第4話
じいやさんに長々とお説教を聞かされ
巻き添えになった小助とりん。
お館様のお説教並みに長いが、
じいやさん場合はすごく感情が
込められた話し方で、たとえば
"すごく"という言葉を言う時
"すん~ごぉくっ"っていう勢いで
話していた。
独特な話し方のじいやさんだった。
「ひめぇぇぇ、じいやは姫のことが
心配で心配で。もう一度、いや
いま一度、ひめぇ?聞いておられますかぁ~!」
「じいや、おりんが怯えるだろうから、
もうちょっと、小さな声にしろ。」
「……うぐぅ、すまな…ンンッ。」
じいやさんが、こちらをギロっと
睨みつけるようにみてきたので
りんは思わず、目を逸らした。
そんなりんに、小助はじいやと
姫様に頭を下げながらりんの頭をなでていた。
「ひめ、こやつらは何者でございますか?」
「何者かと聞く前に、怯えさせたん
だからじいや、潔くおりんたちに謝れ。」
「……ふんっ。」
「すまないなあ、歳をとってあるから
年々じいやはガンコになってしまってな、
許してあげてくれ。」
「ひめぇぇぇ。」
「「姫様……。」」
お説教中、お城の者たちに姫様は
大きなイノシシを解体する様に指示をした。
そして、イノシシの一部を小助とりんに
渡すように指示をした。
「ひめ、よろしいでしょうか?」
「なんじゃ?あやまる気になったのか?」
「それはそれ、これはこれでございます。」
「ん?何か言いたいのか?」
「まだ、お互いの紹介がされておりません。
このイノシシとこの者たちの事を
詳~しく、このじいやにお教え下さいませ。」
「細かいのぉ~。ハゲるぞって言うか
すでに手遅れか。ははは。」
「「……。」」
姫様、笑えません。それに
じいやさんのお顔が怖くて見れません。
「これはハゲではござりませぬ。これは……。」
「あー、はいはい。わかっておる。
半分冗談だ。ムキになるな、ムキになると
ハゲ……ゴホッ。この2人はなぁ……。」
「……。」
姫様との出会いから大雑把にじいやさんに
説明をしてくださっていた姫様は
笑顔を交えながら話されていた。
チラチラこちらを見ながら姫様に聞く
じいやさんは、姫様が言うように
かなりのガンコというか疑り深い
性格だと思うと同時に、小助はさらに
気を引き締めたのだった。
夕刻になりあたりは暗闇に
包まれようとしていた。
「我々の姫のお客人、是非とも我が家流の
お礼だが、ご一緒に食事を召し上がって下され。」
小助は何か考えていたようなので
姫様のお城の方からの返答をりんが
代わりに答えたのだった。
「……いえ、私たちはお茶屋のおかみさんが
心配しますし、これにて失礼…いたしますね?」
お城の方を見た後、小助と姫様に
視線を送ったりん。
「小助、おりん、すでに使いを出してる
妾(わらわ)のお父上も了承ずみだ。」
「……使い?」
「そうじゃ。せっかくのイノシシだし
ゆるりとせい。そして泊まっていけ。」
お、お城にお泊まり?!
りんは驚き、つい立派なお城を見上げていた。
「……作法も知らぬ田舎者なので
失礼にあたるかと思いますので、
やはり……。」
やっと、小助が口を開いたがそれを
遮り、戻ってきたじいやさんに
声をかけられなのだった。
「無礼講だ。お前たちは子どもだし
礼儀は期待してない。」
断れないと観念した小助とりんは
そのまま頭を下げ、宴席に招かれたのだった。
小助は小声でりんに言った。
「無礼講とは言っても最低限の作法はしろよ。」
「わかってるって、心配しないで。」
「……。」
お館様が厳しく教えてくれたのが
食事に関しての作法だった。
①席に着いて、膝が少し上座に
向くように座る。
(食べる時には戻す。)
②上座の主人が箸をとるのを
確認してから自分の箸をとる。
③主人にならって食事を始める。
食事を準備してくれた人たちと
食材に感謝しながら食べる。
④その後は特に合わせる必要はない。
楽しく場を乱さないよに食事を
おいしくいただく。
⑤食べ終わりに箸を置くときは
再び上座の主人に合わせる。
予習終わり、完璧だわ。
りんはそう思っていた。
2人が連れられてきた場所は、
お城のお庭だった。
体格の良い男衆と縁側に腰をかけ
酒を飲む勇ましい男性だった。
2人に目線を向けニヤッと笑った。
「我の姫が人助けの為、倒した
イノシシだ。皆の者、心して食せ!!」
鼓膜に響く声は、高すぎず低すぎない声だった。
「「「「「「承知!!!」」」」」」
お城の庭に大鍋が3つ。
「小助…兄さん?上座ってあそこの
縁側に座られているお方になるのよね?」
「そうだな?末席は、どこ行けばいいんだ?」
2人はコソコソと、小さな声で話していた。
「小助もおりんも、そんなすみっこで
何ぼーっと突っ立ってるんだ。
こちらへ来い。父上に紹介するぞ。」
「「えっ?!」」
有無を言わさず手を引っ張られながら
やはり縁側に座って酒を飲んでいた
人物の前に2人は対面したのだった。
思わずお館様様や大名行列が通る時に
するような姿勢をしたのだった。
小助は立てひざ、りんは、両ひざを
地面に着け頭を下げた。
「父上、小助とおりんは3年前から
大切な友人じゃ。やっと紹介出来るわ。」
小助とりんは、地面とにらめっこ
しているうちに、3年前城を抜け出した
姫様との出会いから今日までの事を
かいつまんで話していた。
「父上、小助はちとじいやに似て
口うるさいとこもあるが、おりんには
めっぽう弱いんじゃ。ほんに、仲の良い
兄妹のようでな、私が会話に入ると
この私を妹のおりんのように接するし
面白いんじゃ。」
無言で聞いてるのか声は聞こえないが
強い視線をあちこちから感じた
りんと小助は更に小さくなった気がした。
「姫よ、あいわかった。田舎モノと
ばかり思っておったが、この2人
なかなかどうしてか、しっかりしておるな。」
はははっと笑ったこのお城のお殿様は
姫のじいやに持ってこさせた
イノシシのお肉が入った鍋料理の
お椀を小助とりんに手渡したのだった。
しばらく手に持ったままの2人に
「どしたんだ?冷めないうちに食べろ。
それとも別の心配なのか?」
「別のというか、えーと……。」
りんは、お殿様とじいや、姫様
周りの人たちを見渡したあと、小助を見た。
「りん、大丈夫か?あれか?作法か?」
「うん、誰も箸をつけてないから、
上座の方がお箸つけてないのに
先に食べたら失礼になるので、
おいしそうだけど待ちます。」
「「「「「「……。」」」」」」
「……プッ。」
あたりはシーンと静まりかえったあと
誰が漏らしたかわからない笑いに
耐えきれず、皆笑い声をあげてしまった。
「姫の友人とやらは、愉快だ。
"しつけ"もひと通りされてそうだ。
ほれ皆の衆、姫の大切な友人に
冷めないうちに、食べてもらいたいから
早よう箸を取れ。」
「「「「「「承知!!」」」」」」
こうして、お殿様を筆頭に家臣たちと
小助とりんに、豪華なイノシシ鍋や
にぎり飯がお城の庭で振る舞われたのだった。
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