第10話


「姫様、ここの台所でお団子などの

甘味を作っていいですか?

ここに来る途中でつんだ

薬草や山菜もいい感じで、ほらっ

いい具合に乾燥してきたんですよ。」

「その干からびた物が食べれるのか?」

「はい、美味しいんですよ!」

りんがそう言うと、なんのためらいもなく

カラカラに干からびた葉っぱを

口に含んだ姫様。

「ひ、姫様!!まだ、ダメです!」

慌てた周りの者と、止めれなかった

りんは焦った。

「ぺっ、ぺっ、なんじゃ、コレは?

おりんは味覚が変なのか?」

少し苦がったのか、涙目になりながら

湯呑みに入れたお水を、2杯飲んでいた。

「ち、違いますよ。これは、細かく

すり潰してお団子に混ぜると、風味が

良くなりあと、美味しいんですよ。

美味しいは正義なんです。しかも、

肌荒れの塗り薬にも使われる薬草で、

かなり便利なんですよ。庶民の知恵ですよ!」

すごい勢いで力説するりんに

1人を除き、周りの者や姫様は笑っていた。

「ほぉー。おりんの"庶民の知恵"とやらは

すごいんだなぁ。」

「姫様、お言葉ですがそこのバカりんは

食い意地が張ってますので、食に

関してだけです。食べ物の知識は

それなりにあります。」

「なるほど~!」

ニヤリと笑う小助と、口元を押さえ

上品に笑う姫様。

「姫様も、小助兄さんもひどい。

食べ物を美味しくするおかみさん直伝

庶民の知恵なのよ。」

「ははは、それなら、おかみさん直伝

庶民の知恵とやらを妾に教えてくれ。」


明日の朝1番で登城する姫様御一行は

旅支度の調度品などの整頓もひと段落し

鍛錬や繕い物、それぞれ自分の時間を

過ごしていたのだった。

豪華なお昼ご飯も食べ終わり

暇を持て余したりんは、思い付きで

ここに来る途中でつみとり、集めた山菜や

薬草の選別をしていたのだった。

「これはよもぎ。これはオオバコ。

たんぽぽの根っこは、お茶にしようかな?」

「この、干からびたものが、食べ物に

なるとは、不思議じゃ。」


「みたらし団子と、草もちを作りましょう。」

「草、やはり草なのか?」

「はい。よもぎを多めに入れ、腹持ちを

良くするためオオバコも入れて、

お通じもよくなり、お肌にもいいんですよ。」

「女は度胸じゃ。草のもちとやらを

作ってやろうじゃないか。」

「はい。一緒に頑張りましょう。」

りんの前掛けをし、着物もりんに

縫いなおした着物をきた姫様。

頭にはほお被り、たすき掛けした

姫様とりん、そして4人の侍女たち。


「基本は、米粉100g、ぬるま湯100cc

です。お団子につける甘いタレは

醤油大さじ2 、砂糖大さじ3~4

みりん大さじ1、水100cc

片栗粉大さじ1ですが、人数分だと

あれ?姫様、護衛の方も含めて

どのくらいでしょうか?」

「かなり人数は絞ったんじゃが

40人はいるかと思う。」


「40人…。おかみさんのお店並みね。

あとは、お宿の方にもおすそ分けするから、

計りやすい様に50人分くらい?

作ろうかな?それとももう少し

増やした方がいいのかな?

とりあえず50人分かな。」

小さな声でつぶやきながら材料を

並べていく、りん。

「米粉5kg、うっ、重い。

ぬるま湯5リットル、よいしょっ。

甘いタレは、醤油1.5リットル、

砂糖は約3kg、みりん750cc

水は約5kg、重っ!!

片栗粉750cc……。

あとは草もちね。」


「はい、この入れ物に米粉とぬるま湯

を入れて、こね混ぜてまとめます。

ぬるま湯は、少しずつ入れて混ぜて

下さいね。」

5つの入れ物に材料をわけ入れ、りんの

指導のもと、それぞれに作り始めたのだった。

姫様はもちろん、他の侍女たちも

それなりに地位はあり、料理や

甘味作りは初めてだったのだ。


「お団子状に丸めて、このくらいの

大きさにして下さい。こちらのように

小さい方が数も多くなるし

食べやすいかもしれませんね?!」

「お湯はかなり熱いので、あっ!!

