第13話 国葬、そして……
戴冠式から半月、多くの貴族が喪服を着てリクラウドの離宮跡に集まった。これから合同国葬が行われるからである。喪主は現皇帝フリージア・アメジスト・フォン・フィリア=ベジリアスとリリーシャ・エリッサ・アイランド子爵である。故人は前皇帝一家、及び前アイランド男爵一家とその使用人、宰相、内務卿、財務卿、殉職した近衛兵たちなどである。
離宮跡から2km離れた場所に葬祭殿を建て、そこで葬儀が始まった。厳かな雰囲気で司祭による葬儀が行われる。
司祭が犠牲者の名前をあげ、祈祷を行う。皇族14名、アイランド家10名、アイランド家使用人40名、宰相、内務卿、財務卿、官僚15名、近衛兵76名の御霊を慰める。
葬儀の最終盤に喪主になる皇帝、子爵の挨拶になった。
「本日は先の皇帝、ならびにこのリクラウド離宮災害の犠牲者追悼のために集まっていただき感謝する。」
祭壇の前に私とリー姉ちゃんが立ち、私が挨拶をする。今日は二人とも黒い喪服である。
「子爵は本日ようやく生家の跡地に来ることができた。余も子爵も本日ようやく亡き家族と再会できた。未だに亡骸は土砂の下だが、掘り返して収容するのにはあまりにも土砂が多く、二次災害も考えると無理に行うのは危険であると判断し、離宮跡をそのまま霊廟扱いとすることにした。先帝を先祖代々の霊廟へ移すことは叶わぬが、亡き父も事情を鑑みれば笑って許してくれよう。この地は我が帝国の聖地、そして慰霊の地として整備する予定だ。亡き158柱の御霊を黙祷をもって慰めてもらいたい。」
私たちは後を向き、祭壇の裏に開かれた扉の先に見えるリクラウド離宮跡地に向かって黙祷を捧げた。
全員が顔をあげたのを見計らって、私は演説を再開する。
「余は歴代皇帝が護ってきたこの帝国をより良い国にしたい。だが、余はまだ若輩者である。皆に我が帝国がより良い国になるよう協力してもらいたい。道を誤りそうな場合諌めてもらいたい。皆のものよろしく頼む。」
私が頭を下げ、挨拶という名の演説が終わる。
「あー、疲れた。」
「陛下、ぐでっとしすぎですよ。」
「いいじゃない、この部屋にはリー姉ちゃんとエミリ姉さんとアリスしかいないんだし。」
ここは、離宮跡近くに1ヶ月で造られたアイランド子爵邸のリー姉ちゃんの私室だ。
「ようやく儀式も一段落ついて先の事を考えられるようになったんだから、今だけはゆっくりさせて~。」
「まったく。やっぱりフィーちゃんは皇帝になっても変わらないね。」
「そりゃあ、肩書きが変わっても私は私だよ。」
「本当に、こんな姿をみたら皇帝だって見えませんね。」
そう言ってアリスがお茶を淹れてくれる。
「あ、そう言えばアリス。」
「なんですか?陛下。」
「この前解いてもらったアレ、どうだった?」
「まあ、そこまで難しくなかったですけど、それがどうしました?」
「アレね、帝立学園の入学試験♪」
「……はあぁっ!?」
「ということで、新学期から皆で学園で一緒ね♪」
「「「はああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
「さあ、学園で腹心探しをするわよ。私とアリスは飛び級で入学だからよろしくね。」
「「「ちょっとちょっと待ってぇぇぇっ!」」」
皇帝の暴言に、淑女を忘れ総ツッコミをいれる。
「まず、入学って14歳になる年からじゃありませんか?」
エミリ姉さんが聞く。
「正しくは、『14歳になる年に入学できるよう試験を受けるべきである。』なので、試験はいつでも受けることがでるよ。」
本来の目的は主従関係の都合で入学を遅らせるためなんだけど、別に飛び級を否定はしていないので問題ない。
「じゃあ、皇帝が入学するのは問題じゃあ?」
アリスが聞いてきた。
「リー姉ちゃんみたいに若くして当主を継がなきゃならないときのための制度があるから問題ないわね。貴族の当主ができて、皇帝ができないということはないわよ。」
そもそも、帝位が未就学の人物に回ってくることが想定外だし、そんなことは明文化していない。
「護衛とかはどうするんですか?皇帝が学校に通うことなんて前代未聞ですよ。」
「護衛は近衛騎士に任命した2年の先輩がいるわ。それと、私付きの侍女に暗部から人を入れるから問題ないわね。」
そこは、皇帝として特例を作るつもりだ。まあ、皇太子や他国の王位継承者が入学時のシフトを流用すればいいだろう。
「皇帝としての執務はどうするんです?」
エミリ姉さんが聞いてきた。
「貴族の当主が在学中に使える執務室があるから、そこでやるわ。というか、リー姉ちゃんにも執務室があてがわれるわよ。」
「え、なんで?」
「そりゃあ、アイランド子爵であるリー姉ちゃんにも、貴族として執務をしなきゃならないから、執務室が与えられるに決まってるでしょ。」
「あぁそうだった……。」
項垂れるアイランド子爵ことリー姉ちゃん。
「ちなみに、フィリップス卿には学園に自由に出入りできる権限が与えられるわ。」
「なんでお父様が来るんですか?」
「だって、フィリップス卿は内務卿としての仕事で私に会いに来なきゃならないし、アイランド子爵の後見人としてもリー姉ちゃんに会いに来る必要ができるから、学園に出入りできなきゃ仕事にならないじゃない。」
「「たしかに!」」
姉さんたちの声がハモる。
「この秋からの学園生活、楽しまなきゃ♪」
こうして、前代未聞の皇帝が学園に通うという事態が起こってしまった。
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これにて第1部の終了です。
第2部「学園編」をおたのしみに。
再開は他の作品との兼ね合いで、現状未定です……。
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