第14話
昨夜は、大殿の護衛たちが城内の
片隅にある古民家。その庭にかがり火を
"わざわざ"たいて下さり、古民家に
あった机やゴザなどの敷物を敷いて
臨時の食事処?のような場所を
準備したのだった。そして姫様を含む
皆で作り上げた食事を美味しく頂いたのだった。
お味噌汁の仕上げに、ネギがニガテな
お方もいるかもしれないと思った私は、
護衛さんたち用にカゴに盛った刻みネギを
別盛りにしていたんだけれど……。
「ワシが入れた事にしよう、好き嫌いは
ダメじゃからな。クックック。」
大殿はそう言って、りんがあらかじめ
ネギを入れた方のお椀を持ち、
汁を入れ完成させた味噌汁を、大殿
みずから臣下たちに配ったのだった。
「ワシが"手伝って作った"味噌汁じゃ。
心して飲め。」
「「「「「「「ははぁ……。」」」」」」」
一斉に頭を下げて、受け取る臣下たち。
大殿の臣下のうち数人が、ネギが入った
お味噌汁のお椀をのぞきこみ
嫌そうな顔をしていた。
「……。」
明らかに嫌がらせだ。
少し顔に出たかもしれないがりんは、
嫌がらせは絶対に良くないと思った。
護衛さんと大殿の臣下たちへの配膳が
終わった頃を見計らい声かけした。
「好き嫌いはあまりよくないですが、
ニガテでどうしても食べれない物が
ございましたら、申し出て下さい。
作る際お好みを聞き忘れたので、
申し訳ございません。食事の分量は一応
皆様、同じようにしています。
交換とまではちょっと……。
モノにより少々難しい場合もありますが
"具の"あるなし程度なら、まだ間に合いますよー。」
大殿の顔を見る事は出来なかったけど
多少の意趣返しは出来たかもしれないと思った。
「……。」
数人迷っているようだったけれども
誰一人ネギ抜きのお味噌汁にする事なく
(多少のネギを残した程度)きれいに
食べられていた。
朝ごはんを作る時に3人の、大殿の臣下が
りんのところにやってきた。
お互いあいさつを交わした。
「昨夜は馳走になった。礼を言う。」
「い、いえ……。」
「だが……。大殿が手伝ってあれが
作られたそうで……。苦手なネギと
ニンジンがあったが、もしまた
昨夜のような事があれば………。」
男性の眉間にシワが深く刻まれながら
すごく言いにくそうにしていた。
「……出来れば、私たちの分はネギと
にんじんはなしで頼む。」
「わかりました。あっ、でも、お、
大殿様の護衛様?だから……。」
そう、しょっちゅうは来ないでしょって
言いたかったりんだが、言っていい
言葉なのか、そうでないのか少し
考えたりんだった。
「ああ、すまない。我らは姫様付きの
護衛を大殿から命じられました。昨夜
私たちの分まで食事を準備してくださり
感謝する。アレ以外うまかった。」
アレ、ネギとにんじんね。
クスッと笑いそうになるりんは、こらえた。
「あっ、はぁ。そうなんですね。
姫様にはその事は?」
「我らの身分では、大殿の義理の
娘となられました姫様に直接
話しかける事は禁じられていますので、
侍女であるあなたからお伝え頂ければ幸いです。」
「なんだか、色々大変ねぇ?」
お互い微妙な笑いを浮かべ会話は
終了したのだった。
大殿の護衛だった十数人は交代で
城からの伝言や護衛をする事に
なったのだった。
姫様の元からの護衛さんとは
同じ釜の飯を食べたからか、わりと
仲良くしている気もした。
初めの頃は、城の料理人の事が
気に入らない、または信用していない
"はなもちならない姫君"。
そのように捉えられていた。
だが、このお城に来る前から姫様たちは
りんが作る、素朴で美味しい料理が
好きだった。しかも、毒を入れる
心配がないどころか、親しげな友として
扱ってくれるりんが、姫様は
大好きだったのだ。
この離れの古民家とお城に行くまでに
武具を納めている蔵があるそうだ。
たまに虫干しなのか、護衛の合間に
武具、鎧などを磨いていた。
武具に興味のないりんはとくに何も
思わなかったけれど、小助は目を輝かせ
あれこれ説明してもらい、お古の
籠手と脛当てなどまで頂き、はしゃいでいた。
軽く打ち合い、それを周りのものは
見たり、相撲を取ったりしていた。
りんは虫干しされた旗印をみて
「不思議な模様ね?これは文字なんですか?」
「おりん、これも文字で漢字という
文字じゃ、ここの旗印じゃな。妾が
よく使うのはひらがなじゃが漢字は
読みにくいし殿方がよく使っておるぞ。」
「厭離穢土欣求浄土
(おんりえどごんぐじょうど)と
記されているそうですよ。姫様。
穢れた国土を離れ、極楽浄土を求める
と言った意味だそうです。」
2人は声がした方に振り向いた。
「小助兄さん、いつのまにかしこくなったの?」
「バカりん、俺も多少なら…自分の
名前くらいなら読み書きできるように
なった。姫様の護衛さんたちから色々と
教えてもらったんだ。
お前みたいに食べ物の知識ばかりじゃ
ないからな!」
「小助兄さんのくせに生意気!私だって
自分の名前くらい、なんとか、かけるもん。」
「ほぉー書いてみろよ。バカりん。」
地面に、指でりんは名前"りん"と
書いたらしいが"り"が"い"にみえ
"いん"とかいてるように見えた。
「いん、だな?!」
「いん…ですね。」
「……。」
目に涙を浮かべたりんは、姫様に
簡単な文字を教えてほしいと
頼むのだった。
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