第159話 演奏会の練習(2)

 夏祭りに向けて年少組を集めて演奏会の練習をする事にした夏希。アンナ、ルル、コンテに集めてもらったのは10才以下の14人。と、畑仕事で薄汚れた背の低いオッサン達7人。(いや、お前らは戻って仕事しろよ)

 夏希は集まってうま○棒を食べている子供達に声を掛けた。


「おーい、みんなこっちに来てくれ。これから何をするのか説明するぞー」


 その呼び掛けで最初にやって来たのは獣人村のファッションリーダー女の子三人組だ。


「夏希さん、おはようございます。アンナちゃんが面白いことすると言ってましたが本当ですの?期待してますからね?」


 そう言ったのは、うさぎ族10才のジュリアンだ。おしゃれ好きで若干ツンデレな彼女は密かに夏希に恋している女の子。言葉とは裏腹に頬を少しピンク色に染めている。


「気持ちよく寝てたらアンナちゃんにグーパンチで起こされたにゃ。ちっちゃいのに凄い力が強いからまだ頭が痛いのにゃ」


 その頭を撫でながら歩いてくるのは猫族9才のカルネだ。ニアの『ニセにゃ』と違って本当に語尾に『にゃ』を付ける女の子。そしてその横を「大丈夫わん?」と言いながら歩くのは犬族9才のカナリアだ。


 この三人組が獣人村の女の子達の取り纏め役でもある。今もその三人の後ろに3人より幼い4人の女の子が付いて歩いて来ていた。その先頭に立つジュリアンに夏希が挨拶する。


「ジュリアン、おはよう。今日は楽器を使って演奏の練習をするんだ。幼い子が多いからジュリアンが仕切ってくれるのを期待してるよ。よろしく頼むな」


 夏希のその言葉に真っ白のうさミミをピン伸ばし上機嫌になるジュリアン。


「わ、私に任せれば問題ないわ。夏希さんは私を頼りにしてるのね。ふふふ」


 後半の言葉は小さな声で言っていたが両隣に居たカルネとカナリアには聞こえており、2人はお互いに顔を見合わせて微笑んでいた。


 その女の子達と話していると、ネネの一人息子8才のカイルがコンテを横に従えて、3人の幼い男の子を引き連れてやって来た。これで年少組が揃ったことになる。(女の子9人と男の子5人の計14人だな)


 子供達の前には長机に並べた楽器とDVDプレーヤーが置いてあり興味深く見ている。


「まずは何をするかだが、ここを見てくれ。お前達がこれからする事が判るから」


 夏希はそう言って「きらきら星」の演奏会のDVDを再生する。そのDVDからは約20人程の子供達がピアニカを中心として様々な楽器で演奏する風景が映し出された。


「おい!これすげーぞ!ちっちゃい箱にちっちゃい人が閉じ込められてるぞ!」


「夏希!おめぇ、それはやっちゃあならねぇぞ。子供達を閉じ込めるなんて犯罪だ。今ならまだ間に合うから解放してやれよ!」


 夏希に向かって話し掛けてきたのは子供達ではなく、ルルに連れてこられた背の低いオッサン達だ。子供達はカイルとコンテがバーベキューの時に100インチスクリーンでアニメを見て、それを自慢気に言い回っていたので皆知っている。なので演奏する音楽や楽器に夢中になっているようだ。


「お前らいつまで居るんだよ。さっさと畑に戻れよな。母ちゃんに言いつけるぞ?」


 そう言われた7人のオッサン達はバツが悪そうな表情になりながらも小さな声で夏希に訴え掛けてくる。


「いや、もしかしてビールが出てくるかと思ってな。ガハハハ」


「夏希よう。サフィニアでビールも販売してくれよ。サフィカード買って支払うから。なっ、いいだろ?」


 サフィニアでは酒類の販売はしていない。何故ならメインは子供達の為としているお店だから。酒類なんか販売すると酒飲みの溜まり場になるのが目に見えているからだ。


「いや、酒類は販売しないからな。宴とか祭りの時には販売するから我慢しろよ」


 夏希がそう言うと、7人のオッサン達はシブシブと店先にあるテーブルに戻り椅子に座って世間話を始めた。(お前ら近所のオバチャン連中か?なんで畑に戻らないの?)


 そんな事を思ってるとDVDの演奏が終わったようで、子供達が賑やかに話し始めている。その中には机の上に並べていた楽器に手を出そうとしている子達もいた。その1人がカイルで両手にマラカスを持っている。


「夏希兄ちゃん、俺はこれがいいな!このシャカシャカするやつ。あっちで真冬姉ちゃんが変な服着てちょび髭生やして踊ってるの面白そうだもん。あの格好させてくれるんだろ?」


(あいつまだ踊ってやがった。少し自慢気な様子が憎たらしいな!)


「カイル、あれはダメなやつだから見るな。演奏会であの格好はしないからな」


 夏希にダメと言われたカイルはコンテを連れて2人で他の楽器を選び始めた。そして次に夏希に声を掛けてきたのは幼い女の子四人組だ。その後ろで猫族のカルネが居て4人組の面倒を見ていたようだ。


「夏希お兄ちゃん!私達これにするの!あそこでスズランお姉ちゃんがお口でお花を噛んでヒラヒラの赤い服を着て踊ってるのが素敵なの!あれがいい!」


(スズラン‥‥‥お前いつの間にその服買ったの?それにサフィニアを勝手に切り取るなよ)


「あれはダメな見本だから見るな。あの服で演奏会はしないからな。因みにあそこで踊ってる真冬お姉ちゃんもダメだからな」


「「えー、可愛いのにー」」


 夏希の言葉に幼い女の子四人組からブーイングが起こり、その後ろで見ていたカルネも「ダメなのにゃ‥‥‥」と項垂れていた。


(えーと‥‥なんか衣装を作った方がいいのでしょうか?)


 なかなか練習するところまで進まない事に苦悩する夏希であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る