第165話 デルパンド男爵と夏希達(2)
新たな出会いをした夏希。その出会いは少し変わっていたが、今ではそんなことを感じさせないほどに賑わっていた。
「おお、デルパンドさんには孫娘がいるんだ。それも息子さんそっくりの。良かったね、隔世遺伝してなくて」
「ぐふっ、ジイさんにそっくりだったら自殺してたかもなのじゃ。そんなぶっとい眉毛の幼女なんて見たことないのじゃ」
相変わらずズケズケと発言する夏希とスズランは、ビール片手に大きなキャンプ用テーブルの椅子に腰掛けて話している。
その相手のデルパンド男爵は向かい側にゴランゾと共に座り、同じようにビールを飲みながら苦笑していた。
このテーブルは6人用を2つ並べて設置しており、夏希側はネネ、アンナ、夏希、スズラン、ラグが座り、男爵側はデルパンド男爵とゴランゾが真ん中に座り、その両脇に残りの私兵3人が別れて座っている。召し使い3人は男爵の後ろに仕えようとしていたが、自前のテーブルに座らせていた。(案外優しいね)
そして残りの護衛冒険者6人は夏希達の隣にキャンプ用テーブルを設置して、そのテーブルにツマミとビールを放り投げ勝手に盛り上がれと放置している。(周りの警戒はどうするのか?そんなの俺達に敵う魔物はこの辺りには居ないから心配無用だぜ!)
「ふふ、息子も結婚前だと言うのに街娘のアリアを孕ませて、本来なら叱るところだが今となっては「よくやった」と誉めてやりたいくらいだ。まるで息子の小さい頃を見ているようで仕事で他の国や街によく行くが、トバルの街に戻るのが楽しみなのじゃ。戻る度にその孫娘、ああジュナと言う名前なんだがな、そのジュナがどんどん可愛くなっていくんだ」
そう言ってるデルパンド男爵の顔は笑っているようだが凄まじく怖い。アンナが自分の着ているぶたさんパーカーを脱いで着せようとしているくらいに。
(なんか違う動物のパーカーを買ってみようかな?例えばアルパカとか。ぶふっ!)
「それでデルパンドさんは今回はどこに行ってたんですか?今は仕事帰りなんですよね?」
夏希はアルパカパーカーを着た男爵を想像したのか含み笑いをしながら問い掛ける。
「ああ、隣の国のアンデルの街でスタンピードがあってな、その復興の様子を見に行ってたのだ。話では脅威となる魔物が多く出たようだが精鋭の冒険者が多数現れて見事に防いだそうだ。ワシが見に行った時にはもうスタンピードの名残はほんの僅かしか見当たらなかったほどじゃ」
(ん?鼎達が居る街だな。もしかして精鋭の冒険者って鼎達のことかな?)
「デルパンドさん、その精鋭の冒険者って誰だか判りますか?」
「ああ判るぞ。確か乙女騎士団と呼ばれていたな。ワシが行った時には王都に向かっているとかで居なかったが、その仲間の「飛翔の昴」と「小さな聖女菜々」の2人には会って話をしてきたぞ。まだ成人前だというのに立派に戦い活躍したようで誉めてやった」
(おー!あの2人、2つ名がついてるじゃん。なんでメールで教えてくれなかったの?さっそく今晩にでも2人にメールしてみるかな)
「その乙女騎士団と子供2人は私の仲間なんです。昴と菜々は元気そうにしてましたか?」
「おお!そうなのか。ああ、元気だったぞ。男の子は確か「昴の宅急便」とやらで街の中を飛び回ってるそうで、女の子は街の人気者になってお菓子などをよく貰っているらしいぞ。一緒に居た母親が面白おかしく話してくれた」
「そうなんですか。情報のやり取りはしてるんですが、まだ会いには行けてないので様子が判って嬉しいです。ありがとうございます」
デルパンド男爵からの話で昴と菜々が元気で居ることが判り、微笑みが絶えない夏希。それからもアンデルの街の様子を聞いて盛り上る夏希であった。
そしてネネとラグは護衛冒険者6人組の席に移って盛り上っている。(お前ら一応護衛なんだけど飲み過ぎじゃない?)
そして時刻はもう夕方になり、今日はここで野宿することになった。
「夏希、例のアレを出してくれ。アンナが命名した、あーなんだったか?長すぎてよく判らんヤツだ。まぁ、とにかく出せ」
酔いつぶれたラグの頭を小突きながらネネが夏希に何かを依頼した。それは今回の旅の為にネネが準備したものだ。
「あー、『愛の防御壁。アンナと王子様の憩いの広場は鉄壁なの!』ですね」
そう言って夏希は苦笑いしながら道から少し外れた平地にアイテムボックスから次々と大きな四角く切り取られた岩を取り出して綺麗に隙間なく並べ始めた。
その岩は1つが3m角に切り取られたもの。夏希が岩山に行って水刃を使って苦労して切り取ったものだ。それをネネが職人を準備して色々と小細工を施したのだ。
その作業はただアイテムボックスから取り出して並べるだけなのですぐ終わる。大岩を置くスペースが足りなくて、水刃で平地を増やす作業の方が時間が掛かったほどだ。
そして出来上がった防御壁は一辺に岩を5個並べた正方形のスペースだ。中は9m✕9mと十分過ぎるほどの広さ。皆が入る為に一ヶ所だけ大岩を後で置くように開けている。
その出来上がった防御壁を見たデルパンド男爵一行は作業の時からアゴが外れちゃうよ?と思うくらいに口をポカンと開けて立ちすくんでいた。(アンナちゃん、その冒険者の口にポケットに入ってたお菓子を詰め込むのはやめようね。スズラン、お前もだ)
夏希はその集団に向かって言った。
「さあ、これから夕食を兼ねた宴会を始めるぞ。さっさと中に入って準備しようぜ!」
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