第21話


「えっ?小助兄さんもう一度言って。」

「姫様の嫁ぎ先が決まったから

2日後出立する、だから、りんも

身の回りの物を整頓して、

旅立つ準備をしてくれ。」

「……。」

「今頃、大殿に呼ばれた姫様も

その事を聞いてるはずだからな。」

姫様のお相手は21歳。

姫様は14歳だった。

相手にはすでに正室がいたが

身分的に姫様の方が上だった為に、

正室から側室に落とされ住まいも

別にされたそうだ。

もうひと方いるそうだがその方も

2番手から3番手となったのだった。


「姫様…大丈夫かしら?ねぇ、

小助兄さん、もし他の……。」

他の女性、すなわち正室から側室に

されたお方などに、大好きな姫様が

イジメられたらどうしようと、

心配したりんだったが、言葉を

紡ぐ(つむぐ)ことが出来なかった。

「……守ってやる!!あっい、いや、

ま…守ってあげれば、いいだろう?

りんが、す、好き……。」

「……小助、兄さん?」

りんは、なぜか苦しそうな表情を

した小助を見て、りんも心が苦しくなっていた。

それが、何なのかはりんは分からなかった。


身分違いの小助の想い人?!

しかも好きな相手は嫁がれるお方。

姫様を想う小助…兄さん?!

小助兄さん、姫様の事…好きなんだ。

「……。」

小助は、小助で姫様を想うりんに対して

やきもちを焼いていたのだが、そんな事

おもわれてるとは知らないりん。

そのりんも、小助が姫様のことを"好き"

だと思い、なんとも言えない気持ちになっていた。

「大丈夫だ、りん。」

小助はそんなことを考えているりんを

ギュゥっと抱きしめるのが精一杯だった。

その時、周りに人はいたが、微笑ましく

見守られていたのだった。


荷物の少ない小助とりんの準備は

あっという間に終わった。

他の者を手伝うにも、かえって

邪魔になりそうだったので自然と

台所に向かった2人。

そこには、同じく手すきになっていた

2人がぽつんとしていた。

大殿のお城に実質人質扱いだった2人。

まだ幼い者も含め幾人もの娘や側室など、

大殿の城に登城させたそうだ。

家臣たちに裏切らせないように、

味方につけさすための姻戚関係を

結ぶためだけに。

家臣たちに娶らせる為だけの者たち。

中には半強制的に娶らせ、顔も

知らぬまま嫁がされるのは

日常茶飯事となっていた。

せつとあきの親たちは、可愛い我が子を

なるべく目だたさないように、

ワザとみすばらしい格好をさせたのだが、

それが、あざとなり他の大名の娘から

イジメられたのだった。

何も知らされないまま、親に

見捨てられたと思い込んでる2人。

その上、見知らぬ城でまわりから

追いやられた2人の行き先は

下働きとして洗い場や台所に

行くことになったのだった…。

     **

当初痩せ細った2人、せつとあき。

りんも姫様も、この2人を気に入っていた。

この2人も大殿の重臣や家臣となった

それぞれの姫様だった。

その2人がなぜか、下働きの様な身なりをし

このお城の者や大殿たちをなぜか

放置していたのかはわからない。

知っているのは影でイジメを行なっていた

他の大名の娘たちと当事者の2人だけ。

何も言えずに怯える2人。

考えがわからないが、困っている者や

誰かまわず怯える2人を姫様たちは

放っておけなかったのだった。

このままこの城に置いていても

イジメや食べ物もあまり与えられない

可能性は大いにあった。

「お義父上様、お願いがございます。

私(わたくし)に付けてくださいました

おせつとあきが気に入りました。

2人とは私の侍女同然、いえそれ以上に

かなり可愛くてたまりませんの。

だから、此度(こたび)の婚礼に

2人を私の侍女としてくださいませ。」

姫様は、大殿に2人を"くださりませんか?"

とは聞かず、"くださいませ"と

強く要求したのだった。

大殿の考えは知らないが、あっさりと

2人を養女である姫様に尽くすようにと

厳命、言い渡したのだった。


「あっ、おせつちゃん、あきちゃん!」

笑顔で手を振りながら近づくりんに

顔を綻(ほこら)ばせる2人は可愛かった。

「掃除してくれてたんだな。部屋で

休憩しててもいいのに、ご苦労な事だな。」

小助は深い意味はなく、食事を作る

時間でもないのでゆっくり休んでいて

いいのにと思った言葉だが、2人に

とってそうではなかったらしい。

「も、申し訳ございません。」

「申し訳ございません。い、芋の

皮むきでも裏でしてきます。」

まだ当初より慣れたとはいえ

男性陣の事は相変わらずだった。

「えっ?えぇ?ここでした方が……。」

2人は明らかに、小助を見て怯えていた。

それに気づいたりんは、

「あの、ちょっと待って。小助兄さんはね、

身体もそこそこだし、あと~

態度もふてぶてしいしぃ、え~と

言葉づかいもあまり…だけど、まあまあ

うーん、そこそこ?あれ?わりとかな?

