第3話 少女皇帝と新しいお友だち
入学式のあと、講堂を出た一団の様子は3つに分かれた。項垂れる皇帝に知らなかったとはいえ無礼を働いてしまったものたちと、皇帝が同級生でどう声をかけていいかわからなくおどおどしている庶民たち、そして普通にしている他国からの留学生と皇帝本人とその付き人である。
「ミアさん。」
「こ、皇帝陛下!さ、先ほどは失礼を……。」
「いいんですよ。だってあなたは、貴族の権威を笠にして年下の少女に無体なことをした貴族子弟に追いやられた私を心配して声をかけただけでしょう?だったら問題ないですよ。それに貴族、庶民関係なく平等にと理事長が言っていたじゃないですか。」
「いや、その理事長はフィーちゃんじゃ――――。へ、陛下、失れ」
「フィーちゃんでいいですよ。ミアさん、お友だちになってくれますか?」
「えっ?」
ミアさんはキョトンとする。そりゃあ雲上の人からお友だちになってって言われたらねぇ。
「私って皇帝でしょ。周りにいる人って基本”皇帝”だからとかしこまってる人ばっかりで、しかも、同世代どころか近い世代の人は殆どいないわけね。で、私が皇帝だと気づかれる前に知り合った人で友達になりたい人には声をかけているの。……どう、かな?」
私がこてんと首をかしげると、ミアさんはわたわたとした後何かを考え込み、そして
「友だちになっても不敬罪にならないでしょうか?」
「そんなこと言った人には皇帝の友人侮辱罪でも作って牢に送りましょうか……。いいですね。ちゃんと法として明文化しましょうか。」
「えっ、えっ。」
予想外の方に話が向かったのでパニックになるミアさん。
「そうですね。皇帝の友人を詐称して色々やる人が出そうですね。なら、皇帝の友の証を作りましょうか。アリス、何か考えて。」
「え、私に振るんですか?……まあ、考えますけど。」
「で、お友だちになってくれますか?」
私はミアさんに再度聞く。
「……庶民の私が友だちになってもよろしいのでしょうか?」
「お友だちになるのに庶民も皇帝もないでしょ。それに、お友だちに敬語もないわね。普通でいいわ。」
ミアさんは少し考えてから。
「わかった。友だちになるわ、フィーちゃん。」
こうして、私たちは友だちになった。
「へ、陛下。私たちも――――。」
「私を庶民だからと言って隅に追いやったのに、皇帝とわかったあと手の平を返して友だちになろうと言う人と人たちと友だちになれますか?」
貴族の女子学生たちが友だちになりたそうに言っているが、そうぶったぎる。簡単に裏切る人物に用はない。
「あ、友だちであろうが無かろうが試験の不正は見逃しませんよ。」
私が理事長としてそう宣言すると頭を抱える人がちらほら。たぶんギリギリ受かった人たちかな?
そうこうしていると、一団は校舎に着いた。
「ようこそ帝立学園へ。私が生徒会長のアルシオン・ベルク・フィリップスだ。よろしく。」
そう言って頭を下げる生徒会長ことフィリップス侯爵の次男。エミリ姉さんのお兄さんだ。そのフィリップス生徒会長が真っ直ぐ私の前に来る。
「陛下、いきなり私用で申し訳ありません。今朝、馬車の中でうちの愚妹が『今晩、皇帝陛下の部屋に遊びに行っていいか聞いてきて。』と言ってまして、いかかでしょうか?」
「まったくエミリ姉さんったら。いいですよと伝えてください。」
「では、その様に。――――さて、新入生諸君。これよりクラス分けだ。と言ってもこれから成績順に呼び出すだけなのだがな……。準備はいいか?」
そう言って周りを見渡す生徒会長。
「名前を呼ばれた者はこちらに来るように。では、まずは首席入学のフリージアさん。」
当然呼ばれる皇帝。
「次にアリスさん。」
「え、私ですか?」
さすが元異世界の社会人。あっさりと次席を取った。なお、この時色々やらかした侯爵子息が前に出ようとして凍りつくことになった。そりゃあ、首席10歳、次席8歳と入学者のうち最年少とその次が席次ワンツーである。年長者として想定外であろう。
「続いてミアさん。」
「なっ、なんか不正でもあるんじゃないか!会長さん!!」
名前を呼ばれて前に出たのが平民の少女のため、侯爵令息の少年が生徒会長に吠えかかる。さすがに貴族として我慢ならなかったのであろう。
「ふむ、君の名は?」
「お、オルスト・フォース・ホエカールだ!次期ホエカール侯爵だぞ!ちゃんと覚えていろよ成り上がり!」
「へぇ、オルスト君か。君が第4位だ。おめでとう。」
「あ、ありがとうございます……って、違うだろ!なんでガキや平民が俺より上なんだよ!不正があったんじゃないか!」
そう捲し立てる次期侯爵ことオルスト君。
「不正はないよ。というか、不正しづらいように試験の解答用紙の通し番号は試験当日までわからないようになっていたし、名前は採点後に照会するようにしてあるんだから。それに、解答用紙自体も不正できないように魔法がかけられているしね。」
「うぐっ。」
理事長で入試首席で皇帝である私が答えると何も言えないようだ。
「では、呼び出しを続ける。デニス君……。」
こうして各クラスのメンバーが決まり、それぞれの教室へと移動し始めるのであった。
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