第23話

まり姫、りんの祖父


「あの方に……似ている。」

姫様の旦那は無意識のうちに呟いていた。

幼い頃見た儚(はかな)げでありながら強く

そして美しい女人の面影……。


***


りんもまだ生まれていない昔……。

とある国のお殿様は身をきるような決断をした。

国境を守るいくつかの重要拠点(きょてん)

を支配する大きな勢力のうちの一つに、

わずか6歳で輿入れさせた娘。

輿入れの際、相手国を押し切る形で

2人の重臣を派遣し娘の側近、

護衛、お目付役としてつけたのだった。

相手国は、初めのうちは護衛たちを

警戒していたが、姫は美しく素直、

姫が手元に置いてある状態、すなわち

人質も同然と考えるようになった。

姫の父の武将、その2人もまた

力はあるものの、同じく人質であり

"姫"という弱みがある為、渋々

受け入れていた。

姫の嫁ぎ先は、相手がたの"力"を

手に入れたも同然と年月と共に

考えを改めていったのだった。


やがて娘は成長し無事初潮も迎え、

正式に相手方の妻となり政略結婚となった。

婚姻により絆(キズナ)をさらに深めたのだった。

娘は4人の子をもうけた頃、不運にも

とある国による戦いが始まってしまった。

やがて、娘の夫が離反してとある国と

手を結んでしまったのだ。

つまり、娘と夫は敵国になってしまった。

そしてその裏切りの代償はあまりにも

大きすぎる傷となったのだった。

夫の母(70歳)、嫡男(13歳)、長女(17歳)が、

夫の裏切りにより、とある城にて

処刑されたのだった。

知らぬ間に敵国となった娘と孫たち。

そして、死んでしまった者たち。

やるせない気持ち……。

行き場のない気持ち…。

仕方がないとはいえ、敵国となった者たち

娘の父として孫を亡くした悲しみは

癒えることはなかった。


娘の我が子が、父にとっての同じく

我が子である甥っ子と姪っ子などを

見せしめとして処刑……。

娘の父も見た事がない孫たちに、気持ちの

落ち着けようがわからなかった。


娘はその時、乳飲み子を抱き三男の幼児と、

数人の監視役兼護衛と共に、我が子の

成長と無事を祈るためお寺に参拝していた為

難を逃れたのだった。

更に怒り狂った夫と夫の兄は、

追撃するかのように

戦いにのめり込んでいったのだった。


     **


我が子の成長祈願なのに……。

成長した他の我が子も連れ出せれてれば……。

りんの母はなげき悲しみながら

裏切り者の夫から離別したのだった。

"我が子らの 成長祈願 裏切りの

元旦那との 断ち切る想い"

"この仕打ち、お恨み申し上げますぞ。"

人質の為城から出れなかった我が子たち。

特別に城を出た幼な子を抱いたまり姫たち。

その日、近くのお寺へのお参りの為、

監視役の護衛に付き添われ城を 

特別に出れたのだった。

参拝中、知らせがきて護衛たちと

着のみきままに共に逃げた。

多くの月日を見送り、りんの母たちは

山で隠れ住み、根拠も点々としていた。

数年が経ち雨が降り続く日、その日もまた

数人の者たちと山に隠れ住んでいた。

そんな時、雨音に足を忍ばせる者たちがいた。

間一髪で逃げ出し、三男と幼いりんに

それぞれに護衛をつけた。

自らの紅(くれない)の組み紐を

それぞれの我が子に託し

三男の細腕と幼いりんの腰に巻きつけた。

三男とさらに幼いりんを抱っこし逃げる護衛。

今生の別れを覚悟したまり姫は

愛しい我が子と護衛、それらを見送った。

体調不良だったりんの母は

もう逃げきれないと思い、微笑みながら

敵の目の前で滝壺に身を投じたのだった。

追っ手たちは、命令とはいえ美しい姫と

幼な子たちに手をかけることに

戸惑い、微笑みながら身を投げた

美しい姫に病んでしまう者までいた。


天は、りんの母の命運を手放さなかった。

りんの母はとある人たちに助けられたのだった。

記憶喪失になってしまったが尼僧として

第二の人生を歩んでいたのだった。


雨上がりの翌日、まり姫様に託された

幼いりんを抱き護衛の者は生きるため

隠れながらも逃げていた。

だが見つかり、追っ手に斬られてしまった。

りんも肩から背中を斬られ死を

待つばかりだった。

そんな時、お館様と小助たちの気配を

いち早く知った者たちは、りんに

トドメを刺すことなく立ち去ったのだった。


     ***


りんの母の父。

りんの祖父はとても家族と家臣を大切にしていた。

身分を越えた実力主義による人材登用。

合議制、2人以上の複数人の合議によって

意思決定を行い、最終権限をりんの祖父に

委ねたりしていた。

金貨などのお金をを常に持ち歩き、 

戦のなど場で手柄を立てたものに

お金や武具、その者が好む物を極力

叶えながら褒美を与えるという事も行っていた。


また、家臣が存分に力を発揮できるよう

温泉開発も行うなど、現在でいうならば

保養所のような政策も実施していた。

さらに、私塾を開き、家臣の嫡子を

集団で学ばせるという人材育成まで

行っていた。正当な評価や厚い福利厚生、

風通しの良い職場を作り上げることで、

最強の軍団を作っていたまり姫の父。

そしてりんの祖父。


「人は城、人は石垣、人は堀、

情けは味方、仇(かたき)は敵なり」

その歌は記憶を失くしたりんの母の

胸に深く刺さっていた。


多くの武将が堅牢な城を築く中で、

城ではなく躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)

という館を拠点としていた父。

人=家臣と信頼関係を築き、

その能力をフルに活用することができれば、

堅牢な城や石垣、深い堀以上に

強固な絆(きずな)を作り上げることができる

そういう歌かもしれなかった。


りんの祖父はリーダーの資質として、

人材を見極める力が重要と考えており、

実際に身分に関係なく力を持った家臣を

優遇していた。二十四将にも数えられる

強い将のうち、もともとは百姓の身分や浪人

なども含まれていたそうだ。

有名な魔王と呼ばれた男に恐れられ

大殿にとっては何度も打ち破られた

憎きも恐ろしい相手だった。

赤備えの騎馬軍団とも呼ばれていた。

日の当たる場所でも、闇夜にでさえ

戦いの場ではその赤は相手の血を吸い

濡れ、艶やかに映えていたそうだ。

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