第6話


お城を出て、少し時間を取られながらも

聞いた通りの場所に立派な道場があった。

「大丈夫?さっきから暗いわよ?」

「……大丈夫、りん。」

「な、何よ。どうしたの?いつも以上に

なんか変だよ?」

「りん。何があっても守ってやる。あと

いつも以上に変というのは納得できない。

しかもいつも変なのは、りんの方だからな。

変なりんを、守ってやるからな。」

途中から、ニヤリと笑う小助に

心配ながらも少しホッとしたりんだった。

「……ぷふっ、変なの。小助兄さんは

かなり重症の心配症で、過保護ね。

大丈夫よ。私がドジってこけたんだし、

責任持ってちゃんと謝るわよ。

道場主さんはじいやさんに似てるって 

じいやさん本人も言ってたし、

きっと大丈夫。ねっねっ!よし!

ほら、きっと大丈夫よ!!」

パーン!!っと力強くりんは、小助の

背中を思いっきり叩いた。

「……うっ!…イテェ~!!くそっ~

まじ、痛てぇー!!」

「あははは。ごめん、ちょっとばかり

力入れすぎちゃったわ。ごめーん。」

「バカぢからのバカりん。」

涙目になる小助を横に笑っていた。

「バカりんって、なんか可愛いかも。」

「………バカ。」


***


「はあ、やっと着いたわ。ここなのね。

わりと……うん。たしかに道場なんだけど

道場って感じの道場ね。」

「………?!」

小助は門の前で緊張しているのか

表情がさらにかたくなっていた。

「ねぇ、小助兄さん?ここの道場前で

"たのもー!!"ってさけんだら、

どうなるのかな?」

「バカ、りん!絶対言うなよ!!

それだけは冗談でも言うなよ!!」

「えへへ、いくらなんでもわかるわよ。

私言わないわよ。安心してね。あれって

確か、よくあるみたいだけど……。」

「なんだ、チビ2人が道場破りか?」

「「……!!」」

2人の目の前に音もなく現れた大男は、

年のころはじいやさんと同じ位か

少し上くらいに見えた。そして、

じいやさんをさらにイカツくしたような

顔つきをしていた。


「うちの流派もバカにされたもんだな!」

「「も、申し訳ございません。ごめんなさい。」」

「す、すみません。ちがいます。"か弱い"

私は、そんな大それた事できません。

あと、これ、お、お城のじいやさんから

頼まれたものです。道場主さん?様?は

い、いらしゃいます?え~と、あれ?

ご、ご在宅?でしょうか?」

「ふっ…城からの使い?」

「す、すみません。来る途中で転んだ上に

み、水…打ち水をかけられてしまい

拭いたんですがすみません。字は

自分の名前位しか読めないので、

中身見てしまいましたが…内容は

わからないので、ご安心?下さい?」

「……面白いやつじゃな。」


「あと、道場の責任者はワシじゃ。

道場前で、"たのもー"ってバカがよく

腕試しにくるが"お願いします。"って

意味で叫ばなくても聞こえるからな!

そこまで耳など朦朧(もうろく)しとらんからな。

最近の若いやつは、まったくもう……

モノを知らんから教えてやろう。

門の前で言う、"たのもー"に対して

"どうれー"って応えるが"何の用だ?"

って言う意味だ。あと、これの

返事を書いてくる。ちょっと待て。」

2人は思った。

じいやさんと同じ血が流れてそうだと。

そしてお説教されたら、じいやさんより

かなり長そうだから気をつけようと、

更に思ったのだった。


2人は道場の門前で話した後、

道場脇に座っていた。

住み込みのお弟子さん達がお掃除を

したり、朝ごはんを作っているのか

いい匂いがした。

ギュルルル……。グゥ~。

朝早かったからか、りんの次に

小助のお腹がなった。

お城を出たら、すぐにお茶屋さんに

戻るつもりだったので朝ごはんは

まだだった。

いただいた蒸した芋は、後で食べようと

した事を、少し後悔する2人だった。


    ***


その頃、道場主と城から見張りとして

ついてきた人物から話を聞いていた。

兄の小助は落ちた木簡を見て驚いていたので

妹をかなり気にしていたが、もしかすると

文字を読めるかもしれないという事だった。

木簡の内容は"密偵の疑いあり。処置任す。"

それに対して道場主の返信は

"男は灰に近く、女は白に近し。紙一重。"

兄に対しては妹を盾にしたら……。

と思った道場主だったが、言葉を

のみ込んだまま、返信の木簡を

城のものに渡したのだった。

もう一方"姫が信じるならそばにいても可。"

こちらは小助たちに渡そうとしたのだ。

道場主もまた、木簡にわざと、

封を付けなかったのだった。


その頃道場でいつのまにか掃除などを

終えた住み込みのお弟子さんたちと

乱取りしていた小助とりん。

小助は自己流だがなかなかの腕前で

流派にこだわるお弟子さんからは

次の一手が読みにくい相手だった。

りんは、薙刀や棒術は初心者というか

兄に教わったとの事だったからか、

お弟子さんに、丁寧に教えてもらっていた。

道場主はしばらくその乱取りを見ていた。


「たのもー!!!」

門の方でかん高い声と同時に

解放したままの門から道場に走り込んできた

者がいた。

「新手の道場破りか?」

周りの制止を振り切り道場に

飛び込んできたのだった。

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