第22話

姫様の旦那様とりんと小助


古民家の小さな台所内には10人以上の

人がいたが、ただならぬ緊張感を

保ちながらもテキパキと動く者、そして

壁際にたたずむ者、ひっそりしながらも

細々とした動きをする者にわかれていた。


「おりん!これはどうするんじゃ。」

「姫様、それは親指の爪2つ分位の

大きさに丸めていってください。」

「う~む、このくらいかのぉ?」

「あっ!姫様。それでは大きすぎます。」

「……。」

「おい、そこのおりんとやら、こちらは

このくらいでいいのか?」

「あっ、はい。ありがとうございます。

ですが、申し訳ございませんが

もう少し細かく切っていただけますか?」

「まだ、小さくするのか?これ以上だと

クズ野菜になってしまうぞ!!」

「はい。小さいほうが日干しも

しやすいので、それにあまり、

時間もございませんので

今回はかなり、細かくしてお日様の

光で旨味をギュゥっと閉じ込め

食べる時に旨味を引き出すんです。」

姫様の旦那様はご自身が切った

野菜とおりんの顔を優しい目で見ていた。

「ワザと干からびさせるのに、旨く

なるのか?不思議だな。」

「はい、美味しくなります。しかも

キノコ類は良い出汁にもなりますし、

完全に水分を飛ばすと、かなり

日持ちもしますし常備できます。

これらは冬でも使えるんですよ。」

「なに?!これが冬に……か?」

「はい、いい保存食になります。」

たびたび手を止めながら、何かを

考えていた姫様の旦那様だった。


「はい、こちらのかわり玉や味噌玉は湯を

注いで溶いたり、そのまま口に含んで

かじるだけでも時間が取れない時でも

手軽に食事が取れる優れものなんですよ。」

「おりんはすごいなあ。」

姫様に褒められ照れるりん。

「本当に、素晴らしいな。まるで……。」

「りん!!薪、これ、ここ置いとくぜ!」

「あっ、びっくりしたぁ。うわぁ、汗

びっしょりね。はい、お水飲んでね。

あと、小助兄さん、ありがとうねぇ。」

姫様の旦那様の言葉をさえぎり

大きな声の小助に、視線が集まった。

相変わらず皆に背を向けたままだった。

りんが手渡したお水を飲んだ後、

後ろ向きで片手を振りながら

また薪割りに戻っていったのだ。


「おりんの知識はすごいなあ。」

「これはお茶屋のおかみさんと

おかみさんが懇意にしてる行商人さんに

教えてもらったんですよ。」

おかみさんにたびたび会いにくる

行商人さんがおかみさんに

カンザシを贈られた話など

恋バナっぽい話を姫様と侍女たちと

盛り上がっていた。


姫様と侍女たちはあらかじめ乾燥

させていた野菜と海藻を混ぜた味噌玉と

かわり玉を丸めていた。

丸めたものをさらに干したら完成である。


姫様の旦那様は何故か常備野菜の乾物物や

味噌玉、かわり玉などに興味をもった。

「刃物は得意だ!」といいながら、

恐々した手つきで葉物野菜やさまざまな

野菜、きのこ類まで、ほぼみじん切りに

してもらっていたのだ。


切り干し大根のように千切りを

頼んだのだが、大きさもまばらで

危なかっしい手つきで切っていると

やはり、指先を切ってしまった姫様の

旦那様となる殿方。

姫様が手当てをしたあと、なぜか

先ほどより張り切ってしまい、

「野菜を切るのは楽しいな。ははは。」

とおっしゃられ、切るのを手伝おうとしていた。

邪魔だと言えないりん。

小助もやはり身分差があるためか

姫様の旦那様をさけるかのように

水汲みや、火の番、古民家の

外で薪割りなど積極的にしていたのだ。


誰も止める事が出来ないまま

張り切る姫様の旦那様に、千切りや

薄めのイチョウ切りを教えたが

ほぼぶつ切りになってしまったのだった。

誰もが思った。

"姫様の旦那様は包丁の扱いが……。"

"姫様同様、不器用"

ある意味、似た者夫婦かもしれない

と思ったが口にできないまま

みじん切りを提案したのだった。


かわり玉の材料をりんが言い

姫様が書き留めた物をみる

姫様の旦那様は、りんをみたあと

外で薪割りをしていた小助をみて

何かを考えていた。


かわり玉の材料

晒米(水でさらした白米)、蕎麦粉

キビ粉、はったい、きな粉

葛粉(くずこ)

山芋粉か里芋粉

山芋や里芋を一度干し粉に挽いたもの

梅干、松の実

ゴマ、エゴマ、ナタネ

地域で採れる薬草や野草・山菜

野菜などを乾燥させたものや煮て干したもの

クチナシ粉末、はじかみ粉末

氷砂糖、麦芽、松の甘皮、茶、

柿の葉、桃の葉、生姜、ニホンハッカ

少量の果物の果汁、酒類


「出立がひ2日後なら、姫様酢漬けの

お野菜も作りましょうか?」

ポカンとする姫様たちをそのままに

りんは、お茶屋からこのお城に

くるまでの間に、食べたくなった

食べ物を思い浮かべながら

次々と日持ちする保存食などを

作りあげていったのだった。

漬け物系や、つくだ煮類

乾燥キノコ、切干大根

野菜、山菜、野草、薬草の乾物、

野沢菜や高菜といった塩や酢漬物を

刻んで包んだり混ぜたもの。

しょう味噌など。

糠(ぬか)や籾(もみ)のまま炒った

焼米や雑穀(ざっこく)を混ぜ込み、

簡易な雑炊ができるようにしたもの。

卵黄や納豆、脱水して小さく切った

堅豆腐あるいは高野豆腐や油揚げ、

麩(ふ)などを包み込みこんだもの。

うるち米を精白、水洗いし、

乾燥させてから粉にした上新粉。

割りがゆに使える、臼で挽いて

細かくした米まで、準備したりんであった。


姫様の旦那様は手を忙しなく動かすりんを

優しい目で見ると同時に、小助にはなぜか

にらみつけるかのように見ていたのだった。

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