第158話 演奏会の練習(1)

 約1ヶ月後に夏祭りを開催する事になり、夏希はさっそく準備に取り掛かった。


「まずは演奏会の練習を始めるかな。最初は年少組と年長組に分けてやった方がいいな。教えるの俺しか居ないしな」


 夏希はそう考えると年少組を集める為に助っ人を呼んだ。


「コンテ、ルルちゃん、アンナちゃん、ちょっと集合ー!」


 夏希のお店「サフィニア」の店先に出しているテーブルに座って三人を待つ夏希。その三人はお店で店番と言う遊びをしていた。


「「はーい」」「はい喜んで!」


 可愛い返事のアンナとルル。そして何処かの居酒屋の店員のような返事をするコンテ。


(コンテ、お前は日本人か?)


 そのコンテは猛ダッシュでやって来る。そしてアンナとルルは手を繋いでニコニコしながらやって来た。(はぁ、癒されるねぇ)


「君たち三人にこれから任務を与える。村に居る10歳までの子供達をこのお店に連れてくるのだ。来たらうま○棒を一本貰えると言ったら喜んで来るだろう。判ったか?」


 それを聞いたコンテが敬礼をして言った。


「了解しました!私は女の子を担当します。アンナちゃん、ルルは男の子を頼むぞ」


 女の子大好きコンテ六歳は欲望丸出しの笑顔で答えるのであった。そしてコンテは二人の返答を待たず走って行った。


(ぐぬぬ、人選を誤ったか‥‥‥)


 そしてアンナもコンテの真似をして敬礼し、それを見ていたルルは両手で敬礼をした。


「了解しました!アンナはちっちゃな男の子を集めます」


「しまつた!ルルはちちのあそこをあーします」


(ルルちゃん?父のアソコを「あー!」するの?それって痛いやつ?それとも‥‥)


 そしてアンナとルルは二人円陣を組んで何やら相談すると、それぞれ違う方向に走って行った。(二人とも頑張れよー)


 さて、俺は楽器の準備をするかな。


 夏希は長テーブルをアイテムボックスから2つ取り出して、その上に楽器を並べ始めた。

 その楽器はタンバリン、トライアングル、カスタネット。あまり難しいのは時間が無いので諦めた。そして年長さんはピアニカ隊になってもらう予定だ。


 獣人村で10歳以下の子供は確か14人くらいだったと記憶してるので、楽器の種類もこのくらいが丁度いいだろう。


 夏希は並べた楽器を見て懐かしく思い、1つずつ手に取って音を鳴らしてみた。(うん、予想通りの音だね。懐かしいな)


「おお、なんか面白そうな物が並んでいるのじゃ。なんで夏希はワレを呼ばんのじゃ!」


 ペンギンパーカーを着て走ってくるスズラン。そして影のようにスズランの後ろに付いて走る真冬が居た。(ああ、面倒な奴らが来た)


 そして長机に並べている楽器を手当たり次第に鳴らしまくるスズラン。カスタネットを両手にはめて軽快なステップを踏む真冬。その真冬の口には店先に咲いているサフィニアを咥えていた。(お前はフラメンコ嬢か!それとサフィニアを切るんじゃない!)


「この三角でチンチン鳴るのが面白いのじゃ!この太鼓に鈴が付いているのもは、どう使うのじゃ?夏希!早く教えるのじゃ!」


 夏希は目の前で騒ぎまくるスズランと無言で踊りまくる真冬を無視して次の準備に取り掛かった。それはポータブルDVDだ。これで演奏しているのを見れば判りやすいだろう。

 その為に演奏見本のDVDをネットスキルで何点か購入し、ポータブル電源に繋いで再生してみた。そしてポータブルDVDから流れてくる音楽は「きらきら星」だ。


 ピアニカの伴奏がメインで鈴の音が流れ星を連想させる。カスタネットで演奏にメリハリが付き、トライアングルの音で締めくくる。

 DVDではマラカスもあり、何気にいい雰囲気を作っていた。(マラカスもありだな)


 夏希は追加でマラカスを購入して長机に並べる。そしてスズランと真冬がすかさず奪い取っていく。(お前ら‥‥‥‥‥)

 その真冬はメキシカンな麦わら帽子を被り、ハの字の付け髭を生やしてマラカスを鳴らしていた。(いつの間にガイモ君で買ったの?)

 そしてそれを見たスズランが真冬に「ワレにも買ってくれ!」と叫んでいた。


(もうお前ら家に戻れよ。邪魔なだけだ)


 そんなドタバタをしていると、アンナが幼い子供達を引き連れて戻ってきた。


「夏希お兄ちゃん、いっぱい連れてきたよー!まだ寝てた子も居たけどアンナのグーパンで叩き起こしたの!」


(いや、それは駄目だろ?)


「おお!さすがアンナちゃんだ。助かったよ。ありがとうね」


 夏希がアンナの頭を撫でながら誉めると、満面の笑みをして「ふふん」と言って胸を張り、上機嫌なアンナであった。


 そしてその後すぐに「キャーキャー」言いながら女の子達がやって来た。その女の子を呼びに行ったコンテは何故か頭にタンコブが出来ている。(お前、なにをしたんだ?)


「みんな来てくれてありがとう。あとルルちゃんが呼びに行ってるから、もう少しだけ待っててな。ほら、約束のうま○棒をあげるしジュースもサービスだ」


 夏希がそう言ってアイテムボックスからうま○棒とジュースを並べると、子供達が群がって来た。そしてその中に居たカイルが話し掛けてくる。


「なあ夏希兄ちゃん。村の10歳までの子供達を集めてるんだよな?ここに居る子供で全員揃ってるぞ」


「えっ!そうなの?それならルルちゃんは誰を呼びに行ったんだ?」


 夏希が不思議がってると、遠くからルルちゃんが走ってくるのが見えた。そしてその後ろには、大勢の背の低いオッサンが走っていた。


(ルルちゃん‥‥‥確かにちっちゃいけど‥‥‥年齢が途轍もなくオーバーしてるよ‥‥‥)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る