とにかく優しいんだよ!!たぶん。

荷物もちょっと小言を言いながらも

重いもの持ってくれるし

ご飯もこれでもかぁ~ってくらい

美味しそうに食べてくれるし、あと、

あとはね、少し私が失敗した料理も、

ちょっとにらみながらだけど

そんなに小言を言わずに食べてくれるの。

苦い野菜もやせ我慢して食べるし、

ボロボロの布も捨てずに物を大切にするし、

最近なら…そうね、余ったご飯を

スズメや猫ちゃんに……。」

可愛いなぁって声かけしながら

ご飯をあげてる事を話したかった

りんだったが、慌てて遮る小助の声と

まわりからの笑い声が聞こえてきたのだった。

「おりん!!」

小助は赤い顔をしてプルプル震えていた。

恥ずかしさと怒りがごちゃ混ぜな小助。

「くっくく……。」

姫様は、肩を揺らしながら笑っていた。


りんの兄は、"小言"と"りんの失敗作の

ご飯を食べる事"、"小動物の餌付け"が

インプットされたのだった。

笑い声は、大殿からの話が終わった

姫様を皮切りに大きく広がっていった。

「おりん、なんじゃ…小助が可哀想に

なってあるからの……くっくく、

何やら楽しいが…もうその辺で

小助を許してやれ。くっくく……。」

「……?」

姫様は笑いをおさめようと努力しながら

話していた。

「おせつも、あきもじゃが、

対応に困ってるぞ、おりん。」

なぜ困っているのかわからないりん。

別に困らす事は言うてないと思っているりん。

自分の兄としての小助の良いところを

伝え怖がらなくて良いと言いたかったのだ。

「なんとなく分かる気がするでもないが

りん……男にはそれなりに大変らしいのじゃ。」

「大変?」


「姫様、こちらにいらっしゃったのですね。」

「そ、そなたは……。」

慌てて姫様以外の者は頭などを下げ

臣下の礼をしたのだった。


「何用じゃ?」

「大殿から姫様がこちらにいらっしゃる

だろうとお聞きしました。」

「で?何用じゃ?」

「我が妻に逢いに来たというのは

理由にはなりませんか?」

「まだ、婚姻はしとらん。それより

妾たちは食事を作るから邪魔じゃ。」

「なんと…姫様自ら、かような場所で

このような下働きのような事を 

なさるのですか?」

「無礼者、言葉に気をつけなさいませ。

ここにいる者たちは妾の大切な

友でありかけがえのない者たちだ。

下働きではない。肩書きなら

大切で信用出来る侍女たちと護衛だ。」


***


なぜこうなってしまったのだろうか?

「姫様、はしたないですよ。」

「なんじゃ?おりんも3枚位しか

着物を着てないじゃないか?おせつと

あきは2枚じゃないか?」

そう言いながら、小助と姫様の旦那様の

目の前で豪華な着物を脱ぎ捨てていく

姫様は、着物3枚になったところで

腕をまわしながらタスキがけをした。

「まるで鎧兜(よろいかぶと)のような

重苦しい着物じゃ。」

りんと、せつとあきは、脱ぎ捨てられた

着物を畳んでいた。

「おりん、おせつ、あき、その着物

お主らが着たらいい。妾より似合うだろう。」

「む、無理です。」

「恐れ多いです。」

「み、身の丈にあいません。」

「……うーむ、おせつとりんも

これから大きくなるし、身の丈かあ、

そのうち合うだろう、なんなら縫い直して

身の丈に合わせれば…なんとかなるだろう。」


姫様以外、皆思った。

"身の丈に合わない"

"能力や器、役割、立場などが合っていない様子"

という意味で使われた言葉だったが

わざと身長(身の丈)の事にしたのか

それとも天然なのかと

姫様の旦那となる者以外、姫様は

後者の天然だと思った。


「素晴らしいですね。」

ニコニコする姫様の旦那様と私たちは

しばらくの間、なぜか一緒に食事を

作る事になったのだった。

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