第166話 森の中で

 アンナ命名の『愛の防御壁。アンナと王子様の憩いの場は鉄壁なの!』を造り上げ、その中にデルパンド男爵一行を招き入れた夏希は宴の準備を始めた。


 それはネネからの要望があったいつもよくやるバーベキューだ。夏希は慣れた感じで次々にアイテムボックスから必要なものを出していく。そしてそれをネネとラグがまた手際よく並べ広げ準備していった。

 そしてアンナが料理を始めようとするのをスズランが苦笑いで止め、違う事に興味を持たそうと頑張っていた。(スズラン、ナイスだ。あとで好きなもの買ってやるからな)


 さっきまで使っていた6人用テーブルを再度並べ直してデルパンド男爵達を座らせてビールとツマミを置き、準備が出来るまで寛いでもらう様にする。(冒険者達、お前らはそこら辺を見回りしてろ!この呑んだくれ達め!)


 その呑んだくれ冒険者達は夏希を見てヒソヒソと話をしていた。


「おい、あの男、『危険人物暴れるくん』じゃないか?」


「ほ、ほんとだ!気が付かなかった。や、ヤバくないか?俺達何もせずに貰った酒をガバガバ飲みまくってたよな?」


「「どうするよっ!」」


「と言うことは、ここに居るあの人達は『危険人物暴れるくんファミリー』か!」


「俺達死んだな‥‥‥」


 そして酔いは既に冷め、落ち込み暗い顔をする冒険者達。これはマズイと名誉挽回の為、暗闇の中を灯りも持たずに走り回り、「僕達護衛のお仕事頑張ってます!」と猛アピールする。


(お前らどうしたんだ?急に走り始めて。もう入り口を岩で塞いだから目の前グルグル周りやがって。うっとうしいんじゃ!)


 夏希の反感を買っているとも知らずに得意気な顔をする冒険者達は、同じくうっとうしいと感じたネネに殴られ蹴られていた。


(怖えー、ネネさんやっぱ怖えー)


 そして準備は整い森の中の大宴会が始まった。本日のメイン食材はワイバーンとビッグボアの肉だ。ワイバーンの肉は以前厚めに切って焼き肉のタレに漬け込んでおいたもので、ビッグボアは脂身が多いので野菜を巻いた肉巻きにしている。


 夏希とアンナでコンロに乗せた網に豪快に肉を撒き散らし焼いていく。タレに漬け込んだワイバーンの肉から香ばしい匂いが出てとても美味しそうだ。そして肉巻きも、焼いた肉の油が野菜に溶け込み食欲を誘う。どちらもビールとの相性は最高だろう。


「デルパンド男爵。これはワイバーンとビッグボアの肉です。ワイバーンの肉は秘伝のタレで

 味付けしてますが、この小皿の同じタレを追い付けして濃い目の味で食べると旨くてビールが進みますよ。あとビッグボアは獣人村の野菜に巻いて焼いてます。肉も旨いが野菜が最高なのでこれも食べてみて下さい」


 夏希はそう言って焼けた肉を大皿に入れて、デルパンド男爵達の前に次々と並べていった。もちろんキンキンに冷えたビールも追加で出していく。


「おお!これは旨そうだ。では遠慮無しで頂くとしよう。さあ、お前らも食べなさい」


 デルパンド男爵は召し使いや護衛の私兵にも一緒に食べろと促した。そして満面の笑みで「これは旨い!」と叫び、またビールをグビグビと飲んで「ぷはー、最高だな!」と周りの者と言い合っていた。


 そんな中でネネは岩の上で外を見ていた。もちろん左手にワイバーンの肉の塊を串に刺したものを持ち、右手にビールを持ってだ。

 このネネ考案の防御壁は、内側に上に登れるように数ヶ所階段を設けている。そしてその上は鉄製の柵が付いていて見張りが出来るようになっていた。

 また、堀り込みしている部分もあって、そこに入れば敵からの攻撃も避ける事ができ、スライド式の分厚い鉄の扉を開けると横長の穴が開いた2枚目の分厚い鉄板が現れ、そこから弓や槍で攻撃する事も出来るのだ。


 まさに移動式の要塞である。


「おお、やっと来たぞ!私の酒代が!」


 そのネネの言葉に興味を持った者達が次々と岩の上に上がっていく。その中には夏希とスズランも居た。それも先頭で。

 そして皆が見る防御壁の外側にはゴブリンやオークが群れを成して向かって来ていた。


「ネネさん、もしかして魔物を誘き寄せる為にいい匂いのするバーベキューを要望したの?食べたかったからじゃ無かったの?」


 夏希は疑いの目でネネを見る。そしてネネは胸を張って答えた。


「はぁ?なに言ってんだ?魔物を引き寄せる為に決まってるだろ。当たり前な事を聞くな!それよりももっと肉を焼け!なんなら焼き肉のタレを炭にぶっ掛けろ!ほら、モタモタすんな!街に着くまであともう1日しか夜は来ないんだぞ。稼ぎ時を逃すな!」


 そう言ってネネは弓を持ってオークに向かって射ちまくる。「ヒャッハー、入れ食いだ!」と喜び叫びながら。

 そしていつの間にかそのネネの隣で黒雷を撃ちまくるスズランは、「オークがビールに見えるのじゃ!」と叫んでいた。


(お前らいいコンビだよ‥‥‥)


「お主らは面白い事をするな。今日は美味しい肉と酒を貰い、そして面白い催し物も見させて貰った。街に来たらワシを訪ねてこい。このお礼をしたいからな」


 夏希の隣にデルパンド男爵がビールを持って立ち、怖い笑顔でそう言った。(この笑顔。いつかは慣れるんだろうか)


「冒険者野郎共!お前ら反対側を見てこい!もしオークが居たらお前らの取り分だ。その代わりゴブリンの後始末を頼むぞ。そのまま放置しておく訳にはいかないからな。もちろんゴブリンの魔石は全部やる」


「「おおー、マジか!任せとけ!」」


 飛びきりの臨時収入に喜ぶ冒険者達。だが後で後悔する事になる。この夜に出て来て討伐されたゴブリンは、なんと200を越えていた。そして密かにアイテムボックスの中で眠っていた討伐したゴブリンを、バレないように撒き散らす夏希が居た事に。(初心者ならともかく中堅以降は解体して魔石だけギルドで売るのが常識だって言われたら貯まってたんだよね。あー、スッキリした)

 

 そしてこの宴(?)は朝まで続くのであった。

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