第32話


いつとなく 心は空に 時の中

我が身以上に 大切な人


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翌日。

「米粉、もち粉、お団子は子どもがのどを

詰まらせてはいけないから、あっ、

おせんべいにしようかな?暇つぶしに

庭で焚き火して、子どもらと…うーん

一緒にしてもいいし……。」

りんはブツブツと小声で呟いていた。

忘れないように書き留めるためなのか

今では習った文字で木の板に、食べ物の

名前や材料を乱雑に書き、書いた本人すら

読めない様な文字まであり、

この城に来た時や今でもたまにだが

密偵からの暗号かと危ぶまれたこともあった。


「報告申し上げます。」

姫様の旦那様は話し合いという戦いの場に

行き、留守を預かる姫様がこの城の

指揮をとっていた

「おりん、考えてるとこ悪いが支度を

手伝って欲しい。」

「はい?!」

「小助も、あちらで少し準備頼む。

支度が済んだら正面の大門に来てくれ。」

「承知しました。」

何もわからないまま、小助は他の護衛と

一緒に、りんは姫様と一緒に準備のため

部屋に入っていった。

「我が旦那様は、まだ帰城していない。

妾は強い。妾は城、民を守らなければ

いけない。」

「……。」

姫様は何かを決意するかの様に

目を閉じ静かに呟いた。

「人は城、人は石垣、人は堀、

情けは味方、仇は敵なり。おりん…、

妾は…妾も…守るから。」

「……姫様。」


大殿の養女になった姫様。

姫様を正室にしていたことから、

旦那様は東軍の大殿に属し、

旦那様の父と次男は敵軍の西軍に

属することになった。

世に言う「犬伏の別れ」である。

戦乱前に旦那様の一族は以前から

このようなことになった時の為の

対処法を決めており、予定通りに

親子は敵味方に別れた。

話し合いが済んだあとは、

旦那様の父と次男は大殿の軍の

追撃を恐れてなのか、その日のうちに

陣を引き払い、早々と話し合いの場を

立ち去った。

追っ手を避けるため、最短距離である

とある山道は通らず、もう一つの街道を通り

一つの領を経由して居城を目指した。

旦那様の父と次男は、その途中で嫡男

である長男となる姫様の旦那様の

居城に立ち寄ったのだった。

義父たちは、敵を警戒しながら、

夜を徹して眠らないまま進軍したので

かなり疲労困憊(こんばい)していた。

もしかすると純粋に旦那様の父たちは、

敵方となった城だが、何も知らない

と思っている姫様が守っているお城で

宿代わりに休息しようとしたかもしれない。

だが城を乗っ取るために、立ち寄った

可能性もあると姫様は考えた。


先ほど家臣による早馬がきた。

城の留守を預かる姫様は、旦那様からの

手紙で、犬伏の別れの結果の報告を

受けていた。

極め付けに旦那様の父たちの

陣中に旦那様がいないことから、

完全に敵味方に分かれたことを

確信したのだった。

疲労困憊しながらも旦那様の城に

開門を求めたが、姫様は開門を

許可しなかったのだった。

執拗(しつよう)に義父たちは開門要求を

してきた。拒否する姫様たちに義父の

家臣たちは怒って城門を打ち破ろうとした。


りんや侍女たちに覆面させ、防具に

薙刀(なぎなた)長刀、弓矢を持たせた。

姫様は甲冑を着込み城壁に飛び出た。

「義父上といえど、今は敵。

城主の留守に押しかけるとは何事ぞ!

城内に入ろうとする者は1人残らず

討ち取ってみせる!!」

驚いた義父たちは城門にたたずんだ。

「狼藉をするつもりはない。

久しぶりに孫の顔を見ようと

思って立ち寄ったまでじゃ。」

しばらくの間、睨み合いが続いた。

「今は敵。城内城外を妾は預かる身。

どんなに時が過ぎようとも、入城を

許可出来ぬ。」

姫様は文をその場でしたため

義父の立ち位置、一歩前の地面に打ち射った。

「…!!!」

義父の家臣は慎重に矢から文を抜き取り

義父に手渡した。

それを読んだ義父は、無言で立ち去った。

「……。」

     ***

翌日。


姫様は影を使い敵となった義父たちの

動向を逐一報告させていた。

有志を募(つの)った臣下の者と

訓練された侍女を派遣し、

義父たちをお城の近くにある

お寺へと案内した。

そのお寺で、おりんたちと作った

食事や甘味などでもてなしたのだった。

服装を改めた姫様は、旦那様と姫様の

大切なお子、義父にとっては

孫を連れてお寺を訪れた。


"久しぶりに孫の顔を見ようと

思って立ち寄ったまでじゃ。"

昨日の義父、自らの言葉を

このお寺での面会により

お城へ入る口実を失ったのだった。


義父たちはお寺でひとときの休息を取った。

このとき、姫様は旗印はないものの

武装した兵にお寺を包囲させていた。

この包囲を知った、姫様の対応に

怒った旦那様の弟は、この町に火を

掛けましょうと提案したが、

義父はそれを制してしまった。


「…さすが赤備えの騎馬軍団を率いるお方の

娘ぞ。これでワシらの血脈も安泰じゃ。」

義父は旦那様の弟にそう言うと

お寺を後にして、自分の居城へと戻っていった。

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