第19話

お披露目


姫様と私たちがこのお城に来てすぐ

秘密裏に大殿は、各地の臣下たちに

招集をかけていた。

重臣の長女である姫様を養女にした

大殿は、ほぼ決定だった婿候補も含め

姫様自身に夫を決めさせることに

したのだった。

ただ単に面白そうだからとか、

大殿の気まぐれだったとか……。

その真相は定(さだ)かではないが

大殿にとって囲い込みたい候補が

たくさんある中で、養女にした

姫様の侍女たち(りんも含め)に

婿をとらす狙いがあったそうだ。

そして、姫様には大殿の養女の

お披露目だと嘘ぶいたのだった。

荒めの御簾(みす)がかけられた

ムダに長い廊下。

その廊下を姫様を先頭に姫様の3歩後ろに

りん、そのまた後ろ一列に身分順に

ぞろぞろと歩いたのだった。

台所の下働きとしてきた2人も、

実は大殿と手を結んだ大名の子だった。

それぞれに着飾った姫様御一行。


今回の招集は、ほぼ強制の呼び出しだった。

一部の者を除き正室を持たない大名、

跡継ぎなどを大広間に集めたのだった。

大広間に集まった諸大名たちは、

畳に頭を付けてひれ伏していた。

そして、目を凝らすかのように姫様は

御簾(みす)ごしではあったが諸大名たちの

マゲ?頭を見つめていた。

姫様はいつも通りの背筋をさらに伸ばした。

ニヤニヤする大殿を見たあと、

こちらをゆっくりとした動作で振り返られ

後ろに控えていた私たちと目が合った。

そして手招きされたのだった。

わ、私…私なの?

キョロキョロするりんに対して、

他の侍女たちと姫様はにっこりした

最高の笑顔で首を縦にふられたのだった。

目の前の御簾(みす)は廊下の御簾よりは

目は詰まっているが、衣ずれの

音や影かたちはかなり映るはず?

恐る恐る姫様に近づく…りん。


不安気な笑顔を浮かべながら

姫様を心配し見つめる傍ら(かたわら)、

ここに座れと言わんばかりに、

姫様はりんを軽く引っ張った。

姫様?また、いたずらを思いついたの?

りんはすごく不安だった。

姫様は口角を上げながら私を

とある場所に座らせた。

ひっ?!

思わず声が出そうになったが、着物の

袂(たもと)で口を塞ごうとした…が、

豪華な姫様の着物。これはダメ!!

化粧や赤い口紅までした口元を

思い出したりんは、手と口元の距離

わずか数センチで止まっていた。

それはまるで、本物の姫が侍女に何かを

囁く(ささやく)ようなポーズだったのだ。

あまりにも恐れ多い場所、姫様の行動に

腰がひけたが、姫様にグイッとさらに

引っ張られ上座に座ってしまったのだった。


侍女たち皆、今日は色が被らないように

かなり気をつけながら、着物を選んでいた。

小豆系、青竹色、だいだい色、すみれ色

萌黄色(もえぎ)、山吹色、ヒスイ色、

姫様の着物は皆で相談しながら

慎重にあれこれと決めたのだった。

背格好だけは一緒の私で、侍女たちと

なぜか姫様まで加わり?数刻の間、

私を姫様の代わりとして、姫様の

小物選びや着物選びについやされたのだった。

なぜ?姫様本人がいるのになぜ?

その事が頭から離れないまま、

着物もあれこれ何度も何度も

着せ替えさせられたのだった。

決まった時には、すごく寝転びたい

気持ちでいっぱいだった。

姫様の高価な着物だから、さすがの

私でも床に寝転べなかった。

クタクタのまま、皆と一緒に

姫様の後をぞろぞろと歩き

大広間に行ったのだった。

何かがおかしい?

