第13話
「こちらの釜で30合炊けますので……。」
私、りんはお城から台所仕事を手伝って
くれるという、11歳の痩せた女の子
2人に手伝ってもらいながら、お米を
60合分(約60人分)一合枡(ます)で
計り入れていた。
2人は数が数えれないという事で、
外で拾った小石、それらをきれいに
洗い終えた小石30個を準備したのだった。
一合計り入れるごとに、机に
並べた石を減らしていくといった
やり方で計ってもらったのだった。
「妾は数は数えれるが、おりんのおかみ
直伝の庶民の知恵とやらは、すごいな。
これなら途中で、話しかけられても
どこまで入れたかわかるなぁ。」
「ふむぅ。戦術にも使えそうだ。」
「……。」
姫様に庶民の知恵を褒められて
嬉しかったが、このお城の城主、
姫様の義理のお父様になるのだが、
戦術?お米の合数の数え方で
どう戦術にするのか、怖くて聞けなかった。
「2つの釜で炊いていきますので、
手早く洗っていきますね。」
りんは、城からの手伝い2人の女の子に
お米を計ってもらっているうちに
護衛の一部と小助兄さんに
水汲みをしてもらい、水がめと
大鍋2つに水を入れて貰っていたのだ。
小助兄さんは手馴れた風に、
味噌汁を作る予定だと伝えていたので
大根や人参、その他の野菜なども
イチョウ切りにしたり短冊切りにしたり
煮物用の乱切りの野菜まで、一通り
何も言わずとも切ってくれたのだった。
もちろん野菜の皮などは捨てていない。
きんぴらや浅漬けに使うからだ。
「りん、これくらいでいいか?」
「うわぁー、小助兄さんありがとう。
助かるぅ。このお野菜、重いんだよね。」
「重いもんとか、任せろ。俺らは
手隙だから、女性では重いもんでも
言えよ。あとは、何か手伝う事あるか?」
「じゃあ、遠慮なしに頼むわね。
ありがとう小助兄さん。あのね、
あの焼き台が私には重いし、身長が
届きにくいの。だから、出来れば
野菜炒めとか、お鍋を火から
降ろすのを手伝ってくれたら
……うれしいかも。」
「ああ、それくらいならお安い御用だ。」
「本当に、おぬしらは仲の良い
兄妹じゃな。小助の包丁さばきも
なかなかのもんじゃな。」
「……ありがとうございます。」
この時、姫様の義父上様が小助と
りんをジーっと見ている事に気づかなかった。
「あっ、そこの削り節(ダシを取り終えた物)
捨てないで下さいね。後で使います。」
「これも使うのか?」
「はい。佃煮やおひたしごま和え、
おにぎりに混ぜ込んだり、具にもなるんですよ。」
「「ほぉー。」」
姫様と大殿の声がそろった。
「姫様、見てみます?」
料理に不慣れな侍女(本来、侍女は
料理をしないもんだと知らないりん)と姫様。
手伝うと言った姫様の義父上様。
りんの言葉に、焼き台で野菜炒めを
作り終えた小助兄さんがまた、
手伝ってくれたのだった。
「カラカラになるくらいまで
小助兄さんがしてるように、削りぶしの
水分を飛ばして、ここにみりん、お酒、
お砂糖、しょうゆをまわし入れて
混ぜるだけ。もう少しで出来上がり。
こちらは野菜の皮などを細長く
切ったものです。大根、にんじん
ゴボウを炒めて、同じくお砂糖
みりん、おしょうゆで味付けします。
仕上げにごま、お好みで一味か七味
唐辛子を入れます。」
"砂糖2、みりん2、しょうゆ3"
私の味付けよ~と言いながら
小助の動きに合わせて、調味料を
混ぜ合わせたりんが、小助に
手渡しながら、説明をしていた。
「しょうゆの焦げる匂いがたまらん。」
「おりん、ご飯はまだ、炊けないのか?」
「今、蒸らし中ですので、あと少しですね。」
まだ、漬かりきらない浅漬けに
先程の削りぶしの佃煮をふりかけと
きんぴらを姫様と大殿に差し出した。
「はい。味見です。どうぞ。」
「美味そうじゃ。」
「…ワシにもくれるのか?」
「んっ?」
りんはすでに、小皿に盛り付けないまま
野菜と佃煮を口に放りこんでいた。
もぐもぐしながら
