第20話

恋文?

「おりん、また、恋文よ。」

「えっ?恋文?」

「おりん、モテモテね。」

「でも、この文…よほど急いだのか

紙がよれているわ。」

「そうですね、桃色の君。」

「読んであげようか?」

ニヤリと笑う姫様と侍女たち。

「いい、いいです。自分で読めるとこまで

読みます……。」


"主なしと 花をや思ふ 雨そそぐ

桜が枝にかかるみの虫"

どの花も 可憐な花に 勝ち目なし

美しき 濃桃の花 思い寄せ

星々は 月姫様と 我先に

香しい 尊き実と 花蜜を

口ふくみ 蝶のように わかちあう


歌だと思ったりんは、指を折りながら

無意識に声に読んでいた。

まわりの侍女たちは、手を動かしながら

色々な仕事をこなしていた。

姫様もあれからたくさんの文を

頂きながら、仕分けされた文を

読んでいた。

だが耳だけは、りんの声を

ダイレクトに聞いていた。


「おりん、それの差出人は誰じゃ?」

「えーと、あれ?」

「文筒のとこに名もないのか?」

「…え~と…何も書かれてません、ね?」

「……直接的な殿方もいるもんだな。」

姫様?!

「少々、せっかちかもしれませんね?」

えっ?

「直接過ぎて、趣きがございませんね。」

「後半以外は、そこそこですね。」

「名前がないので、お遊びでしょうか?」

「妾を、お遊び扱いなのか?正室が

いる者が、遠回しに選ぶな!と

このような下品な物を送ってきたのか?」

「姫様とおりんが別者と知っている者が

おりんなら…と思ってる殿方かも

しれませんねぇ。」

「……。」

「それもありじゃが。妾の義父上様

大殿はあちこちに敵が多いそうじゃからな

妾程度なら遊びでも構わないと言う

意味にもとれるが……。それとも腹いせか?」

「………。」

意味が分からないりんは姫様や

侍女たちの訳を聞いて顔を赤らめた。


「最初のは歌だろうな、花には

主人がいないと思うのだろうか、

花は姫様だと思ってるおりんかのことじゃろ。

そして、婚姻前だから主人、夫が

いないだろう、って疑ってるのか

恋人はいないのか?まあそんなとこか?」

「この段階で、私ならこの殿方を避けますね。」

他の侍女たちもなぜか、頷いていた。

「次がよくわからない、その時

作った時に思い浮かんだのか、

それとも、"雨が降り注ぐ桜の枝に"

着物の色が桃色だったから"桜"と例えたり

枝のように細い体を、"雨が降り注ぐ"

"我が物顔でぶらさがっている蓑虫"

まあ、殿方が女性に縋り付いて

濡らしたいって、下品な意味もあるかもな。」


他のところも説明してくれたが……。


"どの花も 可憐な花に 勝ち目なし"

身分的にも勝ち目ないとか可憐だとか

お世辞を言っている。

"美しき 濃桃の花 思い寄せ"

姫様だと勘違いされたりんの着物が

桃色だったこと。

濃い色の桃色と恋を掛け合わしていること。

"星々は 月姫様と 我先に"

星々は殿方、星と月、姫様役のりんが

月姫に例えている。

"香しい 尊き実と 花蜜を"

"口ふくみ 蝶のように わかちあう"

この手紙の主が、姫様の身体を

味いたいっていう、閨事のお誘い。

下品な手紙だと言うことを

説明されたりんだった。

歌が下手くそで直球だと、姫様や

他の者からの評価は散々だった。



その頃、文字の練習をしていた者がいた。

とある方の歌を書き写したあと

自分の考えた5.7.5での思いや

川柳と季語の入った俳句をおりまぜた

言葉遊びのもの。

書き損じた物は焚き火の糧にしたが

うまく書けたものは幾つか残し

墨が乾いたところで折り畳んだのだった。

いつか心思う者にあげようと思っていた。

"あいつにこれらの、うまく書けたものを

見せたらどんな反応するだろうか?"

手習いの途中、呼ばれた書き手は

小さな文机に筆を置き、そのまま

行ってしまったのだった。


そこに、姫様の護衛の者が無造作に

扉を開け放し、荷物を運び入れた。

姫様たちに送られる品物を選別する為

護衛たちの休憩場をも使い仕分けていたのだ。

刃物など、危険なモノが仕込まれていないか

検め(あらため)たあと、侍女たちに

さらに仕分けられるのだった。

お披露目の後日とあってあまりにも多い

品物に驚きながらも、先ほどまで

使われていた、文机を使い目録を

作っていた。

文机の上にあった折り畳まれた紙は

不運にも、姫様や侍女たちへの

贈り物の中に紛れ込むことと

なってしまったのだった。

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