第2話

数日小雨が降ってきたけれど村から

10日程かけ、やっとついた場所。

大好きなこのお茶屋さんで私たちは

働くようになり3年の月日が流れた。


小助は元服を控えた15歳。

りん(みく)は14歳の"設定"になった。

本当は、2人とも11歳だけれども

3年ものの兄妹設定だと身体つきも

態度もそうなるから不思議だわ~と

りんは思っていた。

あれから、ちょこちょこ村の者が

定期的に(気にしてくれているのか)

お茶屋さんのお客様として

仕事に行く途中や仕事の合間などに、

お団子を食べに来てくれるのだった。

お館様も元気にしているとの事で

良かった良かった!!

一人前なんだから、お館様のため

お仕事頑張るぞ!!と、りんは

今日も元気に気合いを入れ、ほうきなどで

棒術の修行、小助の鍛錬などにも

付き合っていた。

「えい!やー!!」

「おりゃぁ~!そこよし!もらったァ。」

「あっ、バカ。」

パキッ……。

「……あっ。」

「……。」

以前、ハタキで小助の相手をしたけれども

2回位?いや?3回かな?ハタキの

棒部分が、小助の棒術に耐えきれず

折れたりヒビが入ったりし、青すじを

ひたいに浮かべていたおかみさんに

ハタキは使ったらダメって言われたのだった。

毎日使うお掃除道具を何度も、

作り直すのってめんどくさいもんね。

おかみさん、ごめんなさい。

何本かハタキの棒に使えそうな木を

拾い集めときますね。


    *****


お館様は、昔、火事にあい

身体や顔に酷いヤケド跡があるそうで

いつもお面を付け、手甲まで付けていた。

身体を悪くされているからか

すごく優しく、叱る時には

淡々とした話し方でちゃんと

叱ってくれる親代わりのお館様が

りん(みく)は大好きだった。

村の人の中には、落ちこぼれの

"みく"を悪く言う人もいたが

お館様と同じ年の小助はそんな"みく"に

いつも優しくしてくれたのだった。

歌や俳句も教えてもらい、字は

読んだり書いたりはまだ出来ないけど

村では5・7・5の言葉で俳句や

季語と呼ばれる季節を示す言葉を抜いた

川柳も流行っていた。

もっぱら、お館様はきれいだったり

わかりやすい"歌"というものを

作られ、よく聞かしてくれたのだった。


「"むらさきも 朱(あけ)もみどりも

春の色はあるにもあらぬ山桜かな。"