「あっ、姫様の毒見ですね。」
そう、いいながら姫様の小皿から
野菜を食べようとしたら、小皿を
りんの手の届かない位置に
持って行ったのだった。
「おりんは、毒味と称して妾のお団子やら
おもち、さらに味見用のまで
半分以上食べるからダメじゃ。目の前で
作られたもんじゃし、おりんと小助が
妾に毒なんぞ盛るわけないからの。
コレは妾のもんじゃ!!」
そう言いながら、指でヒョイと
つまみ口に入れた。
「うまい。」
「うむ。確かに美味じゃ。」
「……。」
「……あっ、お箸、渡し忘れました。」
小助は姫様と大殿に頭を下げていたのに
りんは、姫様と大殿が味見用の小皿を
指でつまんでそのまま食べていたのを見て、
お箸を忘れたと呟いたりんに、
周りの者はこっそり笑っていた。
お味噌汁の具材と煮物の具材に
火を入れている間、細かく切った
色々な野菜の浅漬けをまぜてもらったり、
焼きおにぎりに付ける、味噌ダレを
すり鉢でゴリゴリしてもらっていた。
侍女たちは、身分の違いから姫様と
大殿に遠慮し、台所の片隅で
作業していた。
「はい、どうぞ。」
侍女たちと少女2人にも味見と称して
ひとつまみ程度のお野菜と漬物、
そしてきんぴらを渡したのだった。
りんはあちこちにまわりながら、
料理の合間に、食器なども見ていた。
「お皿や小皿、うわぁぁぁこんなに
たくさんあるの?!すごいわあ!!
この柄すごいキレイ。こっちは細かい柄だわ。
これ、外側がすごいわ、これは素焼き?
釉薬のかけ方が、だいたんだわ。
あっ、このお皿可愛い。」
「なんじゃ?おりんは焼き物に
興味あるのか?」
「いえ、そんなには…。でも、その
土地土地で、器が違うんだなぁて思ったら、
同じ食材でも、器が違うなら見栄えが
違ってくるだろうなあって思ったら、
なんだか楽しくて。このお皿なら
深いから煮物かな?って色々な
食べ物想像できますよ……。」
「……器(うつわ)か中身か。」
大殿はポツリと呟いた。
「姫様は、おりんらしいなあ。」
おりんの横で、食器を眺める
おりんをみていた。
大殿の無事と勝利を祝って、贈られた
器の中に、外形は鬼瓦の形、内には
福面を描いた七五三の三つ組の盃、
それらを献上され、大殿を大いに
喜ばせた賤機焼の称号を与えられた
焼き物もおりんは、楽しげにみていた。
料理中は"煮物の味付けは出汁 10 、
しょうゆ1 、みりん 1 よ。"とか
"これの入れる順番はまだ!"
"お味噌は、火から降ろしてからよ。"
と、りんは大人数の中、絶妙なタイミングで
声をかけていたのだった。
「この小皿に浅漬け、これには
きんぴら、これは煮物ね。」
数種類のお皿を取り出し、ひとつ
見本を作り、それぞれにおかずを
盛り付けてもらったのだった。
「おーい、りん、汁は別に移したぞ。」
「ありがとう、小助兄さん。助かる。」
先ほどまで味噌汁を作っていた大鍋から
味噌汁の汁だけ別の鍋に移して
もらったのだった。
「おりん、なぜこんな事してるんじゃ?」
「姫様、約50人分だと具にかたよりが
出来てしまうので、お店でもわりと
している事なんですが……。」
姫様に説明しながら、味噌汁の具を
50個のお椀に均一に入れ始めた。
「こうすると、皆同じだから具が
多い少ないで、ケンカしなくてすむのよ。」
「「ほお~。」」
またもや、姫様と大殿の声が揃ったのだった。
おにぎりもワイワイ言いながら、熱々の
ご飯に苦戦しながら大殿まで参加し
小ぶりのおにぎりを作ったのだった。
ひとつはそのまま、もうひとつは
「焼き上がったよ!次、持ってきて!」
かつお節とみそをごはんに混ぜ込んで、
表面には味噌としょうゆ、みりんの
混ぜ合わせたものを塗り、また
焼いた、香ばしい焼きおにぎり。
台所からは、日が沈むまでいい匂いが
たちこめたのだった。
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