第5話

「「おはようございます。」」

「ふぁ~。おはよう、小助、おりん。」

「……?」

「どうしたんじゃ?」

「い、いえ?…ここは?」

「ふむ、ここは、妾の部屋じゃな。」

「……じょ(女性の部屋)!!」

「……んっ?」

小助は顔を赤くし、りんはそんな

小助を不思議そうな顔で見つめていた。


大イノシシの鍋を食べ終わる頃、

お空には月がのぼり、辺りは

暗闇に包まれていた。

小助とりんは豪華な食事と周りからの

さまざまな視線、違和感ある

緊張感に包まれていた。

そしていつも日の出前に起き、

日が沈むと寝につく生活だったからか

小助とりんは庭の片隅で肩を寄せ合い

いつのまにか眠ってしまったのだった。

ところが朝起きると、立派なお布団に

2人とも寝ていたから驚いたのだった。

外は薄らと明るくなっていた。


「姫様、お目覚めでしょうか?」

廊下側から女性の声がした。

「まだ、眠い。もう一度寝る。」

「………。」

姫様は寝返りをし、廊下側に背を向けた。

「姫様、本来ならば城の者はもちろん

民はもっと早く起きています。

いい機会ですし、そろそろ起きてくださいまし。」

「眠い。……寝る。」

姫様も昨日遅かったからか、上掛けを

被られ寝ようとされていた。

「姫様、泊めていただきありがとう

ございました。俺たちは、そろそろ

おいとまします。本当にお世話になり

ありがとうございます、では失礼します。」

「うーむ。また、逢おうなぁ。

気をつけてなぁ。おやすみ。」

そう言いながら、手を上掛けからだし

手を振ってくれたのだった。

そんな姫様を見て、りんと小助は

顔を見合わし笑ってしまった。


部屋を出ると、先ほどの女性が

ため息混じりに姫様の事を聞いてきた。

姫様に自分たちはお茶屋に戻る事を

伝えると手を振って下さり、再び

寝た事を伝えたのだった。

ダイハチ車は昨日、お茶屋に使いを出して

くれた時にお城の誰かが返してくれたそうだ。


城の方たちにもお礼を言い、立ち去ろうとした時、

「おお。小助とりんといったな?」

「はい。昨日はお世話になりありがとう

ございました。」

「ああ。よい、我々の姫様のお気に入り

だからな。礼をしたまでだ。あと

すまなんだが、頼まれごとをして

欲しいんだがいいだろうか?」

じいやさんとばったりあい、ご馳走になり

色々お世話になった事などお礼を言うと

すまなさそうな表情を浮かべていた。

そしてじいやさんに、とある道場に

文を届けて欲しいと頼まれたのだった。

ひとつ返事で文(数枚の木簡)を

届ける事を承諾したのだった。

小助はこの木簡を見て違和感を

感じたが、りんが笑顔で

「ちょうど帰り道にあるから、すぐ届けますね。」

といい、じいやさんは心配そうな表情を

浮かべていた。

「お前たちは、字は読めるのか?」

「す、すみません。読み書きは、自分たちの

名前はなんとか読めますが、おかみさんに

教えてもらいましたが、おかみさんも

あまり読み書き出来ないので……。」

「すみません……。」

着物の裏に刺繍された名前をわざわざ

見せながら、小助はそう答えた。

小助の着物はおかみさんの亡くなった

旦那さんの着物を縫い縮めてくれたもので

旦那さんの名前の下に、小助の名前が

刺繍されていたのだった。

「そうか。気をつけてお帰り。」

「はい。本当にありがとうございました。」

りんに手渡された木簡は封をされておらず

簡単に中身を見れる様にされていた。


「昨日の大きなイノシシのお肉もだけど

白米って甘みがあって、おいしいのね。

あの味噌が付いたおにぎり最高。」

「りんは、食いしん坊だなぁ。」

「おいっ!りん、ちゃんと前向かないと

また転けるぞ。」

「小助兄さんは、心配症ねぇ。

私は大丈…ぶっ!!」

言ってるそばからお約束のように

本当にこけてしまった、りん。

手に持っていた木簡は手から離れ

落ちてしまった。

さらに追い討ちをかけるように

朝の打ち水をしていたお店の者。

お店の者は青ざめ、小助とりん

そしてこっそりお城から付いてきた

者まで驚いていた。

「あ~!!濡れちゃった。大変だわ。」

「あっ、こら、りん!中身見ちゃダメだ。

しかも、拭くな!あっ!!」

小助の制止も聞かず、濡れた木簡を

開き、袂(たもと)から取り出した

布でゴシゴシ拭いたのだった。

「バカみ、みんな文字が…消え…て?

なくて…よかった……?!」

かなり焦った小助は、昔のように

"バカみく"と言いかけ、さらに

動揺してしまった。

お城から見張りが付いてきてるのも知っていた。

「小助兄さん……心配症ね。文字消えたら

じいやさんに謝って、もっかい

書いてもらったら……。」

「バカ。そんなん、できるわけないだろう。

だけど、これ濡れたし、ドロが

付いてしまったな、」

「ごめんなさい。じいやさんの知り合いだし

姫様が言うようにガンコ者かもしれないけど…

正座覚悟で、正直にこけましたって

ちゃんと謝るわ…。」

「…ああ。正座で済みゃいいけどな……。」

「小助兄さんも、ハタキ折った時、

一緒に正座させられたし、涙目だったもんね。」

「バカ。涙目になんかなってないし

りんより正座出来るからな。」

「ハイハイ。そういう事にしとくわね。」

「りん、もとはりんが悪いんだからな!

ハタキなんかで振り回すから、6本も

折っておかみさんに、怒られるんだからな!!」

「ちがうわ、4本折ってあと2本は

棒にヒビが入って、折れかけただけよ。

これ終わったら、山に棒取りに行きましょう。」

「りん、また折ったのか?」

「…まだ、折れてないわ…。」

「……。」

こけたりんと木簡にうち水の水を

かけてしまったお店の人は、2人に

謝りながら、お詫びと言って

蒸した芋をくれたのだった。

お互い謝りながら、ホクホク顔の

りん。それとは対照的に小助は道場に

近づくたび暗くなるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る