姫様、そこ危ないですよ!!」

「あっ!ダメです。そのまま触れたら

熱すぎますので危ないです!」

「そこのお鍋も熱いですから、

火傷しますよ!」

「火がぁぁ…あっあぶないのでやはり

私がしますね!」

小さく丸めたお団子を、お湯の中に

離れた場所から投げ入れようとしたり、

台所の温度もかなり暑くなったからか、

どこからか取り出した扇子であおぎ出し、

その風で火力が上がった結果、

さらに部屋が暑くなったのだった。

冷たい井戸水を皆んなで飲んだり、

りんはあちこち動いていた。


姫様と侍女たちにはみたらし用のお団子と

蒸し上がった熱々の餅を、みんなが

ヤケドしないよう、しゃもじで適度な

大きさにしてもらい、団子状に

丸めるまでを、それぞれにしてもらったのだった。

姫様も他の侍女たちもワイワイと

楽しみながら丸めてくれたのだった。

りんは、それらをたっぷりのお湯で(約3分)

お団子が浮かびあがるころまで茹でた。


茹でてる間にタレ作り。

お鍋にお水、お砂糖、みりん、

しょうゆを入れ軽く煮詰めた後

水溶き片栗粉でとろみをつけたら

出来上がり。

味見用のお団子も、ちゃっかり

多めに計り入れていた、りんだった。


草もちも同時進行で作っていたりんの

手際の良さに姫様と侍女、そして

お宿の料理人たちもみていたのだった。


上新粉:75g(3750g)

餅粉:25g(1250g)

砂糖:10g(500g)

お湯:70g(3500g)

よもぎとオオバコなど。

きなこと砂糖。


みたらし団子を作る際、その隣に

蒸し器に湯を沸かしていた、りん。

よもぎとオオバコをすり鉢でゴリゴリしながら

時折り、みたらし団子を丸める姫様たちを

みていたのだった。


上新粉・餅粉・砂糖をよく混ぜ、

お湯を加えてダマにならないよう

入念にこねながら、また、危なかっしい

手つきの姫様たちに気を配っていた。


手の空いた侍女たちに、茹で上がった

お団子に、数個だけゴマやクチナシの

実などで色付けしてもらったのだった。

白い小さなお団子に丁寧に飾り付ける

侍女たちと姫様。

目や口を付けたり、動物の耳っぽく

形を整えて飾り付けてもらったのだった。

それらを摘んだばかりの、生の

葉っぱ(食べれる野草)の上に

のせていくと、歓声がわいた。


楽しく飾り付けに熱中している皆を

横目に、りんはまたおもちをこねていた。

粉っぽさがなくなって生地が

まとまってきたら、薄めに成形し

蒸し器で20分ほど蒸し、

餅を蒸している間に、姫様たちが

形作ったみたらし団子の追加分を

ゆであげていたのだった。


飾りつけたみたらし団子とタレを

別容器にいれ、護衛たちに渡す分と、

自分たちの分、そして台所を長時間

貸してくれたお宿の人たちの分に

分けたのだった。


もう一方の草もちは、飾り付け以外は

ほぼ1人でりんが作っていた。

蒸しあがった餅を入れ物に入れ、

すり鉢ですりつぶして、よもぎや

オオバコなども混ぜ合わせ、また

形を整えたのだった。


仕上げに大量のきな粉やはったい粉

そしてお砂糖をたっぷり混ぜ合わせたものを

草もちの下に敷き、野うさぎや

犬っぽい?動物、ひよこなど見本で

作ったのだが、お茶屋のおかみさんのようには

うまくいかず、出来上がった草もちの動物は

きな粉とはったい粉とお砂糖を混ぜた

土に見立てたお皿の上で、

可愛く並んでいたのだった。


「おりん、それは何の動物じゃ?」

「姫様、これは犬でございますよ。」

「ほぉー、犬は、ほれ、妾の方が作った

この団子はまっこと、犬っぽいぞ。

おりんのは、ヒゲがないぞ。」

「姫様のは、可愛いネコかと思いました。

耳が大きすぎませんか?」

「ネコじゃと?りんのそれは野うさぎか?

耳が、何とも微妙な長さじゃ。

こちらはうっ、ちょっと、失敗したのですっ。

これも自分で食べるから、大丈夫ですっ。」

姫様とりんのやり取りを、微笑ましく

見守る侍女たちとお宿の者たちだった。

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