第3話


大きなイノシシを倒し母子たちを助けた

やんちゃだけど勇ましい、しかも

美しい姫様。

その場にいた者たちは口々に美貌を持つ

勇敢な姫様の事を褒め称えていた。

それと同時にこのイノシシをどうするかで、

しばらくの間、話し合いが行われたのだった。

これとばかりに、しっかりもの?

ちゃっかりもののお茶屋のおかみさんは、

味見用にかなり小さくしたお団子を

作っていたのだった。

そしてそれらを(新作のお団子を)みんなに

宣伝するのも忘れなかったおかげで

その日、一日の売り上げが凄いことに

なったそうだ。その日の事を、美しく

勇敢な姫とイノシシの出来事とあわせ

おかみさんは、ホクホク顔でお団子の

宣伝をしていったのだった。


このご時世の食事事情といえば

お肉や魚を食べる習慣はあまりなかった。

年に数回、又は婚儀などのお祝いごとに

魚や肉をほんの少し食べる程度だった。

さいわいな事に、このお茶屋さんは

山の麓(ふもと)にあり山の幸である

木の実や薬草、きのこ類、山菜

あとは農作物、豆類などが煮物や

お漬物になり、それらをりんと

おかみさんで作っていた。

りんはお料理と野の薬草やきのこ類に

かなり詳しくなったのだった。


甘いものが大好きな小助とりんは

このお茶屋さんで働くようになり

甘味が毎日食べれる幸せをかみしめていた。


普段の食生活は一汁一菜か、お団子、

雑穀米のおにぎり、又は雑炊のような

物のご飯が多かった。

小助もりんも食いはぐれることなく

おかみさんに対してと、このお茶屋さんで

働ける事と、毎日美味しいご飯を

食べれる事に感謝を忘れなかった。


話は戻り、このお茶屋にはダイハチ車もなく

仕入れの時には、背負いのカゴ位しか

なかったのだ。

「私どもの、車をお使いください。」

タイミングよく、突然声をかけてくれた

人物に小助とおかみさんは驚いていた。

りんは、お団子を買ってくれる

お客様のお相手で忙しく、あまり

気にはならなかった。

そこには行商を終えたのか、ほぼ

カラになったダイハチ車をひいた

体格が立派な男性が立っていた。

「お城なら、この獲物を捌ける(さばける)

人もいらっしゃるでしょうから、

良ければお使い下さいませ。」

柔和な笑顔を浮かべる男性。

「そうだな。それなら乗りそうだが…。

そなたへの礼は、その売れ残りを

買い取ればいいのか?それとも

別のがいいのか?」

「いえいえ。お美しい姫様。"私には"

お礼はいりません。少々疲れましたので、

このお茶屋さんで休憩しますので、

その間、この車を使って下さいませ。」

「……あい、わかった。では遠慮なく

使わして貰うぞ。団子代くらいしか

待ち合わせないがの。」

「いえいえ。結構です。あー疲れた。

そこの木陰で一眠りするとしましょうか。」

そう言いながら、大きなイノシシを

その男性のが担ぎ上げ、ダイハチ車に

乗せてくれた男性はお団子を

"3皿"食べお茶をすすったあと

眠そうにあくびをしていた。


「小助、りんちゃん、姫様と一緒に

このイノシシをお城にお届けしなさいな。」

「えっ?でも今日、まだお店が。」

「ここは私1人でも大丈夫よ。

しっかり姫様を手助けしなさい。私は夫が

亡くなってからでも、しばらく1人で

お店開いてたし大丈夫。だから、ね。」

おかみさんは、寂しそうに微笑んでいた。

「……。」

「姫様、どうぞ小助とりんを使って下さいな。」

「…わかった。ありがたく、お借りする。」

こうして私と小助は行商人さんの

ダイハチ車を借りて大きなイノシシを

お城に運ぶ事となった。

道行く中、美しい姫様に声をかける

民衆に気さくに答え、大きなイノシシから

母子を守りきった美しい姫として更に

語り継がれる事となったのだ。


「小助兄さん、大丈夫?重いでしょ?

りんも手伝うわよ?」

「りん、力仕事は俺に任せろよ。

これくらい大丈夫だ、よっ!」

「まっこと、おぬしらは仲が良いなぁー。」

「……ひ、姫様。」

「はははっ。おりんよ、小助も

男じゃ。女にいいとこ見せたいんだろ~。

小助がんばれよ、ほれ、あと少しじゃ。」


お城の近くだと言うのに、城門まで

かなりの距離があり、ダイハチ車をひく

小助の手と腕がプルプルしていた。

額や背中にはびっしりの汗が流れていた。

本当に大丈夫かしら?

ダイハチクルマの持ち手が2本あるから

それぞれ1本ずつ持つつもりだったのに

お茶屋から半刻かけて、小助は

一人で頑張り続けたのだった。

その間、2人は孤児で親切な村で

幼少期を過ごし、いくつもの村を

転々とし2人で生きてきた事を

姫様に小助が話した。

姫様は、真剣に話を聞きお茶屋の

子どもだと思っていたのに、

苦労したんだなぁ~という内容の

事をおっしゃっていた。

しきりに頷きなが話ていると

姫様を呼び止める声がした。

「ひめぇー!!ご無事でございますかぁぁぁ?」

まだ、数百メートルは離れているのに

大きな声がひびき渡った。

まるで、人間バージョンのイノシシの

ようだった。

とっさに身構えてしまったが、今は

ほうきすら持っていなかったので、

小助が持っていたダイハチ車の

持ち手を掴んだだけになってしまった。

兄の後ろに妹が隠れたように

見えたようだった。

「おりんよ、うちのじいやがすまないのぉ。」

「ち、ちがうんです。」

「あれは、イノシシの様な男じゃな。」

はははっと笑っていた姫様と

私たちは、この後じいやの長々とした

お説教を一緒に聞かされる事となったのだった。


その時、姫様はダイハチ車の男の事を考えていた。

"お漬物などの切り物は、一切れは、人を切れ

三切れは、身切れ、四切れは、死にきれで

縁起が悪い。"と教わっていた姫様。

3皿、身切れ、見切れ?

あまりにも唐突に現れた男に

考え過ぎかな?と思っていた。

それにしても、おりんと小助には

世話になってしまった。

何かお礼をせねばな。

姫様はじいやのありがた~いお説教の

ほとんどが、いつも以上に

頭に入っていなかった。


そんな姫様をヒヤヒヤしながら

りんと小助は見ていたのだった。

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