第25話


「もう、まもなく我が領地に入る。」


明日の朝には領地となるらしいこの場所。

あと数刻で領地入りらしいが、

もうすぐ日の入り時刻となっていた為

本日はここまでとし、明日の朝に姫様の

旦那様の領土に入ることになったのだった。

その為、野営が出来るような山の中の

少し開けた場所に移動していた。

姫様ようなの高貴な身分では本来ならば

駕籠(カゴ)などに乗り、移動するのだが……。

「姫様よろしいのですか?」

「なんじゃ、心配性で過保護の小助。」

姫様はにやっと笑いながら続けた。

「これだけ護衛もおるんじゃし、

おりんや他の侍女たちとおれば、

妾(わらわ)も侍女に見えるじゃろ?」

「……姫様、俺、私は心配性でも

ましてや過保護でもございません。

先程姫様の旦那様が領地に入ると

おっしゃってましたし

そろそろ駕籠に戻られた方が

よろしいんじゃないですか?」

「嫌じゃ。一人でボォ~っとするのも

じ~っとしてるのも、駕籠の中で

景色すら見えないのも嫌じゃ。

ましてや、1人だとロクな事

考えてしまうやもしれんぞ。皆と妾も

同じように歩いてもいいじゃないか?」

「……。」

「小助は、最近じいやが乗り移って

しまったのか?少し小声が多いぞ?!」

「……姫様!!」

小助の低い声に姫様はピクッとした。

「な、なんじゃ小助!」

焦る姫様をチラ見した小助はまた、

目線を下にし、頭を下げながら

姫様に声をかけるようりんに合図をした。


「あ、あの…姫様?何か心配事ですか?」

「おりんは、鋭いとこは鋭いなあ。

それに優しいなあ。」

「あ、ありがとうございます?」

「おりん、妾は不安なのじゃ。」

「不安…でございますか…?」

姫様、ご自身が嫁ぐのが決まった際、

すでに旦那様となる方には正室と側室

さらに子どもまでいたのだった。

その正室は婿候補との父と密約で、

大殿の養女、姫様を正室に迎えるために、

これまでの正室を家女(かじょ)

身分の低い女性、側室になったのだった。

すでに男児2人をももうけていたのだが

姫様の旦那様と元正室との間に

生まれた長男は、家督を継ぐことができず、

のちに分家として藩主となるのだった。

その事を、姫様の影から知らされ

思い悩んでいたのだった。

だが、その悩みをりんに言おうとしたが

やはり言えなかった。


「や、やはり…言えない。」

「姫様、悩みや不安は、言えば

それなりにスッキリする場合が

ございますよ?」

「おりん…お主は…はははっ。」

姫様は言える範囲の悩みを探した。

「そう言うなら……。」


昨日の夕方に迫った頃、川岸を

姫様たちの行列は進んでいた。

もう間も無く領地に付くとあって

皆の士気も高く、川もあることから

早めに野営地をたてる事となった。

姫様は、いつもの事ながら休憩時に

小助とりんが休憩場の近くの野草や

その他の食べれる木の実、山の幸を

探しに行っている間の事を思い出していた。

相談に乗る気満々のりんにその時

見てしまった事を、言ってみることにした。

「おりん、妾(わらわ)は見てしまったんじゃ。」

「ナニを見たんですか?」

「旦那様やその、他の殿方が……。」

「殿方が?」

「あんなに大きいだなんて、

あんなの妾に…無理じゃ。」

姫様が言うには、数日身体の汚れを

落としてなかった為、男女に分かれ

水浴びをする事となったのだが……。

姫様の旦那様やそのお付きの者たちから

始めた水浴びと洗濯、ほとんど裸体で

川に入られたそうだ。

のぞき見る気などサラサラなかった姫様は、

たまたま休憩していた木陰から

何気なしに川の方を見てしまった時に

見てはいけないモノが見えてしまったらしい。

男性のアレが……。

旦那様は、お付きの者に背中を流して

貰っていたそうだが、他の者たちは

ひと泳ぎした後、洗濯物もしたそうで

その際、褌(ふんどし)までも外していた。

バッチリ見てしまったらしい。

「大きい?ナニが無理なんですか?」

「ゴホッゴホッ。……おりん。」

姫様は、居眠りしていた閨(ねや)教育の

一環の授業を思い出してしまった。

あの後、居眠りした姫様に、僧侶である

先生が改めて姫様だけに特別な

座学を開いて下さったそうだ。

そこでさらに詳しい座学が展開されたのだった。

男女のアレコレの閨教育。

「おりんは、男のあの、もちモノを

み、見た事はあるのか?」

「持ち物でございますか?」

りんは、小助から聞けなかった殿方の

持ち物の事だったから、姫様の質問に

また困ってしまっていた。

「小助兄さんには聞いたんですけど……。」

「何?!聞いたのか?!」

姫様はなぜか驚いていた。

「はい、答えてくれないまま

なぜか怒ってしまいました。」

「小助……不憫(ふびん)なヤツじゃ。」

姫様の声は小さく、りんは聞き取れなかった。

「……んっ?姫様?」

「いや、なんじゃ、おりんは…小助と

仲が良いし、血は……。いや、顔が

似ていない異母兄妹か従兄弟、設(定)…

いや、忘れてくれ。」

姫様は、小助とりんを護衛と侍女に

する段階で身元を調査していたので

身元はおぼろげでハッキリとは

わからなかったとじいやが言っていた。

だが、小助とりんに血の繋がりがない事は

ほぼ、確定だと思っていた。


「姫様?大丈夫ですか?声がこもられ

聞き取れにくいのですが?」

「すまぬのぉ。りんは、小助と

風呂や水浴びとかした事はあるのか?」

「……小さな頃はよくしましたよ。

最近でしたら、旅が始まった頃ですね。

川があったのでしましたよ。でも

月も細くて辺りが暗くてちょっと

怖かったので、背中合わせで

水浴びしましたよ。」

「そうか、小助の身体はよく鍛えてそうじゃな。」

「はい、お腹の筋肉までムキムキで、

小さな頃はひょろっとして小さかったのに

私には無い小助兄さんのおちんちんも、

わりと大きくなりましたよ。それに

私も胸が少し膨らみましたし、男女の

身体に違いが出てきました。」

「なっ!!ゴホッゴホッ。」

「ひ、姫様?だ、大丈夫ですか?!」

姫様は、飲んでいたお水でむせてしまい

しばらくの間、顔も赤く涙目だったと

りんは思っていた。


その夜、事件が起きたのだった。


ご飯を食べたあと、侍女数人とで

川で身体を清めたり、数カ所分かれた場所で

洗い物をしていた。

「こちらの洗い物は終わったわ。」

「今から干せば朝にはかわきそうね。」

「そうね。」

「先に行って干してて下さい。私も

もう少しで終わりますし、あとは

ザブッと川に入ってきます。」

「いいよ。あと少しなら、待ってるわ。」

「あ、ありがとう。じゃあ、急いでするわね。」

りんが着物一枚になり、川に入ろうとした時だった。

ドサッ!!

何かが倒れる音がした。

「これは上物(じょうもの)。」

「へへっ、あたりだな。」

「……!!」

数人の男に口を塞がれ、気絶させられた

りんは、大きな袋に入れられ

連れ去られたのだった。

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