何がおかしいかわからないりんは

されるがままだった。


孫にも衣装、着物に着せられてる感が

ありすぎる私とちがって、

姫様は赤色系の華やかな着物が

すごく似合っていてきれいだった。

小助兄さんもそんな姫様を見て微笑んでいた。

それを見た私はなぜか、なんとも言えない

気持ちになってしまった。


「孫にも衣装だな。後ろ姿がきれいだ。

前から見たら、いつものりんだな。」

後ろ姿は、姫様そっくりだよ……私。

小助兄さんの言葉になぜか胸をえぐられる

痛みを覚えたが、りんはそれを無視して、

自虐的になっていった。

姫様と侍女たちは、小助の言葉に

なぜか怒っていたらしいが、りんは

なぜ怒っているのか知るよしもなかった。

私は恐れ多くも桃色系のかわいい系の

姫様の着物を着る羽目になったのだが

着物だけが立派。私には似合わない。

着物と自分自身の違和感が拭えなかった。

小助兄さんの言う事に間違いはないのに

なぜか皆、りんを可哀想な目で見てくるのだった。


「りん、ここに座っておれ。

ここからじゃ皆のハゲ頭しかみえん。

ワラワの婿候補も来ているらしいからな。

顔を見てくる。」

「えっ?」

そう言った姫様は、大殿にニィッと

笑い、皆に声をかけた。

「今からワラワの侍女が、皆の顔を

見に行くので、面を上げて欲しい。

大殿、いいえ…。お義父上様、皆の者に

面を上げるようお願いします。」

大殿はニヤリと笑った。

「我が養女となった可愛い姫からの

頼みじゃ。皆の者、面をあげい!」


言い終わるかどうかのタイミングで

御簾(みす)をめくり頭を下げている

諸大名の顔を見に行った姫様。

姫様と侍女たちは共犯……?

姫様がわりに、御簾ごしだが

座らされた場所に、ポツンと座るりん。

「……。」

他の侍女から手渡された、姫様の

扇で目元以外を隠すりん。

年齢もさまざまな殿方たち。

ほとんどが年上ばかりか、姫様や

りんの歳の倍以上の者までいた。

一部の者はまだ頭を下げたままだった。

頭を下げたままの多くは、正室がほぼ

決まっている者や、既に正室が

いる者ばかりだった。

殿方の大広間の場所に降りた姫様も

口元を扇で隠しながら、にっこり

笑っていた。そして

「顔を見せてくださいな。」

と言うと渋々顔をあげる、殿方たち。


「やっとお顔が見えましたね。

月代(さかやき)に毛がたくさん

生えてますね。」


姫様は大殿の養女なので、諸大名は

頭の事を言われても文句を言えなかった。

年齢もまばらな殿方たち。

だが、目の前にいるのは侍女だと

姫様が仰っていた事を忘れてない者がいた。


「無礼な女(おなご)。我らは急いで

参ったのに 。(月代(さかやき)

を剃る間もないくらい)

愚弄(ぐろう)するな。」

姫様だと知らないその殿方は、姫様を

鋭い目つきで睨んでいた。

「おもしろい。そなたの名は?」

その殿方は、まわりからの視線を

感じたからか、言葉と姿勢を改めた。

「あなた様ごときに、名乗る名は

ござりませぬ。」

そう言った後再び、頭を下げたのだった。

「ふっ。」

どう見ても姫様より年上の殿方の

頭をみて、あの発言。

姫様も姫様だがあの殿方も殿方だと

りんは思った。

りんも知らなかったことだが、

この殿方は大殿が仲介をしてまで

婿候補にした一番有力な姫様のお相手であった。


だが、すでにこの婿候補には正室がいたのだが

何も知らない婿殿は、ただ急用の

大殿の呼び出しに渋々参じたのだった。

婿候補の父を大殿の権力を使い強引に

丸め込んだ感じの政略結婚がさらに

進む事となったのだった。

この婿候補は、自分の父に言われるがまま

ここまで急ぎ参じたが、周りの者を見て

気づいた時には遅かった。ここには

正室を持たない者ばかり集めれていたのだ。

庭に通され、しばらくの後別室に

移ると数々の料理や酒が準備されていたのだ。

そこで何かがおかしい事に気づき、

変に時間稼ぎされたが挨拶をして

立ち去ろうとした時には早々と

門は閉められたあとだった。


婿候補との父と密約で、大殿の養女を

正室に迎えるために、これまでの正室を

家女(かじょ)身分の低い女性、または

側室にすることされたのだった。

そのため、現、婿候補の正室との間に

生まれた長男は、家督を継ぐことができず、

のちに分家として藩主となるのだった。

コレはまた、違う物語……。

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