みく、以前に作ったものだが、この歌はどうだ?」

「山桜、うーん、お花が入ってるし、

きれいよね?さくら、さくら……。」

「きれいか……。ふふっ、そうだな、

みくも作って聞かせてくれるか?」

「俳句でもいい?お館様みたいに

長いのん考えるの、ニガテなの。」

「短いものでいいよ。みくのは

いつも、面白いし楽しいからね。」

しばらく考えた俳句を発表したみく。

「梅さくら どっちもおいしい 食べ物よ。」

「ぷふっ。やはり食べ物関係だったね。

季語もあるし、間違いなく俳句だ。」

そういいながら、笑ってたお館様。

優しくて博識で、どこか寂しげな

お館様がみくは大好きだ。

そのお館様に頼まれたお仕事だから、

さらに張り切っているみくだった。


*****


この国の小さなお姫様はかなりの

おてんばだけど美姫で有名だった。

気さくな性格で城下の民衆にも大変

人気があった。

私も姫様が好きなうちの1人である。

「よぉ、おりん、小助元気にしておったか?」

「姫様、4日ぶりですね。また

お城抜け出したんですか?」

「お城の皆様、心配されますよ、姫様。

それとも、お城の警備はゆるゆるですか?」

「警備はバッチリじゃ。それにしても

おりんも、小助もじいやの様な

事言うんだな。ちゃんと知らせてきたぞ。」

「それならよかっ……。」

「また、置き手紙とかじゃないですよね?」

「…うっ!」

姫様は、小助に言われた言葉に

なんとも言えない表情を浮かべていたが

その微妙な表情でさえも可愛いと

思えてしまう不思議な魅力の持ち主だった。

お館様は私たちと年齢の近い、

このかわいくておてんばな姫様と

"知り合いになれ"もしくわ"親しくなれ"と

おっしゃっていたらしいけど

指示されなくても私たちは、この

お姫様が大好きだった。


「小助、そのように小言ばかり言うてると

じいやのように月代(さかやき)ではなく

本当にハゲるぞ。」

「…うぐっ!」

「もう、"小助兄さん"も姫様も、お店の

まん前で言い争わないでちょうだい。」

店の奥で、作りたてのお団子を

お皿に盛ったおかみさんに呼ばれた

りんは店の奥に駆け寄った。

「りんちゃん、新作のお団子しかも

作りたてよ。あったかいうちに

お姫様にお出ししてちょうだいな。」

「はーい。」

バタバタと走り、新作の団子を

取りに行くおりんをみて、

2人は笑っていた。

その姿を見て、お似合いだと思うと同時に

なぜか胸が苦しくなるおりんだった。

「姫様、このお団子はねぇ昨日つんだ

薬草を混ぜて作ったのよ。味見したら

すっごくおいしくて、私の一番の

オススメよ。あっそうだ…よいしょっと

いけないもう少しで忘れるとこだったわ

……。ハイ。毒見毒見。」

毒見と言いながらガブっと

半分以上、口に入れもぐもぐするりんに

「おりん、それ毒見じゃないでしょ。」

「うググッ…。はあ~。苦しかった。

はい、姫様どうぞ。このお団子は

ひえ、あわ、もち米とあと、えーと

なんだっけ?あっ、はったい粉かな?

あとは薬草のよもぎなどを

混ぜ合わせた特製の新作お団子なのよ。

かなり美味しいからぜひぜひ、

お召し上がり下さいませ。」

口元に、お団子を付けたまま話す

りんに、他のお客さんまで笑っていた。


***


「あっ、今日からお外に出られるように

なったのね。よかったわー。

ご出産おめでとうございます。

お祝いの新作のお団子、はいどうぞ。」

「あらぁ~ありがとう。うれしいわ。

2日がかりの難産だったから、

痛いし眠いし、もうダメかと

あきらめかけたわよ。でも、

頭が出てきたって言われたら

早く産まなきゃって思ったら、

チュリュリンってすんなり生まれたの。

そしたら、痛みもウソのように

消えたし、この子はかわいいし。

生きてるって素晴らしいわ。

私も久々に外に出たし、

気持ちいいわねぇ~。」

晴れ渡る青空を見ながら、この

お茶屋さんの近所に住む15歳の

お姉さんは大きく息を吸い込んでいた。

出産ってかなり大変そうだわ。

でも、赤ちゃんってどうしたら

出来るのかなぁ?


このお茶屋さんのおかみさんも

手伝いに行ったけど、私と小助は

お店のきりもりとお留守番だった。

「体調大丈夫?産後は色々大変って

みんな言ってたから……。」

「大変だけど、好きな人との子どもだから

痛みも我慢出来るし、すごく幸せよ。」

「へぇ~、幸せの結晶、赤ちゃんかあ~。

私も好きな人が出来たら赤ちゃん

たくさん欲しいな。小さくてかわいいなあ。」

そこには竹かごに入った小さな赤ちゃんが

すやすやと眠っていた。


「きゃ~!」

「逃げろ~!イノシシだあ!」

しばらくお客様と話していたら

遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。

「!!」

あまりの突然の事にりんは驚きながらも

姫様と赤ちゃんを守ろうとした。

ドッドドド……。

イノシシがこちらにまっすぐ進んできた。

「おい!りんのバカ!危ないだろう!」

小助に引っ張られ、かばわれるように

イノシシの進路から外された

りんは、体制を崩しながらも

近場にあったホウキを持ち

お客様たちを守ろうとした。


姫様は、赤ちゃんを抱きかかえて

母親に渡したあと、腰の刀剣を

振り上げて勇敢にもイノシシに

向かっていき、一太刀あびせ、

あっという間に撃退した。

「……す、すごい。」

「姫様、ありがとうございます。」

「………。」

周りからは、姫様を称える心からの

賛辞と拍手が鳴り響いていた。


イノシシを撃退した姫様に日の光があたり、

その姿がきらきらと輝いて見えたことから、

お茶屋さんのお客様をはじめ

城下の民衆が姫様のことを

「かがやく姫さま」と呼ぶようになった。

この呼び名が人から人へと語られるうちに、

いつからか「かぐや姫」へと変化

したのだった。

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