第9話


夜が明けきれない、まだ薄暗い朝……。

いつもより、少し肌寒い朝だった。

お城には物々しい雰囲気と沈んだ顔の

姫様が珍しく起きていた。

支度もほぼ終わった状態の姫様。

きらびやかな衣装とは裏腹な姫様の

暗い表情に、りんは声のかけ方を

忘れたかのように黙ったままだった。

姫様を気にしながらも、他の侍女たちに

混じりさまざまな事を手伝っていた。


なかなか視線が合わない姫様とりん。

姫様は意を決して話しかけた。

「…おりん、頼みがあるんじゃが……。」

「はい。なんでしょうか姫様?」

「…おりん、妾の正式な侍女になり、

嫁いだ後もこのまま一緒にいて欲しい。

ダメ…だろうか?小助ももちろん一緒でいい。

小助なら護衛か護衛見習いとして……

出来ればきて欲しいんじゃが…。」

「はい。いいですよ。」

「えっ?い、いいのか?」

姫様にしては、歯切れ悪くチラチラ

こちらを見ながらはなしていた。

りんが即答すると、かなり驚いた様だった。

りんは、昨日おかみさんに小助と共に

呼ばれた際、「お店の事は

気にしないでいいから、出来る限り

姫様のお役にたちなさい。あの方の

指示でもありますよ。」と言ったのだった。

おかみさんもおかみさんの亡くなった

旦那さんも、あの村の出身だったそうだ。

小助はなぜか知っていたようで、りんは

少しの間ふくれていたが、大好きな

お団子をほおばり、機嫌はなおったのだった。


「はい。侍女がどんなお仕事かは

わからないけど、大好きな姫様の為

私の仕事の合間にでも、よろしければ

おいしいお団子など作ってもいいですか?」

「……あいわかった。ありがとう、おりん。」

「張り切って美味しいお団子いーっぱい

作りますね。そしてみんなで食べましょう!!」

「食べ物の話をすると、おりんは

いい表情をするんだなぁ。」

「だって姫様、出来立てのお団子は、

熱々ですぅ~んごく、美味しいんですよ!!」

美味しいは正義です!!」

りんの言葉に目に涙を浮かべながら

笑った姫様はすごくきれいだった。

食事を作る事、ましてや団子や

甘味などを作ることは、別の者の仕事だと

知らなかった"おりん"だった。


小助も即答で姫様の護衛見習いとして

この先付いて行く事が決まり

笑顔でこのお城を出た姫様だった。


      ***


姫様の嫁ぎ先候補は滅ぼされた国の

直属の家臣でした。

3つの大名家から攻撃を受けて

お仕えしていた国が滅亡して以来、

姫様の嫁ぎ先候補の城主は、とある国の

城主に認められ厚遇を受けていていました。


「あの方のためなら、命も惜しまぬが

あやつなぞには頭も下げぬ。」と

姫様の嫁ぎ先候補の城主は、

3つの大名の中でも一番の権力がある国の

言うことには耳を貸そうとしませんでした。


元の仕えていた国をを滅ぼした

3つの大名の中で一番の権力を持つ国に

対し、指示された政略結婚に

「あやつなど…虫が好かん。」と

一度は勧めてきた婚姻を断ったのだった。

姫様の事自体も調べずに断ったらしい。

だけど「まあまあ、仲良くせい。」と

仲をとりもつように、お世話になった

国の城主の意向もあり、姫様の

嫁ぎ先の義理の父となる城主はしぶしぶ

直系の息子と姫様の婚姻を承諾したのだった。


この政略結婚は、嫁ぎ先の国を

(大名の中で権力が一番ある国に)

従わせるための策略だった。

後々に脅威となる姫様の父の名声と力を

手に入れる為、または直属の配下にする為

姫様を嫁がせようとしたものの、

嫁ぎ先予定からの承諾が得られなかった為

嫁ぎ先のお世話になっている国を調べあげ

その国の城主に相談をもちかけたのだった。

無事に、姫様の嫁ぎ先として決まり

力を見せつけるかのように姫様を

一番の権力を持つ城主の養女となってしまったのだ。

身分的には、嫁ぎ先より姫様の方が

身分が高くなってしまったのだった。


数日かけたどり着いた姫様の養女先となる

城下町の高級なお宿。

貸し切りにしたお宿の台所で、

本来ならある得ないのだが……。

「カゴや牛車ばかりでは、身体が

なまる。おりん、着物を借りるぞ。」

姫様が事前に準備してくださっていた

侍女用の着物。

おりんだけではなく、数名の侍女も

ついてきていたのだが、姫様と体格が

似たり寄ったりの小さな"おりん"に

"小さくなってしまったから"と言い

他の侍女たちが自分の着物を"おりん"用に

縫い直してくれたのだった。

お祝い品の反物もいくつか下賜(かし)され

女ばかりの戦いはなく、まんべんなく

分け与えられたのだった。

おりん自身も突然の出立という事で

お茶屋さんで働いていた時の着物、

3着のうち1着しか持ってきてなかったのだ。

(なぜか前掛けは3着とも持って来ていた。)

荷物が少なすぎるおりん。

急な配置に戸惑う2人に、皆

優しくしてくれたのだった。


小助に対しては、護衛見習いとして

屈強な護衛たちに可愛がられたのだった。

着物や装備品もお下がりを小助に

渡し、それで訓練や鍛錬をしていた。

おりんは、相変わらず拾った棒切れや

誰からか借りたのか、竹ぼうきで

小助の相手をし、周りを笑わせていた。

そこに姫様も加わるので、小助は

力加減を誤り、竹ぼうきでおりんに

叩かれたり姫様に追いかけられたり

小助もまた、周りを明るくさせていたのだった。


実際の年齢を偽っていることもあり

おりん兄妹は童顔で、みんなの

弟分と妹分扱いだった。

"過保護で心配性なおりんの兄"

"元服前なのに妹を心配するあまり

嫁候補に気が回らないおりんの兄"

侍女を含めた姫様のお付きの者たちは

小助の嫁候補探しや、立候補しようとする者

さまざまな立場の者から可愛がって

くれたのだった。

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