第2話 少女皇帝、登壇する。
「じゃあ、私は寮に行って歓迎会の準備があるからここまでね。」
「リー姉ちゃんありがとう。じゃあ歓迎会で。」
「うん、またね。」
そう言ってリリーシャさんと別れて講堂に向かっていく。しばらく行くと講堂の近くに新入生が集まっていたのでそこに向かった。
新入生たちは2つに別れていた。一方は貴族のボンボンが集まっており、もう一方は庶民の子供たちが隅に追いやられて集まっているみたいね。
「おい、ここはガキが来る場所じゃないぞ!」
貴族グループのリーダーっぽい男子が私たちに声をかけてきた。
「残念だけど、ちゃんと入試に合格してここにいるのだけど。」
そう陛下は返した。ガキであることに関しては事実なので反論するつもりはないみたい。
貴族グループのリーダーは私たちを眺めて、
「貧相だな。どうせ、庶民のクセに受かってしまっただけだろあっち行け。」
そう言い放って私たちをもうひとつの集まっているグループに追いやる。陛下が皇帝だと気づいていないみたいね。
私は心の中で貴族のリーダーに合掌して陛下と共に庶民グループに向かう。
「大丈夫?」
庶民グループの一人が私たちに声をかけてきた。
「なんだか、今年は皇帝陛下が入学されるから貴族の連中が出迎えようとして私たち庶民を隅に追いやってるのよ。」
別の一人が状況を教えてくれた。……ってことは、あの貴族たちって出迎えようとしていた皇帝を庶民と間違って隅に追いやったって言うの。笑える。
「皇帝だからって庶民を追いやるなんて許されないでしょ。」
「確かにね。でも、あの貴族のボンボンたちがいいところを見せようとして皇帝が頼んでいないのにやってるかもしれないじゃない?」
陛下が笑わないよう我慢をしながらもうひとつの可能性として事実を教えた。
「そうね。それだったら皇帝もマシかもしれないわね。あ、私はミアっていうの。あなたは?」
そう銀髪を一つ結びした少女が名乗る。
「私はフィーって呼んで。」
「私はアリスっていいます。」
私たちも自己紹介をする。陛下は皇帝としては名乗らないみたいだ。あのボンボンたちをギャフンと言わせるつもりですね。
「フィーちゃんにアリスちゃんね。よろしく。」
私たちは握手を交わした。
もうすぐ入学式が始まる時間になり、皇帝が来ないので諦めて講堂に向かう貴族のボンボンたちと共に講堂に入った。
講堂には140人ほどいる新入生と、教師陣と学園長。後方には貴族用の保護者席が用意してある。特に今年は現皇帝が入学するとのことで、貴族の保護者の数が多かった。自分の子供たちが皇帝に無礼を働かないよう――――既に遅かったのだが、目を光らせている。
「全員揃いました。これより新入生の入場です。」
司会の生徒会長の合図で新入生が入場してくる。先頭を歩くのは貴族のリーダーの少年だった。この学園の慣例として、皇族が入学するときは皇族が先頭を歩く。ただし、皇族が何らかの理由でいない場合は爵位が高い人物が先頭になる。彼の家は侯爵家だったため、皇帝や公爵家の子弟が来ていないなら先頭になるのは慣例として正しかった。ただ、皇帝がいることに気づかなかったため先頭を歩いただけだった。
仰天したのは彼の親の侯爵であった。なぜなら、戴冠式で見た少女が後方の庶民の子供と一緒に駄弁りながら入場したからだ。あまりにも想定外のことに固まってしまう。
新入生たちは準備された席に座る。名目上平等なので自由に座れるが、貴族の子弟たちは不在とはいえ皇帝が座るべきもっとも上座を避ける。その行動自体はたいしたものだが、その皇帝は後ろの方で庶民と一緒に座っている。この事実に参加していた貴族の親は天を仰ぐ。そして式は進んでいく。
「続きまして、理事長でありますベリジアス帝国皇帝フリージア・アメジスト・フォン・フィリア=ベジリアス陛下より挨拶があります。」
この学園は帝立なので代々皇帝が学園長を兼任している。そして貴族の子弟は皇帝が入学式に学生としていなかったのだと安堵した。だがその時彼らの後ろで席を立つ少女が一人いた。その立ち上がった少女を見て目を剥く入学生たち。少女は堂々と中央を歩き壇上に上がった。演台は10歳の少女が立つには高すぎるが、生徒会の人が踏み台を持ってきて高さを調整した。
「皇帝で理事長のフリージア・アメジスト・フォン・フィリア=ベジリアスです。皆さん御入学おめでとうございます。若く、才能のある皆さんが入学されることを嬉しく思います。当学園は貴族、庶民関係なく平等にその才能を伸ばす場となっています。皆さん最初は失敗もあるでしょうが、若いうちの失敗はその後の人生の糧となります。私も本年度より理事長に就任することになり至らぬところがあるかもしれません。失敗を恐れず頑張ってください。期待しています。」
そう言ってぴょこっと頭を下げる皇帝。唖然とする新入生一同。どうしたらいいかわからなくなり目を泳がせる貴族の父兄たち。そしてそうなるよねと温かい目で見る教員や生徒会役員たちの拍手を背に元いた席に戻る皇帝。
「理事長を兼務される皇帝陛下の挨拶でした。続きまして新入生代表挨拶になります。新入生代表は本年度入学試験首席のフリージア・アメジスト・フォン・フィリア=ベジリアスさんです。」
笑いを堪えながら新入生代表の紹介を行う生徒会長。その紹介に今座ったばかりの少女――――というか、皇帝が席を立つ。
「ベジリアスさんは最年少入学こそ別の人に譲りましたが10歳の若さでの入学を果たした才女です。この学園生活でその才能を伸ばして世界に名を馳せる人物になってくれるかもしれません。では、ベジリアスさん、どうぞ。」
最年少入学は皇帝に入試を受けさせられたアリス(8歳)である。
演台に戻ってきた皇帝が再び挨拶を行う。もちろん踏み台はそのまま置きっぱなしになっていた。
「本年度新入生首席のフリージア・アメジスト・フォン・フィリア=ベジリアスです。この帝立ベジリアセス学園に入学できて嬉しく思います。これから4年間勉学に励み、いろんな人と交流をして様々な経験を積んでいきたいです。先生方、先輩方ご指導ご鞭撻よろしくお願いします。新入生代表フリージア・アメジスト・フォン・フィリア=ベジリアス。」
今度は少し落ち着いた新入生からもまばらに拍手が起こった。拍手をできなかったのは、自らが起こしてしまった失態に頭を抱える貴族の子弟たちと、皇帝に気安く声をかけ更には皇帝に対する愚痴を言ってしまったミアだけだった。
こうして波乱の入学式は終了した。
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