第31話


いつとなく 心は空に 時の中

我の身以上に 大切な人


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


怖い夜は薄れてきた様な気がする。

………。

複数の足音。

悲鳴、私の名前を呼ぶ誰かの声。

……私は"みく"、そして"りん"。

他の誰でもない。

お館様に頂いた名前が私の名前。

たびたび、口にされるまり姫様が

私のお母様らしいけど…どこの誰だかは

あえて知らないふりをした。

たまに、姫様は優しげで悲しそうな

表情で私を見る時がある。

あの時…暗い洞窟で乱暴され……時、

私は…とある集団に助けられた。

だけど、私に何が起きたのかを

誰も聞きには来なかった。

聞こうとはしなかった?

やっと、私は気を失えたから

誰も何が起きたのか聞けなかった?


それからの私は毎夜の様に

怖くて恐ろしい"夢"を何度も……。

怖い夢と懐かしい夢、私は何かを

見てしまったのだろうか?

赤い夢。

夢から覚めると懐かしい泣き顔と

ぎこちない笑顔を浮かべる人がいた。

まさか…この人が私の?

あれ?私まだ、夢から覚めてないの?

何かを話しているのに、声は聞こえない。

優しげな女性……。

なのに顔を覚えれない。なぜ?

やがて視界は暗くなり、頬や身体を

抱きしめられる感触がした。

一瞬こわばる私の身体に、トントンと

一定のリズムとなぜか、少し…

音程のズレた子守唄が聞こえてくる。

懐かしく、私が好きな…声。

声をかけたら、夢からさめて

しまうのではないかと、不安に

駆(か)られてしまう……。

それでも私の目の前にいるのが

その人だと確かめたくて、私は

彼の名前を呼んでしまう……。

「……小助。」

「…怖いことはない。俺が守るよ。」

「……。」

「まだ、朝飯には早い時間だ。あと少し

眠ろう。安心して寝たらいいさ。」

ためらいがちに私を抱き寄せてくれた。

兄設定の小助のたくましい腕に

安心しながら私は眠った。

そっかぁ、ご飯には、まだ早いのね。


**


「握りがあまい!脇が、ガラ空きだ!」

「……。」

「正面からならまだいいが、敵は

卑怯者なんだ。どこを狙うかわからないんだ。」

「……。」

「気を引きしめろよ。それがキツイなら

りん、俺に大人しく守らせろよ。」

「それは嫌!!」

「りん、そこだけ即答かよ……はぁ。」

ため息を付いたあとの小助は、再度

真剣な顔付きをした。

「んっ?」

「刀はそれより、数倍重いんだ。

りんは、持てるのか?」

「……。」

「正面から馬鹿正直に向かってくる

敵ばかりじゃないし、斬り合いに

なった時、真っ先に間合いに入るのは、

人を斬るための刀なんだ。」

「……。」

「人を斬った後の刀はさらに重くなりぞ。」

「握りがあまければ、簡単に落とされる。

刺すのをためらうと、自分が…

斬られ刺され、大切な者を失う。

これは、殺しの道具なんだ!」

「……。」

「りんは俺が守るから、刀は持つな。

持たないでくれ……。」

「……。」

小助は辛そうな顔をしていた。


ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。

「「!!!」」

2人は振り返り渡り廊下を、見上げた。

「そう、見せつけてくれるな。」

「お母様、抱っこ!!」

「おお、母はおぬしがかわいいから

すっごく、抱っこしたいのも

やまやまじゃ。だがな、幼いころから

鍛錬(たんれん)の為もう少し、そうじゃな

あと、6本の柱を過ぎるまで

自分の足で歩いてからじゃ。そしたら

抱っこしてあげるぞ。」

「んっ。はい、お母様。」

「「……。」」

「稽古(けいこ)と称して妾たちに

みせつけるではない。焼けつきそうな

あつさじゃ。ここには嫁入り前の

者ばかりじゃ。」

「………。」

「……姫様。」

「そうじゃ、おりんと小助。日にちは

ハッキリしないがな、我が殿に

ついて行った重臣たちの妻や子らが

この城にくると思うから、女子(おなご)や

子どもらが、喜ぶ食べ物はないか?」

「お食事でですか?」

「おりんの得意な甘味でもよいが

何かあるなら、明日あたりからでも

材料など準備していて欲しい。

我が殿がこの城に帰るまで、ここに

歓迎するつもりじゃ。殿方がいないと

妻たちも不安だろうからな。」

「……。」

「……姫様お優しいですね。」

「妾は、優しくないぞ。」

「……?」

姫様と小助が複雑な表情をしていた事に

気づかないりんだった。

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