第167話 アンナ VS ニア(前編)

 夏希達とデルパンド男爵一行は夜通し大宴会を楽しんだ。(さすがにデルパンド男爵は途中で疲れはてて寝ちゃったけどね)


 そして今は朝。デルパンド男爵と召し使い3人は途中で寝たので元気に朝食を食べている。そして夏希組で唯一寝ていたアンナがその4人に混ざって楽しく話をしながら同じ朝食を食べていた。


「ほほー、アンナちゃんは6歳なんだな。ワシの孫娘ジュナと一緒じゃな。是非とも友達になってやってくれ」


「お爺さん、何を話してもお顔が怖いね。もっと笑顔でお話しないとジュナちゃんに嫌われるよ?もっとこう「いー」って口を横に広げるんだよ。「いー」ってね」


 アンナはデルパンド男爵に向かって口の両端に指を入れて引っ張っている。それを見て真似をするデルパンド男爵の顔は末恐ろしい。


「そんなんじゃダメだよ。ダメダメー」


「そうかー、ダメダメかー」


 2人の会話だけ聞くとほのぼのとして楽しそうな感じだが、見てみると幼女が脅されているようにしか見えない光景だ。


 そして徹夜組の様子だが、皆で倒した魔物の後処理をしているところだ。ネネとラグ、見張りを除いた男爵の私兵、冒険者組は倒した魔物を集め必要な処理をしてから不要な部分を掘った穴の中に放り込み燃やしている。

 そして夏希とスズランは、皆が集めたオークやお金になる魔物を誰が倒したかをチェッしながらアイテムボックスに放り込む。その作業は二時間ほど掛かり徹夜組は疲れ果てていた。


「はー、やっと終わった。みんなお疲れ様。これでも飲んで疲れを癒してくれ」


 夏希はネットスキルでリポピータンGを購入してみんなに配って歩いた。その中でネネとスズランはビール希望だ。(お前ら昨日からずっと飲んでるよな?)


 そして夏希は朝食を済ませて紅茶を飲んで寛いでいるデルパンド男爵の元へと向かった。


「デルパンドさん、おはようございます。護衛の方に手伝って頂き助かりました」


 夏希は召し使いから椅子に座るように進められて男爵の向かいに座る。そして差し出された紅茶を一口飲んで一息つくのであった。


「いや、こちらこそ色々とお世話になった。お陰で楽しく過ごせたぞ。孫娘にも可愛らしい友達も出来たしな」


 デルパンド男爵はそう言って、アンナに何度も練習させられた「いー」スマイルを夏希に披露した。(じいさん、それダメダメだよ)


「それでこれから隣の街に寄ってからトバルの街に戻るんでしたよね?」


「そうじゃ。だからこの先で別れる事になる。トバルに着くのは夏希殿より1日遅れになるが出来ればワシが戻るまでトバルに居て欲しい。是非ともお礼をさせてくれ」


「2日ほど滞在する予定でしたから大丈夫ですよ。こちらから戻った事を確認してお邪魔させてもらいます」


「それは助かる。それでは道中問題ないと思うが、気を付けてトバルの街まで行ってくれ」


 夏希とデルパンド男爵は固い握手をして各々出発の準備に取り掛かるのであった。それからは何のイベントもなく出発の準備も整い、デルパンド男爵一行を先頭に分かれ道まで一緒に進んで行った。


「夏希殿、馬車の車輪だが助かった。あれが無ければワシは馬に乗って行くしかなかったが、それでは残る召し使い達が心配だったのだ」


(あー、ワガママ爺さんだと思ってたけど、思いやり爺さんの勘違いだったのね)


「いえ、しっかりと代金を頂いてますからね。反対にこんなに頂いてすいません」


 馬車の車輪は金貨10枚だ。購入金額は金貨2枚と銀貨5枚なので貰いすぎだ。


「ははは、さすがに金貨50枚は払えんがな」


 そしてデルパンド男爵は「いー」スマイルを夏希達に見せたあと、御者に馬車を進ませるよう指示を出し分かれ道を進んで行った。


「それダメダメだよー!」


 アンナのキツい言葉を背に受けながら。


「よし、俺達も出発だ!ネネさん、今日の夜は普通に寝ますからね!」


 そして夏希達もトバルの街に向けて出発する。全く出番が無く不貞腐れているシルバーが引く馬車に乗って。


 ーーーーーーーーーー


 そして翌日の夕方前にトバルの街に到着した夏希達。昨日の夜は早めに寝たので元気いっぱいだ。


「やっと着いたな。なんか久々だけど戻って来たって感じだ。ここは俺の第2の故郷みたいなもんだからな」


 夏希はシルバーが引く馬車で門をくぐり抜けて荷台から懐かしい街並みを眺めていた。そして夏希の腕に両手を絡ませているアンナが小さな声で言った。


「ここが夏希お兄ちゃんを虜にしたメス猫が居る街なのね。確か冒険者ギルドの受付嬢でスタイル良くて、偽物の「にゃ」を使って惑わす悪女ニア。首を洗って待ってなさい。私があなたを倒して夏希お兄ちゃんを取り戻すから」


 誰もアンナには教えていない筈のニア情報。それを何故か詳しく把握していた。


 街に着いてほんわかしている夏希。その隣で闘志を燃やすアンナ。そしてその2人の後ろで両手で口を塞ぎ声を殺し、腹を抱えて転げ回っているスズラン。


 そう、犯人はスズランだった。

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