
願いは叶えてあげないとな、俺は
"そこそこ"優しいからな!!」
「……んっ。」
小助は数年前の事を根に持っていた様だ。
「ひゃっ……んっ。ああっ。つ、疲れ
ましたよね?ごめんなさい。お風呂は
いいから、ゆっくり眠って下さい。
あっ、わ、私、お布団しいてきます。」
「りん、そんな他人行儀な言葉づかいは
逆効果だ。俺がりんをイジメてるように
聞こえるし、さらにいじめたくなる。
それに、布団は食事中、中居さんが
敷いてくれたはずだ。」
「………。」
「ちゅっ。」
着物の帯は旅仕立てなのか、かたく
結ばれていたのをスルリと解いた。
汗ばんだ白い肌。
ほのかな酒の香り。
あらわになった無防備な胸元に
ぬるっとしたものが吸い付いた。
「っあぁぁ…ひっ……んっ!」
小助の絶妙な動きの指と舌の
動きに、逃げたい気持ちと
もっと続けて欲しい気持ちが混ざっていた。
パシャん……。
「うあぁぁ!」
「すまない。足元からかけるぞ。」
「うん。」
湯船のそばで、掛け湯を足の指、足首と
じわじわと上に上がってくる
小助の指と手のひら。
「ここに来る前、姫様の旦那様から
絵巻物を頂いたんだ。」
「……んっ?」
「そこにはな、色々な寝技が描かれて
いたんだ。りんも、それやってやるよ。」
「えっ?」
りんの、アルコールはほとんど抜けていた。
小さなおちょこに、3杯程度飲んだだけで
積極的すぎる小助にあわあわしていた。
「まっ……。やっ、そこ、だめ!」
荒い息をしながらも、小助は
りんに口付けていった。
「……。」
気だるい余韻にひたりながら
しばらく小助はりんをぎゅっと抱きしめた。
「りん、このまま…ずっといたいなぁ。」
「……また、あの時の様に風邪を
ひいちゃうわ。」
「ふっ、そうだなぁ。冷えると、風邪ひくし、
このまま、風呂に入ろう。」
「よっ、とっと。」
「えっ?ええ!」
小助は、りんをヒョイっと抱っこし
そのまま、お風呂の中で楽しんだのだった。
りんは、お風呂でのぼせたのか
小助にのぼせたのか、わからない状態のまま
布団の上でも、あえぐ事になったのだった。
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