第12話


美男子とはいえない男性。

小太りで身なりは馬をかけてきたのか

少し土がついていた。

「馬を走らせていたが、我が娘になる

姫が登城したと聞いてな。そやつが

我が義娘に無礼を働いた様だな。

すまなかった。おい、ここには

子どもがいるから向こうでヤレ。」

大殿の命で、竹ぼうきと布団を叩いていた

棒でやられた大男は、ちょうど

木陰に入ったところ(下働きの子や

姫様たちから見えない位置)で

「大殿ぉぉ~!!お許しください!!」

ザシュッッ!!

「ぎゃぁぁぁ!!」

刀が振り落とされた音、

男の断末魔が鳴り響いた。

子ども2人はガタガタと震え

地面に座り込んでいた。


   ***


自己紹介をした後、大殿は小助の

棒術と、姫様とりんの竹ぼうきで

大男を倒した事を笑いながら褒めていた。

目の前、木陰で見えない位置とはいえ

殺されてしまった男。

先ほどまで生きていて調味料や野菜

その他の食材の事を教えてくれていた

男、姫様への侮辱発言には腹は立った

りんだったが、あの刀の音と断末魔の

声が頭から離れなかった。

しかも、殺すように命じた目の前の

男、姫様の義理の父となったが

信用出来なかった。


「ここは、血の匂いもするし

せっかく我の義娘になった事だ、

姫とそちらのおりんとやらも

我が城に部屋を移したらいい。

そうだなぁ、部屋は早急に準備が

間に合わないかもしれないから

ワシの部屋で一緒に寝るといいぞ。」

大殿は嫌な笑みを浮かべた。

「……い、いえ。義父上様のご好意

ありがとうございます。ですが

こちらのかまどがある家まで、

ご準備頂きましたので、私どもは

こちらでお義父上様に感謝しながら

寝るとします。ちょうど布団の

日干しとやらも終わったようですし、

あ、あと…お義父上様が派遣して

下さいました、あちらの2人とで

お食事を作ろうかと思います。」

姫様を見た後、痩せた2人の女の子を

睨むように見た大殿。

「ほぉー、あやつはこんな美姫に

料理まで花嫁修行をさせていたのか。

姫が作るなら馳走になろうかな?」

     **

姫様の手をスリスリしながら

大殿とやらはニヤニヤしていた。

姫様の護衛たちには、どうする事も

出来ずただ歯噛みするしかなかった。

「おりん、あの団子とお餅を。」

「はい。姫様こちらのほうで、

仕上げなどお願いしますね。」

姫様はゆったりとした動作で大殿に

頭を下げたあと、私に微笑んでくれたのだった。

移動した姫様は私の横で見ていた。

昨日作ったみたらし団子と草もちを

火を入れたかまどで軽く炙ったのだ。

炙り終え程よく焦げ目の付いた

いくつかを、コロンコロンとお皿に転がし

あら熱をとり、姫様に渡した。

姫様はまだ少し温かいみたらし団子と

草もちに目や口あとは耳を形作って

もらったのだった。その間にりんは

甘いタレと、きな粉とはったい粉

そしてお砂糖を混ぜたお皿に出来上がった

飾り付きのお団子とお餅を置いたのだった。


「お義父上様、こちらは昨日、侍女たちと

作ったみたらし団子と草もちでございます。」

「ほぉー。これがウワサの団子ともちか。

この短時間で素晴らしい出来栄えじゃ。

しかもこの動物、ワシは動物の中でも

馬が一番好きでな、姫も侍女たちも

あの会話から即興でこれをこしらえるとは

素晴らしい。あっぱれじゃ。ははは。」

あははは……。

りんと姫様は思った。

その動物は姫様が自慢していた

犬と野うさぎで、決して馬ではないと……。

軽く炙る時にまんまるい団子とお餅が

多少、馬のように面長になっただけだと……。


「食事のお支度に一刻(約2時間)はかかるかと

思いますが姫様、どうしましょう?」

「おりん、食事は何を作るんじゃ?」

「こちらのお城のお味噌は美味しいと

伺いましたので、焼きおにぎりに

味噌を付けたもの、具沢山の汁物、

煮物、お浸し、あとは色々な

お野菜の浅漬けですね。」

「おお、妾も手伝うぞ!!」

姫様も、この大殿がニガテなんだろうと

思った。だけども助け舟を出すにしても

先程の男のようになりそうでりんは怖かった。


「義父上様はお忙しいでしょうから、

一刻はかかるそうなので、宜しければ

その頃にまた……。」

「料理か。面白そうじゃ。」

「へっ?」

「せっかくワシに可愛い娘が出来た

記念に、親子で料理を作るのも面白かろう。」


こうして、なぜか一番偉いはずの城主

(先程人殺しを命じた怖い相手)と

姫様、侍女たちと城の下働きの子ども2人の

奇妙なご飯作りが始まったのだった。


「これは、ここのお鍋なのね。」

「あっ、お玉に、網じゃくし、うわぁー

すごい、調理器具もすごいわねー。」

りんの嬉しそうな表情で、痩せた子ども

2人は、いくぶんか表情が和らいだ。

      **

「ごめんね。ここの台所の使い勝手が

わからなかったので、手伝って

欲しいんだけどいいかな?」

大殿と姫様がみたらし団子と草もちを

食べる間、簡単に飾りつけた物を

葉っぱのお皿に入れ2人にあげたのだった。

「美味しい。こんなにも甘いの

はじめてだわ。」

「……美味しい。」

「そう、よかった。私もこのみたらし団子と

草もち好きなのよ。美味しいは正義よね

。あっそうだ私はりん。よろしくね。」

「よ、よろしくお願いします。私と

この子は11歳で、まだ、雇われたばかりで

仕事に慣れてませんがよろしくお願いします。」

「ホント、私も11歳なの。」

「「えっ?(おい!)」」

「えっ、あぁっ!!って驚いた?!あはは、

私はほ、ホントは、14歳でした。あはっ

14歳よ。11歳に見えるでしょ。」

思わず、本当の年齢を言ってしまった

りんに姫様と、少し離れた位置にいた

小助に驚かれたのだった。

あはは……。

「あっ、お、お若く見えますね。」

「そ、そうですね、11歳にみえます。」

「あ、ありがとう。気をつかわしてしまい

ごめんなさいね?!」

こうして、りんと下働きの2人は

仲良くなっていったのだった。

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